改正者たちの集い その一
飾有町を離れ、隣町。廃倉庫が連なる一角。
倉庫は相変わらず薄暗い。しかし今までと異なり、中ではがやがやとした喧騒が渦巻いていた。
「コモンさんは、接触しろって言ってやしたがね」
首輪をつけた、口の大きな男。菱形の模様が入ったニットベストを着ている。目つきは鋭く、薄い唇と薄い眉が軽薄そうな印象を与える。
その言葉からは不機嫌さがありありと伝わってくる。彼の不満は、白衣の男、首輪のマネキンのような女、そして同じく首輪をつけた巨人に向けられていた。
「相手から仕掛けてきた」
「そうです、そうです。運悪く感づかれてしまいましてね。様子を見るだけでは済まなくなったんですよ」
マネキンと白衣は弁明した。巨人はゆっくりとうなずいたが、タイミングが遅すぎて何に対しての反応かわからなかった。
「ほっほっほ。アーガイル。そんなにカッカしなさんな」
丸々と太った禿頭の老人が、弾むような軽い足取りで口の大きな男に近づいた。彼の首にも首輪がある。
「アトモス、そうは言ってもムズムズしやがる。あたしは細かいことが気になる性質で」
口の大きな男はアーガイル、太った老人はアトモスと呼ばれた。
「フラーとエドは不測の事態だったと言っておる。どこまで信じられるかはわからんがの。ラヴァに関しては、一人で行動したようじゃ」
倉庫の隅、暗闇から白い煙が吹いた。
「こいつがタバコってやつか。うまいもんでもないが、なんで人間はああもスパスパやってるのかねえ」
と独り言したのは白髪髭面の、これも首輪をつけた男だ。肌寒いというのに半そでで、その腕にも白い剛毛がみっしりと生えている。アーガイルと比べ、筋骨逞しい。厚手のジーンズパンツの上からでも、太ももの盛り上がりがわかった。
「ヒマラヤ、そいつはここではやめてくんねえか。煙いし、臭いがベストについちまう。後でも臭うんだ」
「神経質なやつだよ、まったく。お前も今後のために、人間の娯楽ってのを理解した方がいい」
そうは言いながらも、ヒマラヤは素手でタバコをもみ消した。すると、吸っている時よりも大量の白い煙がタバコから立ち上った。しかし、不思議と臭いは消えていた。
「あたしは遠慮しやすね。それよりだ、なんでラバは単独行動だったんで? ウズとペアだったはずだが」
マネキンはフラー、白衣はエド。巨人はラバという名前らしい。
ラバはまたゆっくりとうなずいた。
「ラバに聞いてもしかたねえか……」
そう言うと、倉庫の端に椅子を用意し座っている一人の少女にアーガイルが近づく。
淡い水色のマフラーを巻き、黒革の指抜きグローブをつけた少女。上は七分丈のカットソー。胸元と袖からワイシャツが覗いている。下は黒の丈の短いパンツに目の粗い網タイツを合わせている。タイツの上から、ルーズソックスと言うほどでもないが、ぴっちりとしない靴下を履き、足は濃い青のスニーカーが飾っていた。
少女は倉庫の一団から目を逸らしていたが、アーガイルが歩み寄ってくると、露骨に眉をしかめた。
「〈リビジョン〉は、人間とイマジナルの共存を目指してるんでさ。それなのに俺たちを避けていちゃあ仕方ねえ。あんたがラバについていたら、もっと穏便に済んだでしょうに。ねえ、ウズ」
ウズと呼ばれた少女は目を逸らしながら言った。
「化け物と組まされるとは知らなかった」
「なんですって? よく聞こえませんでしたねえ。聞こえちゃなんねえ言葉が聞こえた気がしたが」
アーガイルは乾いた唇を湿らせるように、チロチロと舌を出した。フラーもウズを見た。マネキンのようなその表情からは感情が読み取れない。ラバは少し俯いた。ヒマラヤはやれやれと首を竦めた。雰囲気を察して、アトモスがイマジナルたちを宥める。
「まあまあ。落ち着きなさい。おぬしやわし、そしてヒマラヤは人間との親和性が高い。じゃが、フラーとラバは、まだ人間に慣れてすらおらん。ラバに至っては言葉を理解できるものの、自分からは話せないんじゃからの。逆にウズのようにイマジナルに慣れていない人間らがいるのも、至極当然のことじゃ」
「私はそうでもないですがね。むしろ、ウキウキしていますよ」
エドが話に割りこみ、満面の笑みを浮かべる。
「おぬしは特別じゃのう。不安や恐怖を好奇心が上回っているようじゃ。変わった人間もおる」
フラーが小さな声で好奇心ってなんだ、と呟いた。
「あたしたちのペアが」
口を開きながら、アーガイルは木箱に座った二人組を睨んだ。うねる髪を後ろに流した男性。丈の長い、鮮やかな緑色のコートを着ている。もう一人は毛足の長い小型犬が頭に乗ったような髪形の少年だ。赤と白のシンプルなチェックのシャツに、薄っすらと格子模様の入った、折り目正しい茶色のパンツを履いている。
「人間同士で勝手に組んじまったのも仕方ないんで?」
少年はその視線を意識しないよう、意図して床をじっと見つめた。
「今は、そう思うしかないのかのう。どうすべきかは、わしにもわからん。コモンがこの結果をどう捉えるかじゃな。そう言っているうちに、ほれ。帰って来たようじゃぞ」
倉庫の扉がガラガラと引き開けられ、〈獣の男〉コモンと〈首輪男〉ケイジが現れた。
倉庫内は途端にしんとなる。




