エチュード「大洋」で苦労する
この八重子先生のレッスンで、月末の西師匠の所で恥かしくない位には、
仕上げたい。レッスンはいつものように、ショパンのエチュードからだ。
エチュード「大洋」は確かに感情のうねりのような物もある曲なの
だろうけど、やりすぎには注意だ。
ショパンのエチュードを僕は、CDやネットの動画でいろいろ聞き比べたけど、
やはり、それぞれの演奏者で、テンポが違う。曲想も微妙に違う。
僕は、あまりアップテンポでなく、かつ、音が混ざりすぎないよう、ペダリングに
注意して、「大洋」を弾いた・
「うんと、この曲は、裕一君はそういう風に弾きたいのね。
で、こんな弾き方はどうかしら?」
八重子先生は、イスに座ると、エチュード「大洋」を弾きだした。
すごい。インテンポでそして重い音、旋律がずしんとくる。
なにか、爆泣きしながら100mを疾走するようで、
”ああ、こういうのもありか”とは感じたが・・
試しに、八重子先生のように弾いてみようとしたが、テンポはともかく、
音が濁ってしまう。先生の音はクリアだった。
もう一度、挑戦、今度は上手く先生のように弾けた。
「どっちが裕一君にとってベストかは、もっと練習しないとわからないわね。
テクニックは、この曲、実はそれほどでもないのよ、普通レベル。
その割に派手だから、演奏効果が高いのよね。
一歩、間違えるとアルペジオの練習だけになるけど」
「僕はこの曲、大洋 って印象は受けないんです。
わからないまま、とりあえず、音を濁さない、重くしない。それだけは気をつけましたが」
後世の人が勝手につけた題名にせよ、「大洋」で通ってる曲。
でも、それが僕の正直な感想だ。
「別に標題音楽じゃないのだし、基本さえ守れば、自分の解釈で
弾いていいと思うのだけど、旋律の音が軽すぎると、他の音がまとまらない。
3回目の演奏は、まあまあOKかな」
八重子先生の ”まあまあ”に心はひっかかったけど、自分自身、会得してない曲
だからしかたない。
次は10-4.題名のないエチュードだ。
op10の12の練習曲の中の4番目って事。
op10は、当時、ショパンとライバル関係で微妙に友人(?)だったリストに
献上された曲集だ。超絶技巧などで世間の喝采をあびるリストへの挑戦状
ってところらしい。”この曲、弾けますか?”みたいな。
僕は、ちょいゆっくり目のテンポで弾きだした。
「あっと、そこのオクターブで下降するところ、あせりすぎ。
若干、前のめりでもいいけど、のめりすぎね。もう一度」
確かに、ここの音形はノリがいいっていうか、調子がつく。
「右手のオクターブ、うんそこ、小指の音、もっと響かせて」
やっぱり、ここが 大事なんだ。
じゃあ、他の速いパッセージはpにして、ここの下降音形だけf
で、オクターブをだして・・・
僕の頭の中は、フル稼働しながら弾いた。
「この曲は、1回目にしては出来てる。最近の流行のエチュード
だから、受験の曲に選ぶ子も多いかも」
そうそう、受験する曲を選ばなければいけない時期だ。
ベートーヴェンのピアノソナタ21番、2,3楽章は、
いろいろ注意された。僕が思っていたより、速く、軽く弾いたほうがいい。
軽くといってもな・・あそこの所は難しいな。
この曲は、”やっぱ貴族ってすごいですね。堂々とした風格があります”って
いうような曲に僕には聞こえる。でも、ベートーヴェンは確か貴族嫌いって聞いたけど。
まあ、お金だけ頂いて、そこだけ愛想よくしてたのか。
お金がなければ暮らしていけないし。
「やっぱり、ベートーヴェンは難しいわ。ショパンはピアノでいいけど、
ベートーヴェンもこの時期になると、交響曲のような広がりがあるし」
”広がり”か、やはり、インテンポかそれより速いテンポでないと、
曲がまとまらないわけだ。
”そこ、左の分散和音、均一にひきつつ、大事な音は意識して”
”八分休符 意識して弾いてね リズミックに”
・・・etc だいぶ注意された。基礎的な事だ。
この曲、11月まで終わるかな。
最後は、メンデルスゾーン「甘い思い出」
僕は、父と母のなれそめの話を描くように弾いた。
八重子先生は、一言「う~~ん、十分、甘い」って笑ってその日のレッスンは終わり。
帰りに例の音大受験の5人会を開いた。今回は情報交換と、後は5人のうち2人が演奏。
他は批評家に回るという、受験勉強?をしてみた。
初回は、僕と河野君だ。河野君は教育大の音楽科を目指してる。
僕は、ショパンのエチュード「大洋」を 河野君はフランス組曲1番を弾いた。
「裕一君、そんな難しい曲ひいたら、僕が恥ずかしいじゃないか」
「いやいやいや、バッハのフランス組曲のほうが深くて難しい」
「どっちかというと、大洋は、作曲者一人悲劇ぶってるってきがしない?」
「バッハは、フランス組曲をクラブサンで弾いたのでしょ?現代ピアノじゃ
違いすぎない?」
「いや、それをいっちゃ、古典は何も弾けなくなるよ」
ピアノの話は、ひさびさ、たのしくて話題がつきなかった。




