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兄の思い、妹の家出

山崎の母さんは、町営住宅に住むことになった。

実際住む町営住宅は、20年はたつ、老朽化した住宅だ。

人口減にともない、この地区に固まってたっている町営住宅も

空家が目立ってる。


”ここに住むって、大丈夫かな。美里ちゃんがきても小学校とは、

かなりの距離があるけど・・”


「山崎、もし、美里ちゃんがここに住むとして、学校までは徒歩通学

かい?」「いや、一応、スクールバスで通うようになってる。ただ、美里は当分は母とは

一緒には住まわせない。おじさんといおばさんには申し訳ないけど。」


前は、少しずつ汚”お泊り”をふやして、慣れたころに、一緒に生活することで

なんとか美里ちゃんを説得したはずと思ったんだけど。


「住宅が金曜日にやっと決まって、それから荷物の移動。

山崎母は土曜日に退院。

そのまま、住宅に直行したんだけど。。

日曜日に心配でおじさん、おばさんと様子を見に来たんだ。

かなり、疲れてた。食事の用意もおばさんにしてもらった」


月曜の放課後、今日は先生方の研修会とかで

学校は午前授業だった。そこで、引っ越しの最後の片づけ

にきたんだ。祖母は美里ちゃんの帰りを待つのにお留守番。

朝は、学校を休んでも一緒に行くと駄々をこねたが、山崎の”だめだ”

の一言で、ふくれっ面をしながらも、学校へ行った。


山崎母の住む住宅は2LDK。一人で住むには若干広い。

古びた窓枠や、色あせたフローリング。玄関は建てつけがわるいのか、

空けた時に、ガタガタしてた。


「すみません、何度も。本当は自分でしなければいけないのに、どうにも

体が怠くて動けないぐらいで。」

山崎母は、本当に怠そうで、ゲッソリしてる。

病院に居た時のほうが、元気そうなくらいだ。


「それは仕方ありませんよ。病院にこの1年以上、いたんだから、

体力、落ちるのが当たり前なんです。

あまり無理をしないほうが、いいですからね」

じいちゃんのいたわりの言葉に、申し訳ないと山崎母は頭を下げた。


今日は、中古のパイプベッドとカーテンをもってきた。

布団の上げ下ろしは、きついだろうと、ばあちゃんの配慮だ。

カーテンは、前のものでは、薄くて寒いんじゃないかと、厚手のものを

寝室と居間用に新調した。うちからの退院祝いってことにして。

生活保護をうけると、家具や電気製品などに、買ってはいけない項目があるのを

初めてしった。


そういえばベートーヴェンも貧しかったらしいんだよな。

曲があたって、お金がはいると、友人と飲み食いして浪費して。

彼の交響曲5番「運命」の最初の音は、借金取りのノックだ なんて、

冗談を、よく聞いた。当時の貧乏ってどんなんだったろう・・


考え事してるうち、作業は終わり、家に帰ると

学校から帰って来た美里ちゃんが、「かあさんの所に連れていって」と山崎に

訴えてる。山崎は金曜日から、引っ越しにかかりきりで、さすがに疲れてたのだろう。

”かあさんは、まだ引っ越しの疲れがとれてなくて、さっきも

強引に寝かせてきた所だ。そこへ行って、寝てる母さんを起こすのか?”

厳しい厳しい兄の言葉に、美里ちゃんは泣き出した。


「やれやれ、男の子ってのは、言い方が乱暴だね。

あのね、美里ちゃん。これからは、いつでも会えるのだし、

お泊りも出来るのだから。今日くらいは、我慢しようね。

お母さんが無理をすると、また入院することになるよ。

いやだろ、それは」


ばあちゃん、優しくいいながらも、半分、脅しかけてるな。

美里ちゃんは、ばあちゃんには、弱いらしい。しぶしぶうなずいた。


ー・-・-・--・-・-・--・-・--・-・-・--・-・--・-・

さて、僕は練習だ。月曜日、練習時間はへったけど、得るものも多かったきがする。


最初はエチュードから。

レッスンの録音を聞いてみると、自分で何を弾いてるのかわからないぐらい、

音の洪水になっていた。まあ、題名が”大洋”だから、ある面、あってるのだけど。

僕はゆっくり練習しながら、旋律になる音や、印象的な音をさらっていった。


”揺れる心のまま、fで一気に弾きました”って形もあるだろうと思って弾いた。

駄目だった。テンポがあげられないので、途中で中だるみする。

どう弾いたらいいか・・・フと練習の手がとまった。

よし、次にいこう。こういう事はピアノが弾けない時とか考えよう。


次は譜読み。エチュード10-4

なんだか、アニメだか映画だかで一気に有名になった曲だそうな。

さてと、楽譜を開いたところで

裕一、朝ごはん」という声で、練習は終わり。

慌てて食べ、学校へ急いだ。

ー・-・--・-・-・-・-・-・-・-・・-・-・-・-・-・-・-

クラスの中は、相変わらずだった。

受験勉強や就職準備でいそがしい生徒と、あいかわらず、ノンビリの生徒と

わりとはっきり分かれてきた。


「裕一、今日は山崎君は、お休みですか?」脇坂が聞いて来た。

「いや、一緒にきたけど、いないかい?」ヘンだな。

そこへ、脇坂に隣のクラスの子が声をかけて来た。

「そういえば、山崎、担任に呼ばれたあと、血相かえてとびだしてったな。

なんかあったのか?上野?」


山崎がそんなに焦ることといえば、一つしかない。

僕は慌てて、職員室の電話をかり、家に電話をした。やっぱり。

美里ちゃんが、家を出て、学校へ行かずそのまま母親の所へ向かったんだ。

山崎母が退院して、一緒に帰った一度きりだから、おそらく道は覚えてないだろう。


僕はあわてて山崎の鞄をかたづけ、ついでに早退しますと、先生に告げ

学校を出ようとすると、脇坂に止められた。青木もいた。


僕は、慌てて美里ちゃんの事を説明、だいぶしどろもどろになったけど。

「裕一、落ち着いてください。こういう場合、車より自転車のほうが、

小回りがきくぶん、探しやすいでしょう。僕も一緒にさがします。

あの地区は川を渡った向こう側ですが、ところどころに小川もあり

暗くなる前に探さないと危ないです。山も近い処ですし」


「まさか、山に入ることはないと思うけどな、最近のクマは信用できない、

平気で人里におりてくるやつばっかだ。まずいな」


3人で自転車、じいちゃんは車、小学校の担当の先生も探してくれる事になった。

昼過ぎまで見つからなかったら、警察にお願いしましょう と打ち合わせしてる。


さんざん探した結果、美里ちゃんは、空家に隠れてた(鍵が開いていたんだ)

名前を呼びながら探したのに。

”だって、お兄ちゃんに怒られると思ったから” は、美里ちゃんの弁解。

見つかったのは午後1時すぎで、もう少しで警察に連絡するかと

大人たちが話し合っていたところだ。


美里ちゃんの捜索に、結局、いろんな人が協力してくれた。

地元の町営住宅で、居合わせた人もだ。


じいちゃんは、珍しく怖い顔をして、美里ちゃんを怒った。

「美里ちゃん、美里ちゃんは学校へ行くと行って、おかあさんの所にきた。

つまり、嘘をついたんだ。嘘はいけない。」

「美里ちゃん、これだけの人数で探したってことは、それだけ美里ちゃんを心配したんだよ」

「ここらへんは、最近は昼も危ない時がある。クマがでたりするしな」

「1年以上も我慢したんです。もう一日我慢できませんでしたか?」


僕たち3人の説教にも、むくれて何も答えない。

山崎がおもむろに、美里ちゃんの体をポンポンさわり、どこか痛くないか?

心配したぞと、ギュっと抱きしめた。

抱きしめながら、ボロボロ涙をこぼした。

「お願いだから、もうこんな心配をさせないでくれ。

川にでも落ちていたらと、兄ちゃん、生きたきがしなかったぞ」


この山崎の言葉にやっと緊張がほぐれたのか、美里ちゃんは大声で泣き出し

「ごめんなさい、もうしません」と何度も謝った。















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