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音大受験4人の会

11月になると、もう北海道は冬だ。雪がちらつきはじめる。

基本、グランド練習の陸上部も10月中ごろから、屋内での練習になっている。

校内を走るのは問題ないとして、ダッシュや短距離の練習は体育館を使いたい。

バスケやバレー部優先で、各部が基本ストレッチ、筋トレの時に一緒に参加する。

(屋外でも、野球部は、外に倉庫のような建物内で練習してる)


選手にとってはツライ時期でもあるけど、この時期の基礎トレーニングが

シーズンの成績に影響する。


そんな時、武田さんが、僕と青野に相談に来た。

例の1年の女子の事だ。

やはり、千葉さんは、選手はやりたくないと、言ってきたそうだ。

マネージャーに専念したいと。でも、1年女子との仲がこじれてるのなら、

マネージャーも上手くいかないだろう。


選手なら、自分のトレーニングに没頭する事が最優先でいけるんだけど。

浅岡先輩がそうだった。孤立しがちだったけど、練習優先で部活を楽しんでもいた。

千葉マネは、選手ができない旨、直接、顧問に言うように、

僕は、後で千葉マネを呼び出して、その事を伝えた。

事務的な口調にしたんだけど、彼女は、もっと同情してほしかったようだ。

そんな、事はしないさ。かえって彼女の立場を悪くするかもしれないしね。


ある日、帰りがけに、千葉マネと1年男子の石田が一緒に帰る所だった。

僕は、脇坂達と一緒だったのだけど、二人がイチャイチャしてるのを見てしまった。


「僕は、見なかったことにする。噂は本当だったんだな」


「ほうっておけばいいんですよ。千葉マネの部活中での態度には、

僕はちょっと疑問に思う時もありました。

こういうわけだったんですね」


こういうわけって・・脇坂は、マイペースだけど、ちゃんと周りはみてるんだ。

僕は、てんで鈍感で、全然、わからなかったよ。


「女子については、男子はヘタに手を出さないほうがいい」

山崎は、ウンザリって顔だ。


”見なかったこと”で意見が一致。千葉マネ自身にも問題ありとわかっただけ収穫とする。

ー・-・-・-・-・-・・-・-・-・・-・-・-・-・-・・-・-・-・-


釧路での発表会のあとにできた”音大受験4人の会”は、この週末、釧路に集まった。

僕は八重子先生の所でさんざん絞られた後だったけど。


集まる場所は、河野君の家の音楽室。事前にメールで打ち合わせた。

 

河野純一君は、旭川教育大特音第一志望で、一応 邦立も受けるそうだ。

家族から、音大一本にするのを大反対された末の決断。

桃花高校だそうで、筆記試験のほうは、バッチリだって本人は言ってる。


女子の一人は、同じ八重子先生の生徒で、篠崎桜子さん。武蔵野音大を受けるそうだ。

彼女の母親の知り合いの知り合いが、八重子先生の恩師で、先生に頼み込んだそうだ。

ちなみに、八重子先生は、後は生徒はいない。

僕らの受験が終わったら、ピアノ教育に本腰をいれるそうだ。


残りの女子一人は、湯川恵美さん、邦立と桐友を受けるそうだ。

発表会での華麗なリストは、最後の演奏にふさわしかった。


話題は、この間の発表会の曲についての検討だったけど、結局、お喋りで終わった。


河野君から、僕にリクエスト。ショパンの”エオリアンアープ”だ

この曲は弾く機会が多かったので、弾きこんではある。


「いいですね。この曲。受験ではエチュードはさすがにこの曲では、

無理でしょうかね。」

河野君は、残念そうだ。彼もこの曲が好きだそうで。


「やはり、聞いていて映えるもので、ある程度、テクニック的に難しくないと

だめかもしれない。エチュードでも受験曲から除外されてるのもあるわよね」

湯川さん、今まで習っていた先生の師匠筋にあたる先生に、見てもらってるそうだ。

東京まで行くとか。僕と同じだけど、宿泊代もかかるので大変だな。


「受験に関係するような曲を弾いたのは、そういえば僕だけだ」

っていうか、発表会の事をしらされた、のほぼ直前のようなもんだし。


「私は、大分前に”気楽な発表会があるかも”って聞いたので、

好きな曲を練習してた。受験の自由曲は、リストから選ぼうかなって思ってる」

湯川さんは、リストの愛の夢3番を、途中まで弾いて、”これはちょっと

易しすぎる”って、リストのソナタを弾きだした。


この曲は、リストにしては、低音の不気味なメロから始まり、いかにも

ロマン派の激情の旋律と伴奏が続く。

湯川さんはすごいな。僕は、課題曲をさらうだけで、せいいっぱいなのに。


「私は武蔵野音大志望なんで、他にモーツァルト、ハイドン、の課題も

あるのよ。テクニック的に難しい曲というわけじゃないけど、そういうのって

かえって難しいのよね。音楽的なものが、諸に出るっていうか、怖い」

篠崎さんは、小柄でおとなしそうな女の子だ。


「うん、わかる。僕もモーツァルトのソナタを練習してた時は、

自分でこれでOK って思っても、ダメダシの嵐でさ。

よくわかんなかったっていうか、今もわからない事だらけさ。

篠崎さん、ドビュッシーのベルガマスクだったよね。印象派の曲が好きなんだ」

僕は、篠崎さんに聞いた。


「ベルガマスク組曲は、印象派でも初期の作品だから、わかりやすいし。

1曲目は、弾いていて前向きな気分になれるというか、スガスガしいので好き。

私、アガリ症で、この曲ならあがっても、弾いてるうちに落ち着くかなって。」

僕もアガリやすい。なるほど。緊張をほぐしてくれる曲もあるかも。


河野君が、バッハのパルティータ1番を弾いてくれた。

「前向きというなら、この曲もそういう印象かな。朝、窓を開けると

新鮮な空気が入ってきましたっていうふうに。」

僕もこの曲、好きだ。バッハが好きだからかな。

今度、弾いてみたいけど、さすがに、時間がないかも。


話は尽きなかったけど、僕はバスの時間があるので、一足先に帰った。

時間、ギリギリ。部活を休み、練習もしなかったけど、なにか、

有意義?というより、ストレス解消になった。

仲間ライバルでもあるけどがいると、気分が楽になるもんだな。


僕は、今更ながら思った。




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