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都築さんの愚痴

僕と都築さんは、ファミレスで定食を食べた後、コーヒーを飲みながら、

英会話学校の事を聞いた。


期間は10日間。年末の12月25日~29日、明けて1月6日~10日まで。

一日3時間の基礎コースと2時間のビジネスコースのかけもち。

今は、企業でも英語力が重視されるようで、こういう集中コースも多いのだそう。


「学校のパンフはこれ。もう予約は入れてあるから。代金のほうは事務所持ち。

研修代で落とすそうだ。山崎君が通う間だけ東京の家に寝泊まりさせてほしい。

申し訳ないけど、交通費は、そっちで立て替えておいて。あとで払う手続きするから。」


僕は実は詳しい予定はこれからなんだ。わかってるのは、西師匠の都合のいい時、

随時連絡して、レッスンを受ける。今日は師匠の用事のある日と正月休みを

聞いただけなんで、詳しくはこれから。


「じゃあ、僕も山崎の予定にあわせて24日に東京に出てきます。

正月は帰りますが、僕はセンター試験があるので、その日に間に合うように

帰ります」

あっと、冬だから吹雪で運行中止の時もあるし、もっと余裕を持つべきかな。

本当は、もっと東京で西師匠のピアノ特訓をうけたいんだけど・・

センター試験が終わった後、学校の先生に相談してみようか。


「ところで都築さん、事務所のほうはどういう感じですか?」

都築さんの事だから、上手くこなしてるだろう。

僕は、おかわり自由だけど、おいしいとはいえないコーヒーを、

砂糖でごまかして飲んだ。

カップルや家族連れが多いなかで、男二人は、考えてみると目立つかも。

都築さんは、僕の質問に、ううmと複雑な顔をしてる。

僕に言いづらい事かな


「事務所の仕事は、なんとかなる。英語も不自由ないし、ただ問題は

”敵は身内にあり”みたいな・・・」

苦笑いする都築さん。男の僕からみれば、若干、頼りなくみえるその顔も

魅せられるものがあるのか、チラ見してる女性がチラホラと。

そういえば、まだ独身だっけ。もし父のマネージャーの仕事なんか任されたら

忙しくて、結婚どころか、相手に出会う時間もなくなるかも。


「敵は身内って・・もしかして父がやらかしましたか?」

「裕一君からチラっとは聞いていたけど、あそこまでとは・・

僕にはまだまだマネージャーは無理だね。フォローしきれない。

まず、仕事の予定を入れても忘れるのは常だし、仕事先でも 時々

フラっとでかけて迷子になるらしい。


事務所での最初の仕事は、僕は、音楽雑誌の上野先生へのインタビューに立ち会う事。

予定の時間に、上野氏来ないんだ。

これには僕はびっくりしたね。先方とアポイントメントを

とった場合を含め、仕事では時間厳守なんだけどな。普通は。

どこにいたと思う?君のお父さん。セントラルパークでピクニックだよ。夫婦二人。

上野先生、携帯の電源、切ってやがって、奥さんのほうにかけてわかった。

次の日から上野先生、ツアーの予定が入ってるので、その日しかないという事で

急遽、セントラルパークでやってもらったよ。そのほうが近かったしね。


柿沢さんには、えらく怒られたよ。”かならず事前事前に行動を把握しておく”って

初歩なんだけどね、当日の朝、確認入れたから大丈夫と思ったんだけどな。

先生に問い詰めたら

”いや~、天気がいいし二人で公園でノンビリしたいねって話してて、

忘れてました。”

唖然としたよ。前の付き人さんが辞めたのもよくわかる」


ああ、肩身が狭い・・母はもっと天然なんですって言えないな。


都築さんは、あと、いろいろ愚痴っていた。おもに父に関してだ。

でも、愚痴りながらも楽しそうだ。

よかった。できるなら、父を見捨てないでください。

せめて僕が大学を出るまで・・


ー・-・--・--・-・--・-・-・--・-・--・--・-・--・-・

都築さんと別れた後、僕は夜中まで練習に励んだ。

せめて高校一年生の後半くらいからでも、本格的にはじてたら?

いやいやいやいや。それはない。

部活や勉強、学校行事、どれもあの時の僕には必要な時間だった。

あの楽しい、たまに苦しい思い出がなかったら、僕は今のピアノの練習という

受験勉強には耐えられなかったと思う。

でも、高2の時、僕は本当に真剣に練習してたんだろうか?

いや、真剣にはやっていたんだ。

ただ自分の立ち位置を知らずに頑張っても、練習してる曲の意図を自分で納得

しなければ、真剣さの効果は半減するんだ。


練習が終わったあと、僕はベッドでグダグダと考え寝付かれなかった。

そういえば山崎がきたら客間で寝泊まりしてもらうか、とか考えるうちに寝てしまったらしい。


北海道にもどり、釧路空港から外へ出ると、空気が違うと、改めて思う。

今日は快晴。山は紅葉は終わり、湿原は枯草色になって寂しい風景だけど、

空は、高く明るい青で、風が吹き抜けてる。

東京で思い悩んだ事も、吹き飛んで心が0になる心地。


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