改正者たちの集い その二
コモンは薄暗い内部を見渡した。
「戻っているな」
彼はテーブルに着くと手を組み、その上に置いた。手にはハンカチが巻きつけられ、血が滲んでいた。その椅子の後ろに、足をぴたりと揃えてケイジが立った。
「報告を聞こう」
コモンが言った。
アーガイルが一歩進み出た。
「そのことなんですがね、コモンさん。フラーとエド、それにラバが勝手に戦闘して相手を殺っちまった。他に、組み分けに従わず行動した人間が何人かおりやす」
「ほう」
あまりに簡素な反応に、アーガイルは素早くつけ足す。
「ウズはラバと離れて、倉庫から動かないんでさ。カザマとリネンは人間同士でつるんじまった。仕方がないんで、余ったあたしとアトモスが組みやした」
男はカザマ、少年はリネンという名だった。ウズは報告されたことに対して舌打ちした。
リネンが怯えたようにカザマを見た。彼は落ち着いた様子で腕を組み、ゆっくりと目を瞑った。
「それはいい。接触してどうだったか聞いている、アーガイル」
コモンが命令違反を咎めてくれるとアーガイルは期待していたらしい。特に何もなかった上、自分自身に話が向けられ、彼は少し慌てた。
「はぁ。あたしですかい。見てきましたとも」
「やつら、確かにイマジナルを倒しておった。それで町が救えると信じておるようじゃ、ほっほ」
言葉に詰まったアーガイルに、行動を共にしたアトモスが続いた。
「そうか」
コモンは倉庫の隅、より一層暗い部分にに視線を向けた。
「ともかく、お前たちの情報は役に立ったようだな」
闇から浮き出るように、灰色のコートの男が現れた。その後ろには顔色の悪い男。第四巡回班、〈灰色〉のドグラとセイだ。
ドグラは全く表情を変えずに鼻の奥を響かせて笑った。
「少しは信用いただけたようですな」
「罠だと考えるのが自然です」
ドグラを真っ直ぐ見詰めながらケイジが言った。
「そうだ。私はあえて戦闘を勧めなかった。接触しろとだけ言った。罠であってもすぐに退却できるように」
「見張りまでつけて、無用な心配をするものですな」
ドグラは再び笑った。
「こいつらに逃げたり、誰かと連絡したりする素振りはなかった。それは間違いない。ばれていたようだし、見張りがいるのを察してやめたとも考えられるが」
とヒマラヤ。
コモンがドグラとセイを見た。
「いいだろう。提供された情報どおりの人物が、情報どおりの場所にいた。〈ウィズダム〉のメンバーを把握できたのはドグラの情報のおかげだ。元敵対組織であっても関係ない。信念を共にするなら、喜んで君たちを〈リビジョン〉に迎え入れよう」
「感謝しますよ」
ドグラは全く感情をこめずに言った。
当然、彼には信念などない。ただ、こちら側の方が彼らの欲求が満たされそうだった、ただそれだけのことだ。セイは倉庫の何もない部分を見つめ、大きな反応を示さない。
「しかし、困りましたな。あなた方は今回、派手に動きすぎたようだ。おかげで〈WIZ〉の情報が漏らしたことが知れてしまった。もう同じ手は使えませんな」
「それだけが君のできることではないだろう?」
ドグラがこもった笑い声を出した。
「むしろ、そちらが本業ですな」
ケイジが眉をひそめてドグラを見た。
「さて」
コモンがこう言うと、イマジナルたちが席に着き始めた。エドもそれに続き、フラーの隣に座った。コモンの両脇から埋まっていったので、ドグラとセイはコモンの対面に座ることになった。ウズ、カザマ、リネンはテーブルに向かわず、倉庫の端や木箱に腰掛けたままだった。アーガイルが睨みつけたが、彼らは動く様子がなかった。
気にした様子もなくコモンは話を続ける。
「〈ウィズダム〉の戦力は一気に削がれた。日々生まれるイマジナルにすら対処しきれない。放置しても壊滅するだろう。だが、我々〈リビジョン〉はそれでよしとしない。やつらを徹底的に叩く」
ケイジは眼鏡を指で整えた。アーガイルは舌なめずりし、アトモスは嬉しそうに手を擦り合わせた。ヒマラヤは親指で人差し指から順番に押さえ、ぱきぱきと音を立てた。フラーとラバの反応は薄いが、何か感じ入るものがあったようだ。
「ドグラたちを信用するんなら、〈ウィズダム〉の機能は一か所に集中にしているらしいんで。ラークといいやしたかね。まずは、あそこを潰しましょうや」
アーガイルが提案した。
「兵法としては正解だ。だが、それは採用しない。やつらも施設が狙われるのを当然予測してくる。我々が負けるとは思わないが、総力戦となれば無傷では済まないだろう」
「でしょうな」
コモンの言葉にドグラが同意した。
「では、どうしますか」
ケイジが尋ねた。
「今回と同じだ。ドグラの情報通り〈ウィズダム〉は二、三人の班に分かれて行動しているとはっきりした。こちらも二人一組で行動し、各個撃破していく。状況が不利になっても、小規模戦闘なら撤退しやすい。こちらの戦力を削ることなく、相手に痛手を負わせられるだろう」
「しかしですね。何人か、あたしたちと組みたがらないようなんで。いかがします?」
アーガイルが不満げに訴えた。
「私が指定した組でなくともいい。だが単独行動は敵に付け入る隙を与える。やつらの総戦力は低下しているが、個々の力は決して弱くない」
コモンは拳を握る。ハンカチに赤い染みがじわりと広がった。
「エドとフラー。ドグラとセイはパートナーに問題ないな」
エドたちが答える。
「ええ、ええ。結構ですよ。私は満足しています」
「問題はない」
ドグラも返答する。
「我々はこれで慣れていますからな」
セイが不気味に顔を引きつらせた。笑っているのかもしれない。
コモンは満足そうにうなずいた。
「ウズにも組んだ上で行動してもらう。イマジナルにも慣れてもらわなければいけない。今後、彼らはどんどん増えていくのだからな」
「ならアトモスがいい。あの爺は、中では話がわかる方だろ」
「では、そうしよう」
「ほっほっほっ。よろしくお願いしますよ、ウズ」
アトモスが手を振った。ウズは視線を外し、軽く手を上げて応えた。
「アーガイルはラバとだ」
「了解ですぜ」
アーガイルが了承し、ラヴァを見た。ラバがゆっくりとうなずいた。
「俺は一人でいい。その方が動きやすい」
とヒマラヤ。コモンはうなずいた。
アーガイルはコモンの方へ向き直った。
「となると、お気づきでしょうが、人間だけの組ができちまいやす。これはいいんで?」
「彼らには別の任務をしてもらう。これには人間だけの方が好都合なのでな」
「いえ、考えがあるなら結構なんで……」
コモンは話を続けた。
「君たちには今言った通り、イマジナルを狩ろうとする〈ウィズダム〉に個別に当たって欲しい。今日と違い、相手の位置はわからない。こちらも飾有町全体に散開し、遭遇に備えておけ」
「〈ウィズダム〉は夕方の活動が基本ですな。今日はもう、動いてはいないでしょう」
「では明日の夕方から、各組で行動を開始してくれ。以上だ」
皆がぱらぱらと席を立つ。それぞれが倉庫を後にし、それぞれの方角へ消えていった。
倉庫にはカザマとリネンが残った。彼らは木箱から立ち上がり、コモンの所へと向かった。
「コモン、俺たちはどうすれば? 別任務と言っていたが」
リネンが不安そうにカザマに寄り添った。
「人探しだ。彼女を探せ」
コモンはジャケットの裏に手を入れると一枚の写真を取り出した。カザマはそれを受け取った。
四角い白い枠で切り取られた中心に一人の人物が写っている。少し遠めだが顔ははっきりと判断できる。シロツメクサのような印象を受ける少女だ。
「彼女は?」
「〈ウィズダム〉ではない。飾有町で所在のわかっている、最後のイマガイズだ。仲間に引き入れたい。説得し、連れてくるのだ」
「了解した」
返事をしながらカザマは写真を改めた。ごく普通の少女だ。コモンと彼女の接点はなんだろう? なぜイマガイズだとわかるのだろう? 彼には得体の知れない部分がある。
だが、今必要なのは質問ではなく成果だ。諸々の疑問と共に、彼は写真をポケットにしまった。




