僕の事情 4
7月のミニコンサートの後、祖父は、仕事が忙しいのか僕が顔を会わせる事もなく、それでも 居心地の悪い生活が続いた。
寝込む事の多くなったおばあさまを心配して、母が家に帰ってきた。
「裕一、元気そうね。ピアノの練習進んでる?」母は僕と顔を合わせたとき、言った。母はクールだった。事の顛末もおじいさまが僕に何を言ったかもしっているのに、そしらぬ風だ。そう、僕に関しては音楽について以外は無関心なのかもしれない。
9月のある日、おばあさまはい急にシャンとして、髪をアップに結い、ロングスカート。いつものおばあさまだ。そして僕を俊一叔父さんの部屋に呼ぶと、ピアノ伴奏するよう言った。曲は、あの「愛の挨拶」だ。でも、演奏者がいないけど・・
曲を弾き始めると、すぐおばあさまが僕を呼んだ理由がわかった。
俊一叔父さんが、チェロを演奏してるのだ。顔をあわすと叔父は、優しいけど寂しそうな顔をしていた。演奏が終わったとたん。俊一叔父さんは見えなくなったが、おばあさまには見えて聞こえるらしい。
「話す事は出来ないけど、俊一の姿とチェロの音があればそれで幸せ」
おばあさまは、ニッコリ笑うと、用意した紅茶を飲んだ。
紅茶は3人分用意されていた。
「嘘つきなんて言って、ごめんなさいね。俊一はちゃんといたのに、気がつかなかったわ」
この時のマリア様のようなおばあさまの顔を 僕は一生、忘れないだろう。
その後、僕は深刻はスランプに陥って それが直接の原因で音大付属高校に進学するのを、あきらめたんだ。




