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山崎の懸念と不安

八重子先生のレッスン。

最初は、シューマンの「謝肉祭」前口上プロムナードを弾いた。

この後、次々にいろんな曲が出てきて、それがごちゃまぜになっていく。

楽しい曲と思う。特に最初は祭りが始まる前のワクワク感が出すことができるか。


残念な事に僕は、その曲の速度の自由さが上手く表現できないというか、

問題はそれ以前の基礎的なことかもしれなかったけど。


八重子先生からは、「ありがとう。よく短期間で頑張りましたね。

謝肉祭の20曲の中の小曲を弾いてくるかと思った。

シューマンは、実は奥の深い作曲家なのよね。」

やっぱりこの曲のレッスンはなし。

僕としては、次の曲もその次も弾きたい。でないと、自分の始めた祭りに

誰も参加しないような気がして寂しい気分だ。

家で、少しづつ弾いてみよう。


レッスンは、バッハの平均律2集からフーガ。

不思議と苦労したフーガのほうが覚えていて、お気に入りになったりする。


八重子先生は、とにかくリズムを厳格に。主旋律を綺麗に出すことに

レッスンのポイントをおいた。他、いろいろあるんだけど、復習1回目

という事で。


ショパンのエチュード 25-5は、アニメか何かの曲に使われたのか

動画を検索すると何件がそれでヒットした。

2(人差し指)と5(小指)の拡張の練習かな。僕は手が大きいほうなので

楽譜では カッコ書きで1(親指)でもいいところ、2で弾けてしまう。


「裕一君は、手が大きいのでその指使いで、OKですね。

私は そこの部分は2ではつらいものがあります。弾けなくはないですけど。

中間部は左手の旋律が、綺麗に出てました。問題は右手ですね。

もう少し、pでレガートに。華麗に弾きたい所でしょうけど、

ここの部分では伴奏です。」


最初のテーマですけど、こう弾くと聞きやすいですけど。

と言いながら、先生は旋律の上の音と、右手の親指で弾く音を弾く。

単純だけど、綺麗な旋律だ。


「こう弾くのは弾きやすいし、綺麗なんですけどね。

この16分音符が大事です。裕一君、時々、リズムが甘い時ありました。

最後の数小節は、これはセンスの問題かな。

簡単だからとぞんざいに弾かない事がポイントね。


いろいろ落とし穴のありそうな曲なので、僕はテンポどおりには

今日は弾いてなかった。エチュードは数ページの小曲だけど、

表現もテクニックも気が抜けない。


ベートーヴェンのピアノソナタは、一通り弾いて、次回まで直してくる

ポイントを指示してもらって終わり。

”直してくる”であって、つまりは間違ってたって事だ。

時間がなくて、そこで終わったけど、何がどうして違うのか、詳しく聞きたい。

あ、これは、録音の聞きなおしで、自分で考えてみるか


ー・-・-・-・-・--・-・-・-・-・--・-・-・-・-・

ある夜、練習の休憩時間に、山崎が入って来た。

何か話があるような雰囲気だ。


「お、山崎。英語の勉強、はかどってる?」

秋の英検まで2級がとれれば、いいけどな。toeicは、正月に試験だ


「この間、俺の母さんの噂話の事で、脇坂と渡辺だかってのが、

口論したんだってな。」

あちゃ、隣まで聞こえてたのか。


「正直、母さんの事は、街の暇人のいいゴシップネタなんだよ。

みんな悪気があるわけじゃないんだけど、人の不幸って楽しいんだろうな。

母さんの場合、自業自得の所があるから余計にな」

高校生なんだけど、大人っぽい見解だ。


山崎の話は、次が本題だった。

「母さんはいい。ロビーで刺されたのも、最初の種をまいたのは自分だ。

それに、俺はともかく、美里まで育児放棄したのは、まだ許せない。」


夜に締め出され、寒さに震えながら、うちに避難した時の事、山崎は

忘れられないのだろう。うちに来てからは、美里ちゃん、だいぶ笑って元気

になった。でも、うちに来たばかりの時は、妙にオドオドしてて、それでいて、

顔に表情がなかった。母親に育児放棄され義父から暴力を受け。みんな母親のせい。

それでも、母親を恋しがって、病院にはかならず見舞いに行く。

自分の事を邪険にした母親なのに、それでも慕ってるんだ。


「母さんも俺も、ゴシップの種になるのはいい。俺はそういうの相手に

しないし。でも、美里までそれに巻き込まれてるとなると、話は別。

どうも、美里、最近、暗いんだよな。話してても上の空の時もあるし。」


「え?そう?笑顔がもどってきて元気になってる気がしたけど?

たまたま、疲れてた時とか、暗く見えたりしたんじゃ?」


「そうだといいんだけどな。どうもいやな予感がするんだ。

こじれないうちに、もうこの街を出て行ったほうが、美里の

ためかもしれない。俺もあと半年ちょっとで卒業だし」


うmm。そこまで考えたことなかった。

山崎の予感があたらにように、願うだけだ

ー・-・-・-・-・--・--・--・-・-・--・-・-・-・-・-・-・-・

その週の金曜日、美里ちゃんが、遅くなってもまだ帰ってこなかった。

僕らは祖父と組みになって、ついでに脇坂に応援を頼んで、

学校の近所や公園を探し回った。


やっと山崎が見つけた。暗くなった、神社の境内にいた。

連絡を受けて慌てて戻ると、美里ちゃんは泣きつかれたのか

居間で眠っていた。

山崎が問いただすと、美里ちゃんは、こういって泣き出したそうだ。


”せっかく、おじさんに買ってもらった上靴、誰かに隠された。

見つけるまで帰れない” 


もしかしたら、山崎の”いやな予感”があたったかも

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