音楽室で
学校へは、自転車通学。5月とはいえ、肌寒い風を感じながら、僕は、ピアノ室の女の子”が好きな曲を、考えたりしてる。
家につくと、夕暮れ時、周りからも自宅からも、おいしそうなにおいで、お腹がなった。
夕食は、いたって質素でかつ、とてもおいしい。今夜は絹さやとじゃがいもの味噌汁、ホッケの開きの焼いたもの。考え事は、一時中断。食欲優先だ。
”おいしい”を僕が連発するので、祖父は、いったい東京では何を食べさせられてきたんだと、いぶかった。「こっちでは、食材が新鮮なんだよ。絹さやは、じいさんの畑でとってきたもんだし」と、祖母が代わりに答えた。食後、祖母の目の合図で僕らはピアノ室に向かった。祖父は、不思議そうな顔をしてたが、無視した。祖父は"見えない”だろうし
「この子は、かわいそうな子だよ。わたしゃ、幽霊の声を聴くことは出来ないけど、こちらの話しかけが、通じてるかはのはわかる。でもこの子は、留衣ちゃんのいう”友達”の若菜ちゃんは、反応がないんだよ。心を閉ざしてる。心残りというより、あまりにもショックすぎて、逝けなかったのだろうね」祖母が ピアノ室で困り顔で言った。
「僕は、昨日の晩、ピアノ室で試しに シューマンの小曲を弾いてみたんだ。その時、見た姿は、悲惨なものだったよ、もしかしてこの子、虐待されてた子?」
「虐待されての末・・なのかもしれないし、そうじゃなかもしれない。この子から伝わるのは、驚愕、怖れ、なにより、お腹がすいてるようだ」祖母が、その力を屈指してもわかるのは、それくらいだそうだ。
”若菜ちゃん”は窓のそばの丸テーブル、庭の見える場所に座らせたそうだ。
ドアの開く音とともに「虐待された子は、難しいよ。自分が両親にひどい目にあっても、親をかばって、黙まりこんでしまうんだ」と言いながら祖父が入ってきた。
ドアの後ろで、盗み聞きしてたんだな。で祖父は、丸テーブルの若菜ちゃんの隣に座る。祖父は、定年まで小学校の教諭をしていた。今は、児童館のボランティアをしている。子供と聞いちゃ黙ってられなかったのだろう
「で、虐待されてるらしい子は、どこの子だい」
(おじいちゃん、虐待されたらしい若菜ちゃんはあなたの隣にいます)




