最後の高体連、近づく
最初は、脇坂の教えている1年男子二人から、不平があがってきた。
二人は、指導でストレッチの後、軽いランニング中心に、脇坂は
メニューを組んでいる。
二人とも、中学校のマラソン大会で走った事はあっても、競技
としての陸上は、初めてだ。
「脇坂先輩、もう大会が近いんです。僕ら頑張りますから、もっと
走りのペースを上げてください。今のじゃたるいです」
言葉は丁寧だけど、不満を体の中に溜め込んでるってかんじだった。
「祐一、部のウォッチ、2個持ってきてくれますか?」
持ってきたウォッチは、長距離のタイムを計るやつだ。
「じゃあ、自分の走れるペースで、グランド2周400m
走ってみてください。ただし、その20倍の8000m走る
と考えて」
おい、脇坂、大丈夫か?と僕が聞いてみたが、”最初に長距離の
走り方の難しさを骨身にしみるほうがいいんです”ときた。
”俺ら、そんな走りなんて、教えてもらってないし”
とか、ぶつぶついいながら、走り出した。
終わってみると、それぞれ、タイムは、1分半ってとこか。
「じゃあ、後400m、今のペースで走ってください」
1年に休みを与えず、そのまま走らせる。
終わると、ちょっと1年のふたりは、バテてた。脇坂はあと400m走らせた。
1年のペースは、落ちたというか、ほとんど歩いてる状態だった。
一人は、足が痛いらしい。
「先輩、キツいっす。いきなり1200なんて・・」
1年は、はぁはぁ言いながらも、不平を言った。
「あのね。最初に脇坂がいったじゃないか。8000m走るつもりでって。
今の君たちに8000m走るのは、無理だね。
それは、僕でもわかるよ。参加することに意義があるんならとめないけど。」
僕は、なんにでも不平をいう1年にキレながら、足の痛い1年を、みてやった。
案の定だ・・
「1年初心者には、8000mいきなり競技は無理なのは承知です。
それに、これでは、順調に練習できても、5000mでも、大丈夫かどうかです。
基本的に体力不足。もっと走りこまないと5000は無理です。」
1年は、黙ってしまったが、顔は、”無理じゃねえよ”と反抗の表情だ。
やれやれだ。
曽我顧問から、高校生の体の特徴をしっかり教えてもらうしかない。
高校生は、まだ成長途中だ。身長も伸びるけど、それに内臓機能が
ついていってるわけじゃない。
学校のマラソン大会で、突然死の事故は、こういうアンバランスさが原因だ。
女子の1年と2年もぎくしゃくしていた。
3年の武田さんが、まとめてるけど、なかなか彼女も家のことで忙しい
らしく、十分、目が届いてないらしい。
1年女子は、一人は長距離、二人は単距離か中距離希望らしいんだけど、
実は、問題はそんな事じゃなくて、もっと些細な事らしい。
たとえば、”朝の挨拶はなかった”とか”ため口聞いてる”とか
競技にまったく関係ない処で、もめてる。
2年は必要以上に威張りたがるし、部活経験のない3人は、ノホホンとして
先輩・後輩のけじめができてないようだった。
僕に言わせると、だからどうなんだって、開き直りたくなる。
男子の、”もっと速く走らせろ”は、わかるけど、女子は大会を前に
なぜ、競技の事に集中できないのか。
僕はやんわりだけど、女子に、”高体連、頑張ろうね。集中しよう。”
と声をかけたけど、2年はわかってくれたけど、1年は相変わらずのようだ。
一応、1年の事は、部長の青野と顧問に報告はした。
「俺もさ、部長になったけど無力だよな。男子はなんとかなりそうだ。
脇坂も見た目と違って、熱血指導の部類にはいるな。
1年もそのうちわかるさ。問題は1年女子だ。まあ、大会
終わったあとだな。それからミィーテングの話題にとりあげる」
青野は、僕と一緒に裏方にまわってる。部長の青野は、責任も重いだろう
考えてみると、林先輩は、部長と選手と よくやっていた。感心する。
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山崎は、結局、母親の入院が長引き、部を退部した。
家に帰ると、じいちゃんの畑の農作業の手伝いをしてたらしく、
作業着で長靴姿だった。
「畑は、まだ遅霜があるし油断できないかな。俺が面倒なのは、庭のほう。
結構、難しい。”あ、それはこれから伸びてくる花だから”とか、
”ここは敷石がほしかったから、こうななめにね”とか、美的感覚?って
ヤツが俺にはないから途方にくれたりするし、花の知識がないから」
ばあちゃん・じいちゃん、山崎をいいように使ってるのか?
僕が、二人に注意してくるよ、って行こうとすると、山崎が、
「いや、基本は楽しいんだ。自分から言い出したことだし。
ただ、あまりにも俺の知識がなさすぎで、戸惑ってるってだけの話。
気にしないでくれ。美里が庭で喜んで遊んでるから、俺も嬉しいし」
考えてみれば、山崎が気兼ねをしないで家にいるなんて、できないか
家の中で働く事が出来れば、居場所ができたようで、かえっていいかも
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課題が多い、次回までに一通り勉強しておかないと。
練習は、まず、ベートーヴェンの1楽章の仕上げと、2,3楽章だ。
1楽章に比べると、2,3楽章はわりと楽に練習できた。
後、平均律の1集のフーガだけの練習。
ちゃんと弾き分けができてるかどうか、だろう。
フーガは、合唱でたとえるなら、バリトン、テノール、アルト、ソプラノ
と、、それぞれ独立してて、それを10本の指で、弾き分けないといけない。
何度弾いても、飽きない。時々ロマンチックな旋律がでてきて、
そこを強調したくなったり。
僕の中学時代は、この平均律集がおもだった。
ショパンのエチュードは、いままでさらってきた曲を、もう一度
全部、弾いてみた。
作品、10、25あわせて24曲、半分弱まで来てるけど、残ってるのは
難しい曲ばかりだ。
エチュードの「黒鍵」10-5を譜読みした処でタイムアップ。
最近、四頭身のベートーヴェンことベンちゃんが、夢の中にでてこないな・・
って思ってたら、その日の夢は、ベンちゃんが、黒鍵でかけっこしてる夢を
みた。どうせなら、等身大で出てきて、ソナタを教えてほしいものだ




