僕の「告別」
夢の中では、僕が俊一叔父のチェロの伴奏をしてた。
それを僕は下から見上げていた。
そこに俊一叔父がよってきて、僕に何か言い笑った。
上空で演奏中の僕と叔父の姿は 小さくなって 僕の目の前にいる俊一叔父の
中に消えた。
そして、俊一叔父は、浮き上がり透けて消えてしまった。
僕は、そこで目を覚ました。あわてて、音楽室へ行ったが当然誰もいない。
それ以上に、音楽室が、まるで知らない場所のように思えた。
もしかしたら・・
ピアノを弾いてみるけど、当然、見えない。最近は集中しっぱなしだったから
回りを見回す余裕もなかった。
時々、ばあちゃんに、叔父の存在を確認するだけだった。
ばあちゃんが起きてきたので。すぐ僕は、夢の話をして、叔父の事を聞いた。
寝間着姿のばあちゃんは、やっぱりわかっていたようだ。
「昨日、盛田さんが来てチェロの話のあと、私は音楽室へ確認にいったんだ
そん時はいたんだよ。いつもように窓のそばに立ってた。
私をみると、笑って深々をお辞儀をしたんだ。そして、見えなくなるほど薄くなった
思うに、裕一には夢の中であいさつしたんだね。きっと」
念のために、音楽室を確認してくれたが、ばあちゃんは首をふった
庭にもいないそうだ。
「裕一、これはおめでたい事なんだよ。わかってるだろうけど。
このまま地上にいても、魂にとってはよくない事。
前から思ってたんだけどね、チェロが最大の未練でそのために何年も
地上にとどまっていたとは、思えないんだよわたしゃ。
誰かが強力な思いでひきとめたか、心配すぎてとどまったか・・」
そう、魂だけが地上に長くとどまるのはよくない。
だから、叔父に何か未練はあるのか?とかいろいろ考えてみたんだっけ。
でも、僕が受験で忙しくなってからは、その問題も放置しちゃって、
それに、音楽室で聞いててくれる人がいる。きっと見守っててくれてるんだ、
って思ううちに、僕は勘違いをしてたんだ。
本来ならもっと早く解決すべき問題だったのに、居心地のよさに甘えたんだ。
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その日一日、僕は青野にいわせると”抜け殻”だったそうだ。
数学の時間になっても、前の時間の教科書をだしっぱなし。
黒板で問題回答に指名されても、ボーっと立ったままだったそうな。
さすがに心配した青野と脇坂に連れられ、早退した。
音楽室でだいぶ長い時間、ソファに座ってた。気が付くと、夜になっている。
悲しいという気持ちよりも、自分の中のどこかが足りない気分だ。
これが、僕にとっての「告別」なのだ。
ベートーヴェンのピアノソナタと違って、”再会”が、かなり先の事になるだろう、
って事だけだ。僕は、ソナタ「告別」の1楽章を弾いた。
喜ぶべきこと。叔父の幸を祈ること。
1楽章を、何度もくりかえし弾いて、やっと僕は落ち着いた。
もう、音楽室の俊一叔父はいないけど、僕は頑張れる。
これからは、天の俊一叔父にもとどくようなピアノを弾きたい。




