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期末試験と冬休み

本州より長い冬休みの前に、期末テストがあった。

今回も、プリントを作った。竹中さんが世界史の分を担当してくれ助かった。

彼女は、世界史が好きで、プリントも、凝っていたし、難しかしかった。

今回、驚いたのは、青野が”ワードで打ったプリント”を出してきた事。


聞くと、脇坂に特訓を受けたそうだ。

これは、何もプリント作りのためだけではなく、青野家の経営する牧場が、

PC を、使いこなせてなかったようだ。農家にしては、遅すぎ。

餌の管理、牛の健康管理。仕入れや納品等、そのほかいろいろと。

使い道はありそうだ。


ただし、応用する所までは、いっていない。

脇坂がエクセルで書式を設定して、後は数字を入れればいいだけに

しておいたそうだ。青野は真剣にPC の扱いを勉強したが、残念、

まだ、入力出来るだけだそうだ。


後藤さんにもプリントを渡した。(これまでの分も渡してある)

はぁ~ってため息つきながらも、”がんばるぞ~”なんて、こぶしを振り上げて。

そんな彼女、かわいい。


テストがかえってきて、皆、それぞれ、喜んだり悲しんだり。

僕は、脇坂にそのまま点数を離されながらも学年2位を維持。

(脇坂が特別かもな。なにせ桜花高校レベルだもんな)


後藤さんは、なんとか成績をアップさせて、ホっとしている。

先生方も後藤さんの事を褒めるくらいのアップだ。

(希望の大学に入るにはまだまだ、足りないようだけど)


「気楽に好きな絵だけ描ければいいと、思った。でも欲がでてきて、

もっとうまくなりたかった。そうしたら、デッサン地獄・・

上の大学に行こうとしたら、今度は勉強漬け。

上手くいかないもんね」

後藤さんが、テストの総合結果をみながら、しみじみ言った。


「そこは、僕も同じかな。国立を受けなくていいだけ、勉強のほうは

少し楽だけど。でも学科はセンター試験で受けるから勉強の手はぬけない。

ピアノにいたっては、もうお手上げだよ。」

僕は後藤さんに、釧路の”音大受験4人の会”の話をした。

後藤さんは、羨ましそうだった。同じ高校の中には美大受験する人はいない。

いわゆる、専門学校へ行く人がいるらしく、よく話をしてるらしい。


学校の中は、冬休みの計画を立ててる人がふえた。

なにせ、明後日は、クリスマスイヴ、同時に冬休みの始まり。

テンションもあがる。

今年のクリスマス、脇坂と竹中さんは冬期講習が始まるので、釧路に行くそうで、

青野は、なんだか家のほうで忙しいらしい。

酪農家は、年中無休だからな。なんとも、僕の周りは、普段と変わらないな。

後藤さんも、釧路で冬期講習、といっても美術の特別講習だそうだ。


山崎の方は複雑だ。お母さんの状態が少しよくなり、外泊許可も出そうなんだけど、

生活保護を受ける時、”入院するなら部屋を引き払って”と大家に迫られた。

今は、家のない状態。

クリスマスはともかく、正月はどうするのだろう。


クリスマスも正月も、祖父母と僕、山崎、美里ちゃんの5人。

山崎の母さんは、直前になって熱がでたとかで、病院でお正月だ。

ネグレクトとかもあった母親だけど、さすがに一人は寂しい事だろう。


年末は、僕と山崎も祖母を手伝い、料理作りだ。

せっかく作った料理、なぜ大晦日に食べるのか不思議だ。

そうそう、年末にも大掃除はしない。寒すぎるから

窓を拭こうにも、洗剤が凍り付くんじゃな。

秋の終わりごろから、山崎と祖父母で少しづつやっていたみたいだ。

畑や庭の整理も、同じく。


すまない。山崎。



東京での正月の過ごし方はどうだったっけ。

確か、秘書の都築さんは、休みをとっていた。

もっぱらお手伝いのテルさんが普通の料理を作り、

後は料亭の仕出しのおせち料理だった。

正月は祖父のお客さんが多く挨拶に来てた。

賑やかというより、せわしなかった覚えがある。


正月は大雪になり、僕と山崎は雪かきで大忙しになった。

交通も回復したころ、連絡もなく突然、父が戻ってきた。

祖母も驚くほどの数の、幽霊や雑霊をつけていたそうだ。

父、心なしか痩せて顔色が悪い。


雑霊は、祖母が塩を振りまいてある程度追い払い、

面倒そうなものは、庭に追い出したそうだ。

(雪しかない庭だけど、幽霊たちはどうするのだろう)


父は例によって、音楽室に居座り、1日眠り続けた。

起きてもヌボーっとしてる。そうだ、かあさんは?こないんだ。


「春香は、まだ演奏旅行から帰ってきてないです。

空港で雪で足止めをくらってます。日程がつまってるようなので、こちらには

これないでしょう」


なんだ。こないんだ。かあさん。父だけか。。


「父、なんだか疲れてるようだけど、忙しかった?」

「裕一、メリークリスアス&ハッピーニューイヤー。でこれがお年玉だ」


って僕に紙袋をくれた。


「受験のための”新曲”、なんぼか、書いておいた。これで練習しなさい」


これは、ありがたい。聞いたこともない新曲を練習する機会って、

実はあまりない。難しすぎる曲は新曲にむかないし、適当な曲は知ってる。


「クリスマスと正月は、演奏会の仕事で忙しくて。さすがに疲れた。

柿沢は本当に人使いが荒い。春香の件で僕の弱みを握ったと思ってる。まったく。」


”弱み”になるんだ。NYで父以外に事務所から歓迎されないなら、今のままで

いいんじゃん。小さくなって過ごすより実家の部屋に事務所を構えたほうが気楽だ。


あれ。父作曲の新曲って事は、あの暗号のような楽譜?

その楽譜で新曲・・・できないかも・・


「新曲は、僕がチェックするから、原譜でやってみて。それが終わったら

清書してくれるかな、前みたいにPCで」


きた!ただ働きその1だ。


「で、その清書が終わったら、裕一にプレゼント第二弾。

ザルツブルグの演奏会のツァーをとってある。行って、たっぷりモーツァルトに

浸ってくるといい。春香も僕もついていけないのが残念だけど」


え!!僕が一人で行く?父の考えは、やっぱりわからないよ・・



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