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脇坂の苦悩

一見、裕福に見える家庭も問題山積みだったりします。脇坂は今回の事で、いろいろ苦しんでいます

列車の中で、脇坂はため息をついた。息で窓が白く曇った。

もしかして、相談というより、愚痴に近いかもな。


「脇坂、真理亜ちゃんはちゃんと帰ったよう?」

まさか途中で引き返すって事はないだろうけど、あの行動力抜群さだし。

「電話口で泣かれました。やっぱり家に帰りたくないって。

列車の中からかけてきたようです。

生意気で小憎らしい妹ですが、声を抑えて泣いてるのは不憫で

僕は心が痛みました」

やっぱり、妹思いなんだな。一緒の列車では、普通だったんだけど、

一人で心細くなったんだ。


「妹には自由にさせてあげたいです。医者になるもならないも、本人の意思。

僕や父がそうしてるように、すればいいんですけど」

珍しく語尾がハッキリしてない脇坂。その高い背をうなだれてる。


「結局、父母の離婚が始まりでした。母は父が自分の実家を継いでくれるもの

だとばかり思っていたようです。父はそんな意志はまるきりなくて、結局、

離婚、という形になりました。父も相当、頑固ですから。身勝手な部分も

あるし。母は母で好き勝手に生きているようです。

今はフリーのフラワーコーディネイターとかで、趣味半分の仕事をしてます。

そんな中、祖父の”跡継ぎがいない”という言葉を、圧力に感じてたんでしょうね。


医師を目指し猛勉強し、函館の私立の進学校にはもう合格してます。

そんな時、祖父のあの”女医は院長にむかん”発言ですから」


脇坂の家も大変なんだな。うちは東京のおじいさまが、結局、折れた。

でも、会社、どうするんだろうって思う。

僕が、学校にも行かず引きこもった(といっても3か月もみたない)から、

もう”経営者には向いてない”と判断したのだろう。

そんないきさつを、脇坂に話した。列車内はガラガラに空いていて、

なにか、しんみりした雰囲気だ。


「そうだったんですか。じゃあ、裕一のお父さんが動かなければ、

今頃は東京だったんですね。」

「その点は父には感謝してる。でも、僕は東京の音中は途中でやめて、

こっちの中学に転校した形になってる。1か月だけだけどね。

だからといって、急に学校に行けるようにはならなくて・・・

中学の先生が説得にきたり、保健室で別に授業を受けたり。だいぶお世話になった」


「とにかく、真理亜には、函館の私立の女子高に行くよう説得しました。

親許から離れるだけで、気持ちもだいぶ楽になるでしょう。」

北海道では進学校では有名な私立女子高だそうだ。

「僕と父母が自由に暮らしてる分、しわ寄せが真理亜にきました。

両親が離婚の時、僕は僕の意志で父と暮らすほうを選びました。

祖父には大反対されましたが、こればかりは父も抵抗したようです。」


しばらく、脇坂も黙っているので、僕も黙っていた。

沈黙の時間が少しの間。列車は普通列車なので、ガタゴトゆっくり走ってる。

今頃は湿原の中を走ってるのだろうが、もう暗くて見えない。


「僕のせいでしょうか?僕が跡継ぎなるべく母の元に残れば、今になって真理亜を

苦しませることも泣かせることも、なかったかも・・」


ボソっと聞いて来た脇坂のその言葉は、どれだけ脇坂がその事で苦しんだか

よくわかった。罪悪感、なんだな。

僕は、即答した。


「脇坂のせいじゃない。これは断言できる。両親の配慮が足りなかったんだ

もっと、真理亜ちゃんに対して細かく心を配るべきだったんだ」

・・脇坂も兄として、もっときを使うべきだったんだけど、今は

それは言わない。うなだれる脇坂には励ましだけで。


「両親もそうだけど、跡継ぎにこだわりすぎた祖父が元凶かな。

そりゃ、血のつながったものに跡を継がせたいのは、よくある話だけどさ。

売却って手もあるのに、固執した結果が真理亜ちゃんを泣かせたんだ」


脇坂は、何も言わなかった。

結構、僕は強く断言したけど、まだ鬱々としてる。


摩周駅では、じいちゃんが、待っていた。

「お帰り、今日は勉強の会だって?大変だな。裕一も

おや、脇坂君も一緒かね。じゃあ、ついでに送ってあげよう」

脇坂は、”ありがとうございます”と深々を頭を下げた。

まだ、さっきの事を考えてるのかも。

でもこの先は、自分で解決するしかない。


ー・・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

夜は、1時間だけ練習する事にした。

決められた時間30分オーバーだけど・・


音楽室に行くと、山崎がPCで楽譜の清書をしていた。

あれ?リテイク分は、送ったはずだけど・・


「裕一のお父さん、裕一が大学落ちたらただ働きさせる て聞いたけど、

案外、マジにそうするかも。

今日、宅急便でドサっとスコアが送られてきた。よくわからないので、

そこらへんにあるスコアを参考にしながら、少しやってみたんだけど、

これでいいかな?」


「うん、OKだよ。わからない事があったら聞いて。それにしても

このコキ使いっぷり。僕もこれほどとは思わなかったよ」

山崎がスコアを清書するのは、父も承知。承知でこれだけの仕事を

送ってきたんだ。


「別に礼はいらないけどさ。普通、”これこれだけのページがあって、

よろしく云々”の送り状みたいの?ああいうのもなしだ。

さすがに、これは一般社会では通用しないだろうけど、音楽界では

普通なのか?」


「いやいやいや。父が世間知らずなんだ。悪気はないんだ。

山崎、苦労かけるけど、よろしくお願いします」

父は親としての配慮、それ以前で問題大ありだ・・・


結局、僕は、練習そこそこに、二人で父の過去の

失敗エピソード暴露話で盛り上がった。


ー・-・-・-・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-

3月、卒業式もとっくに終わり、学校の中は寂しくなった気がする。

脇坂は、少しかは落ち込みから浮上したようだ。だいぶ顔色がいい。

釧路の駅に立っていた時は、今にも死にそうな顔だった。


脇坂は、父親と大分話したそうだ。

脇坂の父親は、脇坂のように背が高く、ガッチリ筋肉質で豪快な人だ。

思春期の娘がきたところで、コミニュケーションが上手くいかないのは

簡単に想像できる。真理亜ちゃんの行動力と明るさは目立つけど、

本当は、繊細な子なのはもうわかってる。


その真理亜ちゃん。当然のような口調で札幌の有名進学高校に受かったと

メールがきたそうだ。

脇坂とはメールでやりとりするようになって、いろいろわかった。

彼女は、やはり家を出て函館の私立高校の寮に入るそうだ。

そうなるだろうなあ・・彼女の高校生活が楽しいものになるといい。

僕は心から思った。

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