発表会
よく考えると、11月第三週の日曜日って、あと、2週間ちょっとだ。
その日が発表会だというのに、僕はきがついて、あせった。
来週にでも、八重子先生に ”エオリアンハープ” みてもらおう。
あれ?あと短い曲、1曲とか言ってたけど、どのくらいだろう。
発表会は今年の4月に話しあいで決まり、日程の決まったのは7月
だそうだ。僕の参加は、半分、お手伝い要員としての働いてもらうためみたいだ。
”短い1曲”は、ドビュッシーの「子供の領分」から、小さな羊飼い にした。
先生にも了解をとって、練習をはじめた。
草原での羊飼いが気まぐれに笛を吹き、それが谷間に
木霊すしてる。って曲の説明に書いてあった。
管楽器の演奏のように弾くのだろう。
もちろん、ベートーヴェンの曲も忘れず練習。
今日は、4番の2楽章の譜読み。
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あっという間に、今日は発表会の日。
練習したけど、”小さな羊飼い”は、他に演奏する子がいるので、
僕はエオリアンハープ1曲になった。
祖父母が、聞きに来ている。ちょっと恥ずかしい。
予想した通り、高校生は、僕をいれて4人だけ。
4人とも午後の部で弾くことになっている。
午前中は、順番の来た子をステージ裏に集めたり、ペダルの補助台をいれたりと、
大忙しだった。小規模とはいえ、発表会なので、大抵の子は、
ヒラヒラのステージ衣装で来てる。頭の飾りを直してあげたり、服のリボンを結びなおしたりと、僕のほかに来てる高校生も一緒に奮闘。
まさに雑用というかマネージャーの仕事のようだった。
バイオリンは、各弦の音を合わせるのが、大変なようで、
先生が四苦八苦してた。バイオリンの生徒は5人。
中学生の子は、この子は音大を目指してるそうだ。
生徒の発表が終わり、担当の二人の先生の模範演奏で、午前の部をしめっくった。
曲は、ベートーヴェンのバイオリンのスプリングソナタだった。
午後は1時半のスタートで、30分、リハーサルの時間をとってある。
午前の部は、このリハーサルで大混乱だった。
午前に来た子は、原則、帰っていいことになってる。
小学生では、さすがに1日は大変だろうからと(じっとしてるのが)
帰り際に、先生方が用意した”ご褒美”をもらい、ニコニコ顔で帰っていった。
高校生組4人で集まり、さすがに、リハは出来ないねと、話し合った。
午後の部は、混乱のないよう、打ち合わせをキッチリした。
僕たちの出番は、午後の部の最後なる先生による模範演奏の前だった。
高校生4人組の演奏の1番目が、河野君。バッハのパルティータ1番から抜粋。
2番目が僕で、ショパンの”エオリアンハープ”
3番目は、篠崎さんで、ドビュッシーのベルガマスク組曲から、プレリュード
最後、4番目が、湯川さんで、リストの愛の夢3番。
僕らの番がきたけど、緊張するより、いろいろ仕事して疲れてた。
そのせいかな。僕は、演奏の時にまったくあがらなかった。
最後は先生方の模範演奏。ブラームスのハンガリア舞曲の連弾だった。
最後、後片付けしたあと、高校生4人組が集まって情報交換した。
僕を含めて、4人とも音大希望だ。一人は釧路教育大も受けるとか。
今度、4人で釧路で集まって勉強会をすることになった。
結構、それって楽しいかも。
祖父母には悪いけど、1分だけの演奏だった。
美里ちゃんも一緒にきていて、”ご褒美”の余ったのをもらって、喜んでた。
(中身は、お菓子の詰め合わせなのだけど、”病院のかあさんに持っていく”
と喜んでるので、僕と祖父母は、ほほえましいの半分、かわいそうなの半分だった)
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家に帰ると、みなグッタリだった。ごめん、ばあちゃん、じいちゃん。
夕食は、出前にすることにしたらしい。ばあちゃんが、寿司を頼んでる。
(北海道の鮨は、マジにおいしい。ばあちゃんにいわせると、釧路の鮨のほうが、
断然おいしいらしいけど)
じいちゃんが、”今日は祐一は、頑張ってた”とほめてくれた。
まあ、雑用で頑張ってたけど・・はは。演奏は、アっというまにおわちゃった。
夕食の後は、ピアノ練習。
今日の高校生同士の話で、僕は、結構、”遅れてる”きがした。
まずいな~と思いながらも、ベートーヴェンのソナタは進まないし、
ショパンのエチュードの25-9のほうは、手が思うように動いてくれない。
あせらず、ゆっくり基礎練習 が大事なのはわかってる。
中学生の時に背伸びした曲で、墓穴をほったのがトラウマになってるし。
トラウマといえば、僕が同門の弟子の的を得た言葉で、ショックをうけ、
ピアノを弾く人で、受験生同士の会話って、今日の発表会ではじめてだ。
ライバルだけど、仲間でもあるんだ。
音中時代もそうだったはずなんだけどな。なぜ上手く付き合えなかったのだろう。
僕は、仲間での勉強会とか、参加したこともないし、いつもポッチだったな。
それを寂しいとも、感じてなかった。
”我が道を行く”っていうのでもない。中学生の時は、同級生と仲良くなるのが、
ちょっと面倒だったんだ。
僕には、指揮者上野雅之の息子って、思われてるってプレッシャーを感じて
たんだ。今思うに、それって、意識しすぎだったきがする。
ボヤっと物思いしてるうちに、時間がすぎていく。
あわてて、今度はベートーベンのソナタ4番の練習をする。
しつこく繰り返す3連符で、僕はつい前のめりになって弾いてしまう。
で、メトロノームをかけて、どこであせるか、確かめたりした。
譜面にチェックを入れてるのに、イスに座ったまま、寝ちゃったらしい。
山崎は、毛布をやさしくかけてくれる なんてことはなくて、
「起きろ。祐一。残念ながら、今日はタイムアップだ。
練習時間終了。さあ、もう音楽室から出る!」
と、僕をしっかり監督してくれた・・とほほ。
ばあちゃんの、指示だな。




