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偶発の同刻 その二

 第六巡回班の三人は商店街に向かっていた。

「なあヒロ。当てがあって向かってるのか?」

「想像の根源がどういうものか断定はできないけれど、それ自体も想像された何か……そんな可能性が高い」

「イマジナルだってこと?」

 ミズハだ。

「うーん、ちょっと違う。カナタちゃんの話を覚えているかい。探知結果を〈WIZ〉に出力するとき、精度を落としてるって」

「ああ、言ってたな。画面が真っ赤になっちゃうんだろ」

「あれって町全体に想像の力が及んでるからだと思うんだ」

「アキヒロはそれが想像の根源だと考えてるのね」

 僕はうなずいた。

「でも町全体だろ。探しようがないぜ」

「根源が形を持っていて一か所にあるとすれば、その地点に一番強いもやが出ると考えたんだけど」

「それで商店街ね。もやが濃いもの」

「単純に人が多いからじゃないか?」

「それだけ想像カスが集まるんだものね」

「二人にそう言われると、空振りの気がしてくるよ」

「腰折るつもりじゃなかったんだけどさ。とりあえず行こうぜ。ヒントがないんじゃ足を使うのが正解だ」

 ミズハが話題を変えた。

「二人とも確認した? 朝起きたら〈WIZ〉がアップデートされてたわよ」

「応援要請の機能が追加されてたね」

「気づいてなかったぜ。人型イマジナルを表示させるのは、もうちょっと時間かかるのかね」

「これ、かなり簡単に使えるみたいよ」

 〈WIZ〉のメッセージ欄に親指の頭ほどのアイコンが新しく二つ表示されていた。一つは簡略化された旗が描かれており、もう一つは旗に向けられた矢印で、今は灰色をしている。

「説明がメールで届いてる。なになに、人型イマジナルと遭遇した際に使用。従来の工程を省き、一動作で全巡回班に応援が要請される。応援要請を受けた他の巡回班は、旗アイコン右のアクティブになった矢印アイコンを押し、速やかに救援に向かうこと。だそうだ」

「私たちはとっくに読んでるわよ」

「人型イマジナルを見つけられるようになるまでの臨時策みたいだね」

「使い方は……ただダブルタップすればいいだけか。こりゃ画面見なくても押せるな」

「間違って押さないでね」

 突然、僕の携帯電話が振動した。

「まさか要請か?」

 画面には番号が並んでいた。

「いや、ただの着信だ」

「もう、驚かせるんだから」

「でも知らない番号だよ」

 振動は続いている。僕は通話ボタンを押す。

「もしもし」

「お母さん? 私だけど」

 女性の声だ。僕をお母さんと呼ぶ人物は、当然いない。間違い電話だろう。

「あの、番号を間違えていませんか」

「いいの。今日のことだけど」

 妙な電話だ。しかし、声に心当たりがあった。

「もしかして、千輪さん?」

「うん」

 そうだ。僕は今日、千輪さんと話す約束をしていた。参ってしまっていて、うっかり忘れてしまったのだ。それで怒っていたずら電話をかけてきたのだろうか。

「ごめん、話せなくて。番号はどこで?」

「うん」

 おかしい。話がかみ合わない。

「今日は早く帰るって言ったけど、用事ができたから少し遅くなるね」

 これはいたずらじゃない。母親と話すのを装って、僕に何かを伝えようとしているのか。

「もしかして、自由に話せないの?」

「うん」

 状況がわからないが、まずいことになっているらしい。

「わかった、こうしよう。イエスなら〈うん〉。ノーなら〈ええ〉で答えて。今すぐ助けが必要?」

「うん」

 助けは今すぐ必要だ。

「警察に連絡しようか?」

「ええ」

 緊急性はあるが警察沙汰にはしたくない、あるいは警察では対応できない内容らしい。 想像の力がらみのトラブルかもしれない。彼女はどこからかけているのだろう。特定する必要があった。

「場所は自宅?」

「ええ」

 違うのか。

「学校?」

「うん」

 トウコはまだ学校にいる。

 このやり取りで聞き出せる情報はこれで限界だろう。

「すぐに向かう。待っていて」

「わかった。そうするね。じゃあ」

 トウコの方から通話を切った。

「なんだ、何かあったのか」

「千輪さんが変なんだ。とにかく来て欲しいらしい」

「どこにいるの?」

「学校だって。様子からすると誰かが傍にいて、自由に話せないみたいだった」

「誘拐じゃないか?」

「警察に連絡はしなくていいって」

「緊急らしいけど、警察が必要ないのは変ね。ただごとじゃなさそうよ」

 突如、全員の携帯電話が震えた。いっせいに〈WIZ〉を確認した。

「今度こそ応援要請だわ!」

 第二巡回班からだ。位置は没落街。矢印アイコンに赤い色が灯る。

 これを押すことで全員に通知が送られ、誰が応援に向かっているのか、あらかじめ知ることができる仕組みになっていた。応援を要請した班は、その状況を見ながら戦闘を組み立てることができるわけだ。

 しかし、応援に向かう通知がない。おそらく、第三巡回班はイマジナルと戦闘中で手が離せないのだ。センセイはラークで療養中。僕たちが行くしかない。

 行くしかないのだが、僕はアイコンを押すことをためらった。

「わかってるって」

 ユウが言った。僕は顔を上げ、彼を見た。

「千輪さんが気になるんだろ?」

「でも第二巡回班が危ない」

「当然、そっちにも行く。俺たちがな。いいだろ、ミズハ?」

「そう言うと思ってたわ。いいわよ。アキヒロはクリークと一緒に千輪さんの方へ行ってあげて」

「いいのか?」

「なんだ、俺たちを信用してないのか?」

「とんでもない」

「なら、千輪さんの用事を優先して。じゃないと、アキヒロ落ち着かないんだもの」

 鋭い指摘だった。トウコをそのままにしておいたら、僕は戦闘に集中できなかったかもしれない。

「わかった。気をつけて」

「そっちもな」

「片づき次第、合流しましょう」

 僕は了解すると、すぐさま学校に向かって駆けだした。クリークが続く。ユウとミズハは没落街へと向かった。

 携帯電話が馴染みのないリズムで震えた。ユウとミズハが矢印アイコンを押したのだろう。第二巡回班にも伝わっているはずだ。

 クリークが僕に追いつき、肩に飛び乗った。トウコの元へ向かう。

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