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都築さんのこれから

夜、8時に帰ってきたら、家に明かりがついていた。

そういえば、都築さん、今日、来るって言っていたっけ。


「ただいま、都築さん、遅くなりました」

「遅かったですね。特訓でしたか?夕食、用意してありますよ」

特訓というか、テストされてたようなもんだ。

それにしても、都築さんの手料理なんて、もしかして初めて?


「ありがとうございます。では、いただきま~す。都築さん、料理出来るんだ。」

料理は、ごく普通の家庭料理、野菜多めだ。

「驚くことはないですよ。いまどきの男性は料理ぐらい出来ないと、

お嫁さんも来ませんからね」

都築さんは、私設秘書のような事もしてたし、嫁どころか恋愛するヒマも

なかったろうな。おじいさまは、そういう事は、気にもしないし。


「来月いっぱいで、会社を辞めることにしたよ。」

遅めの夕食を二人でとりながら、都築さんは淡々と話した。

「そういえば、営業に回されたって聞いたけど、仕事が違いすぎて、

あわなかったとか?」

「いやいや、営業は楽しかったよ。必死にやったわりには、業績に

結びつかなかったのが残念だったけど。

ただ、もっと広い世界をみてみたくてね」


”まさか自分探しの旅にでる”とかいわないよね。


「で、上野雅之氏の事務所のような、音楽関係のサポートの仕事がしてみたいんだ。

ほら、君のお母様の春香さんが、新人で売り出すとき、僕は会社の仕事そっちのけで、

いろいろ動いていたんだ。会長命令だったけど、あの時は楽しかった」


おじい様、都築さんを、私設秘書としても、コキ使ってたんだ。

年配の経営者って、そうなのかな?


「コネ頼みになるけど、上野氏の事務所にも、空きがないかどうか確認したんだ。

事務所を拡張したので現在、2人ほど採用の予定だそうだ。

そのうち一人はほぼ内定したとか。最後の一人に立候補したんだけど、柿沢さんの

口調は、渋かったかな。

”あなたでは、制御できないかもしれませんし・・”って口をにごしてた。」


僕は、食後のお茶を吹きだしてしまった。

そして、おかしくて、笑いがとまらない。”制御できない”って、きっと父の

マネージャーだ。前の人がやめてから、柿沢さんが出来る所は、カバー

してるって聞いたし。


「柿沢さん、困ってるんですけどね。父の専属のマネージャーがいなくて。

でも都築さんには・・・無理かも」

仕事中の父は知らないけど、オフの時のぼけっぷりは、よく知ってる。

ついでに、かあさんの事になると、後さき考えなくなる事も。


「なるほど、上野氏のマネージャーか。あの方は、妥協しない仕事に厳しい方と

聞いてる。マネージャーの仕事も悪くはないな。おいおい、そこでなぜ大笑いする

んだ裕一君。何か知ってるのなら教えてくれないかな」


そうか、東京の家で会う父は、仕事上の延長にいたんだ。

北海道の実家でやっと心身ともに”オフ”になるんだな。ま、オフすぎだけど。

あーあ、どうやって説明したらいいのか・・


「柿沢さんの話では、前のマネージャーさん。かなり父の気まぐれに

振り回されてたんだって。都築さんは北海道の実家にいるときの父を知らない

だろうけど、グータラで天然で、どうしようもない父なんだ。


ところが、いったん、仕事になり、音楽に集中しすぎると、明日からゲネリハ

って時に、”ちょっと考え事したいから出かける”って一人で行動しちゃったり

して、そういうたぐいの事がたびたびあると、さすがに普通はマネージャーの

成り手は、いないかも。」


それに、父のマネージャーになって、都築さんが父をコントロールできない

かもしれない。都築さん、優しいから、いいように振り回される


「それに、父のマネージャーなんかやってると、マジに結婚どころか出会いすら

なくなるかも。私生活がなくなるかも」


「なるほど、制御できないって、そういう意味だったんだ」

都築さん、しばらく考えてる。きっと過去の事でも 思い出してるのかな

「やっぱり、経営者と芸術家は違うな。当たり前だけどね。

会長は仕事に厳しい方で、妥協を許さない人だった。私設秘書のように私生活は

なくなったけど、”上野氏のような気まぐれ”は、まったくなかった。

とりあえず、試用でもいいから、もう一度アタックしてみるかな」


都築さんが事務所にはいってくれたら、大きな戦力だろうけど、

その苦労を思うと、勧めないほうがいいきがする。


「僕としては、父のマネージャーは ブラック企業顔負けの仕事となると思うから、

全面的に賛成するのも・・・でも、一つだけ父の弱点はわかる。

父の弱点は母さんなんだ。」

弱点が一つでもわかれば、父を制御するのも少しかは楽になるのだろうけど・・・


都築さんは、いわゆる”鳩が豆鉄砲くらった顔”ように、ポカンとしてた。

想像できないんだ。で、僕は母が成田空港で迷子になった話から、父の

解読不可能な文字と自筆の楽譜の事を 話した。

都築さんは、笑ってはまずいと我慢してるようだ。顔が微妙にヒクヒクしてる。


「・・それでさ、母が熱を出した時、父はただオロオロするだけ。そしたら

”何も出来ないならウロウロするんじゃないよ。邪魔くさい”って

ばあちゃんに怒られてさ・・」

と、ここで、我慢できなくなった都築さん、大爆笑。

つられて、僕も笑った。ふ。。ざまあみろだ父。ちょっと胸がスカっとした。

教育費だしてもらってるスポンサー様なんだけどね。

外面が良すぎるのが 気に入らない。


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