祖父の電話
僕が、東京での一年前の事を考えていると、栄子おばーちゃんが、東京の祖父からの電話にでるよう受話器を渡してきた。
僕は、祖父とは話したくない。
もう終わった事なのだ。僕の居場所は、あそこにはなくなったのだが、結局、電話に出た。
電話で祖父は一歩的に話した。有無もいわせぬ高慢な口調で。
「東京に帰って、普通高校へ通い、大学に行くんだ。お前は大事な上野家の跡取りだ。音楽家にならないのは幸い、ワシは最初からそうしたかったが、娘の春香が、お前を一流の音楽家にさせると、言い張ったからな、我慢したんだ。帰ってこい」
はぁ?誰が? 顔を見たくないといったのは、おじいさまだ。
跡取りの話しなど、一度も聞いた事がない。それとも、おじいさまは、僕が挫折すると音大付属小の時から見越していたのか?
祖母が、丸い顔をショボショボさせて、僕の背中を軽くなでた。
祖母には、東京での事は、父が話したそうだ。そこから先の、スランプと
本番での失態は、僕は恥ずかしくて言えなかった。
父も哀れに思ったのか、ただ、手の故障で少しピアノを休むとだけ説明しただけだそうだ。
でも、祖母の言葉は意外だった。「全部、私が悪いのかもしれない」




