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父の新曲

NYの父から山崎に電子メールが届いたようだ。

楽譜のようであるらしく、例によって父の暗号楽譜を解読して清書してる。

人使いが荒い事務所だな。都築さんも、苦労するだろう。


楽譜と格闘中の山崎を放置し、僕は練習に没頭した。

ショパンのエチュード、10-4、10-7、10-10そのうち

2曲は新曲だ。10-7は、左手は簡単だった。

右手は和音で動くので、どうかと思ったけど、左が楽なせいか、思ったほど、

難しくはなかった。でも曲想をどうしようか、迷った。

最初は、左手が旋律のようで、不安げなメロで、右はそれを助ける和音の響き。

途中から、長調にかわり、左手が伴奏になると、右手が華やかな和音の動きで、

わかりやすかったのだけど、最後がよくわからない。

エチュードそのもので、わざと曲を打ち切ったように思えた。


10-10は、そこそこ難しくて、しかも目まぐるしく調性がかわり、

その都度、雰囲気も変えて弾かないといけない。

ダイナミクスにも注意が必要で、fでばかりひくと、音が散乱して

なんだかよくわからない曲になった。

僕は極端なくらいに、差をつけて弾いた。もちろん、ゆっくりテンポでだ。


ベートーヴェンのピアノソナタ21番の4楽章を練習していると、

山崎に後ろから肩を叩かれた。


「悪いな、集中してるところ。これ、上野さんからの手紙」

父からの手紙に

「新曲練習用に作曲したものを送ります。裕一は先生に渡す前は、

わかってるだろうけど、楽譜を見ない事」


なるほど・・父は僕のために作曲し山崎が清書・印刷してくれたんだ。

「山崎、どのくらいあるの?」

「悪い、曲については一切他言無用と、言われてる。とりあえず、出来た分だけな。

俺はそろそろ、自分の勉強にかからないと」


山崎は、A4封筒に封をしたものを渡してくれた。

見たい。。けど、見たら新曲(楽譜初見でピアノを弾く)の練習にならない。

それに、僕も勉強しなくては。定期テストの分と、大学のセンター試験の分。


僕は山崎とこれから午前2時までは勉強だ。

テスとを前にちょっと夜更かしだ。


ー・-・-・--・-・-・--・-・--・-・--・-・-・--・

11月、1回目の八重子先生のレッスンは、まず、これからのレッスン

について、八重子先生が切り出した。


「裕一君、申し訳ないんだけど、私のレッスン、来年は無理そうなの。

ほら、2月に生まれるでしょ・・」

恥ずかしそうに八重子先生は、それでも幸福そうだ。


「私、前の子の時、ちょっと油断してたのかもしれない。

だから、今回は万全の体制でいこうと思ってね。

他の生徒さん、といっても数が少ないけど、了解してもらって、

ピアノの先生を紹介してる最中。裕一君は、1月にセンター試験で、その後に

本命の邦立は実技試験が2月の下旬だっけ。」


そうだそうだ・・センター試験、まだ勉強が足りない。冬休みにピアノのほうを

集中特訓したかったけど無理かな。

冬休みに東京で集中して練習する事と、他の音大を受験する日程を考えると、

12月までが限度かな。


「そうですね。冬休みは、西師匠が特訓してくださるので、東京にいるつもりです

その後は、他に受験する音大の日程次第で、東京にいる期間も長くなるかもです。

やっぱり、12月までです。後、2月、よろしくおねがいします」

僕は、あらためて、丁寧に頭をさげた。

思えば、”夭逝した赤子の泣き声でレッスンは無理”って処からはじまったものな。


「それと、八重子先生、ゆったり構えてても大丈夫ですよ。

先生は、今、暖かいオーラに保護されてますから。」

珍しく僕には見えたんだ。先生のお腹を中心に、クリーム色の温かそうな光が

先生をくるんでるのが。


「裕一君が言うなら、きっとそうなんだろうけど、オーラ?裕一君、見える人なんだ。

自分ではわからないけど、確かにお腹の周りが暖かい感じがするわ。

ありがとう。自信ついたわ」


レッスンは、父にもらった新曲練習用の曲を、弾いた。

事情を説明すると、八重子先生は感激したようだ。

曲は3pほどで、ソナチネのような曲もあれば、フーガっぽいのもあり

なんちゃってエチュードのような、テクニカルな曲もあった。


正直、苦労した曲も多かったけど、楽しかったしためになった。

ここは、父に本当に感謝だな。


「これ、桜子さんにも使っていいかしら?お父さんにお願いしてくれる?」

「篠崎桜子さんですね。どんどん、使ってください。」

「あら、何を言ってるの。これは、著作権の問題があるから、許可のいる話よ。

そこの所、はっきりしないとね。でも、この曲なら使用料払ってでも、使いたいわ。

教材にぴったりだもの」


父は、そういう問題には無頓着だ。間違いなく、”適当にコピーして使って”と

言うだろうけど、一応、事務所を通したほうがいいだろう。

後で、柿沢さんにメールしておこう。


ショパンのエチュードは3曲。

自信があったのは、10-4だけで、10-7は消化不良で 10-10は

わかってるけど、仕上がってはいない。

そういえば、さっきの新曲の中に、10-4のに似た曲があった。

あれほど難しくないけど。エチュードのためのエチュード(練習曲)かな。


先生は、3曲、黙って最後まで聞いて、10-4からもう一度

僕に弾かせた。

「この曲は、左右、似たような速いパッセージだけど、その変わり目も

ちゃんとひけてるわ。このオクターブの使い方とか、ピアノ協奏曲2番に

よく出てくるような雰囲気よね」


僕としては、もっと速いテンポで弾きたいけど、今はこれがせいっぱい。

もっと、この曲を練習したい。




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