親子関係の難しさとは
美里ちゃんは、家出騒動のあと、その晩、熱を出した。
１０月の昼間に外に長時間いただけだけど、肌寒い日だったので、風邪とあと疲れのせいかも。
「子供はよく熱をだすもんさ、まだ、小２なんだろ？
あそこの町営住宅地までは、かなり距離があるからね。
美里ちゃん、行くだけでも疲れたんだろう」
ばあちゃんは、手慣れた様子で、おかゆを作っていた。
”雅之もよく熱を出す子だったけどね。週末に出かけるって時に限って発熱さ”
ばあちゃんの、父の思い出話に、じいちゃんも、笑ってうなづいてる。
きっと、そんな時は、祖父母も大変だったろう。でも今は、いい”思い出”になってるんだ。
美里ちゃんが会いに行った日、当の母親は、微熱がでたとかで、昼間も熟睡していたそうだ。
美里ちゃんを見つけ、母親を訪ねじいちゃんが事の次第を説明した。
肝心の美里ちゃんは、残念な事に山崎の背なかに負ぶわさって寝ていた、
山崎母は、美里ちゃんに、”ごめんね”と力なく謝った。
僕は、その”ごめんね”の後に、”今は一緒に暮らせない”という言葉が続くと思った。
一夜明けてあけても、さすがのじいちゃんも少し元気がない。
「いや、さすがに疲れたよ。
親御さんから預かってる大事な子なのに、何かあったらどうしようと、心配で
探してる間も 胸がつぶれそうなくらいだった。
週末に行くと約束して、美里ちゃん、納得してくれたんだ。それまで我慢できないとは
美里ちゃんの強情さには、さすがに参った。」
いつも元気なじいちゃんの弱音。
もしかして、じいちゃんの弱音を聞くなんて、はじめてじゃないかな。
いつも前向きで、一生懸命なじいちゃんだけど無理もしない。
じいちゃんとは、あの日は別行動だったけど、かなりパニックになって探してたに違いないだろう。
週末、じいちゃんと山崎、美里ちゃんは、母親に会いにいった。
美里ちゃんは、おおはしゃぎで帰ってきたが、対照的にじいちゃんと山崎は浮かない顔だ
「山崎、どうしたんだ？なんか冴えない顔してるけど」
僕は山崎と音楽室に移動した。美里ちゃんに聞かれたら困る内容かもと・・
「さえない顔は、もとからだからな。。なあ、裕一。この間の引っ越しの時の母を
見てどう思った？」
どう思ったって、うん、病気アガリだなって、見てすぐわかる暗い覇気もなかった。
僕は、正直いえば、母親だから美里ちゃんの事をもっと気にしてるかと思ってたんだけど。
そんな話題は、本人からは出なかったし。
母親ってこんなもんなのかなって 話さなくてもわかりあえる みたいな。
「まあ、具合はいいとはいえなかったね。無理して退院したわけじゃないけど
怠そうにしてた。１年近くも入院してたんだし、仕方ないと」
僕は、山崎母の美里ちゃんへの関心度については、黙っていた。
お手伝いのテルさんに育てられたような僕だから、実の親子関係
って、本当はよくわからない。
「体力はない。本当に体がだるいんだろう。退院したばかりってのもある。
でもな、母親の美里に対する関心が薄いというか、
そこまで、考えてないのかもな」
山崎がそういうなら、そうなんだろう
「でもどうなの？入院する前と今では、少しかは美里ちゃんの事を
考えてくれてるんじゃないかな？」
山崎の顔が途端に暗くなる。
母親がろくでもない男と暮らし、暴力をふるわれたり、お金を全部もちだしたり、
しまいには、山崎兄妹を家から閉め出すことになったりと、イヤな事を
思いださせてしまったようだ。
「さすがに、母親だかし、暴力をふるったりする事はないだろう。そんな元気もないようだし。
ただ、かあさん、自分の事も十分に出来ないかもしれないのに、美里の面倒なんか
到底、無理なきがするんだ・・」
「で、また、迷ってるわけだ。NY行の事。」
当然といえば当然迷うだろう。せめて美里ちゃんが中学生以上であれば、兄の心配もかなり違うだろうけど。
「べつに嫌味のつもりじゃなく、はがゆいんだ。どうして山崎ばかり
背負わなければいけないかって。山崎の兄さんは、何もしてくれないのかい？」
「兄貴とは、今、音信不通だ。居場所もわからないし、携帯もつながらない」
それも、山崎の心配の種か。。
「美里ちゃんのお泊りは、もう少し待ったほうがいいかもね。
当面、週末に会いに行くくらいで。
きっと山崎の母さん、体力がなくて、自分の事で精一杯なんだよ」
山崎は自分を奮い立たせるように
「うん、きっとそうだな。また美里のやつ、ダダをこねるな。困ったもんだ
さて、裕一は練習だろ、その前にコーヒー入れてやるよ。
あ、それとNY行の話は、もう決めた事だから変わらない。
あっちの事務所は、子連れでも許してくれるかな？」
はぁ？つまり、美里ちゃんつれて渡米するって事か。
うｍｍ。子供のほうが、外国での順応がはやいっていうし・・
いいのかも・・
