ショパンのエチュード 25-5 10-8
帰ってきて、やっとまともに空気がすえた気がする。
摩周町の夜の空気は、肺の奥から僕の体を冷やしてくれた。
時に陰鬱な釧路の気候と違い、ちょっと内陸にある分、摩周町は
夏はそこそこには暑い。朝晩は涼しいので熟睡できるけど。
帰ると、ばあちゃんがトウモロコシをゆでたのを、出してくれた。
祖父の畑でとれた初物だそうだ。
「いつもはね。熟するちょっと前に、キツネやシカに食われたりするん
だけど、今年は、熟するのも早かったし、動物の被害もない。
珍しい年だよ。稲荷神社にお供えしたのが、よかったのかね」
ばあちゃんは、頭をかしげる。
僕は、これは”キツネ君”のおかげと思ってる。
自然の中にとけてしまった、稲荷の神様とキツネ君。どこかで守って
くれてるのかもしれない。
あれは、去年の事なんだ。修学旅行で”お使いきつね”をひろったというか
ついてきて、稲荷神社に行った。
父母はいなかった。母さんが帰ってきた次の日に、父と二人で美瑛や富良野
方面へ旅行へ行ったそうだ。
新婚さんだよな。まったく。
明後日には帰ってくる予定らしいけど、二人で車で北海道を巡ってるらしく、
気まぐれな父の運転のもと、予定は未定に近いかな。
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さてと、練習開始。
僕は、ピアノの埃を軽くとると、ショパンのエチュードを練習した。
仕上げの曲が1曲あるとはいえ、3曲の練習は大変というより、
手の負担に最大、気を使わないと。
エチュード25-5は、弾けば弾くほど、僕は迷う。
最初のメロは、軽く弾くのか、それとも抒情的に弾くのか。
中間部のメロの速さは、piu lent だけど、演奏家によって速度も弾き方も
バラバラ、最後の数小節にいたっては、今までと全然違う音型だし。
何度かいろんな方法を試した。
最初のメロは、左手の伴奏の形によって、曲の雰囲気を途中で変える。
で、ワルツなので、右手はあくまでも軽く。
もちろん、ペダルを重く使って華麗に弾くのもありなんだけどな。
僕個人としては、軽く速く弾くワルツのほうが、活気があっていい。
中間部は、あまり遅くなくだ。ここで歌いすぎると、曲がだれてしまう。
問題は、最初と中間部のつなぎの所と最後だ。
例えばだ・・ツンデレ女子が、コロっと態度をかえる部分がつなぎで、
恋人と結ばれるのが、最後。とか。いろいろ想像をめぐらして、実際、
いろいろ試しても、fがいいのかそれともpか?柔らかい音か硬い音か?
この曲については、悩みがつきないかも
次の曲は、10-8.
右手がアルペジオで、左手がメロのような音を弾いてる。
これは、弾きたい方向は決まってる。だけど、技術がともなわないんだ。
右手はペダルを軽く踏む程度にして、音を軽くする。
左手もメロだからといって、fでださず、軽く弾く。
で、最後だけ華麗なパッセージで終わりをしめたい。
肝心なのは、そこまでテンポを速くしたいのに、出来ないのだ。
力量にあってないテンポで弾くと、右手のアルペジオがうるさいし、
第一、手が疲れる。
途中、ダイヤモンドダストのように、キラキラした高音のパッセージがあって、
そこも、速いテンポで軽く弾きたい。そこは絶対そうしたいんだけど・・・
そういえば、ショパンはこの曲をどう弾かせたいのだろう。
当たり前だけど、ショパンは東欧の人で、手も指が長くてでかい。
パワーも違う。それをちっちゃい手の日本人がどこまでせまれるのだろう。
それにショパンが当時使っていたピアノと、現代のピアノは音色が違う。
ショパンの時代のピアノは、鍵盤が今ほど重くなく、音ももっと響いたそうだ。
もっとも、ショパン自身、体調によって演奏が変わったりしたらしいから、
今の僕程度ではしるよしもないけど。
結論、僕はこのエチュードを速く弾きたいけど、無理のかからないテンポで、
であくまで音は軽く。
〝華”は、最後までとっておく。こういう方針でいくか。しょうがない。
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音楽室で勉強していた山崎と小休憩。
山崎は山崎で、悩んでる真っ最中。
美里ちゃんは、やはりまだイジメられる事もあるそうだ。
日本のどこへいっても、イジメはあるだろうけど、家庭の問題をつつかれるのは
可哀想だ。山崎は3人でNYに行く事も考えてるきがする
山崎と美里ちゃんについて、いろいろ話してる所、ばあちゃんが音楽室にきた。
「あんたたち、もう寝なさい。青少年の悩みは明日にでもユックリ
聞いてあげるからね。」




