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転覆 その二

 カナタが応対する。

「エイラさん! 第五巡回班の消息は? ……はい。見つけた? スピーカーに変えます」

 エイラの声が部屋にいる全員に聞こえるようになった。見つけたと言っていたが、エイラのその声色は暗かった。

「いい? グッドニュースじゃないのよ。第五巡回班を焼け焦げた状態で発見した。全員よ」

 部屋の中でざわめきが起こる。

「どんな火傷でも私が治す。すぐに運んで来い」

 ヒカゲがマイクの前に進み出た。

「表現が曖昧だったわ。火傷じゃない。体の大部分が炭化しているの。もう死んでいた。巡回に出たときの服装を知っていたから、かろうじて判別できたようなものよ。もう人相もわからなくなっていた」

 ヒカゲはバリバリと頭を掻き、苛立ったように歩き回った。

「彼らのことは警察に任せるわ。それよりも、コタツがショックを受けてね。かなり動揺してる。こんなことだと知ってたら、連れてこなかったんだけど。落ち着いてから、そっちに帰るわね」

 通話が途切れる。

「そんな。キジマさん達が、死んだ」

 カナタは茫然としている。その目からぽろりと涙が零れ落ちた。イナリがそっとハンカチを手に握らせた。

「少し休みましょう。ベッドに行きますか?」

「でも、でも……」

 カナタの両眼から涙があふれ出す。

 エレベーターが到着する音がし、ハスバとオウナが入ってきた。

「報告があるが……おい、何かあったのか」

 泣いているカナタを見て、ハスバがイナリに聞く。

「第五巡回班が見つかったそうです。エイラさんの報告では、すでに亡くなっていたと」

「なんだって? キジマ達がやられたってのか? 全員?」

 イナリがゆっくりとうなずく。強い肯定だった。オウナは青ざめた。ハスバは力が抜けたように、近くの椅子に体を預けた。

「信じられねえ。あいつらが、そんな簡単にくたばるかよ」

「遺体も見つかっています。発見したときにはすでに手遅れだったそうです」

 ハスバはそうかよ、と呟き、しばし沈黙した。

「そうなると俺の持ってきた情報は意味が変わってくる」

 ハスバは血のついた携帯電話をテーブルの上に、やや乱暴に置いた。

「それは?」

 ヒカゲが聞く。

「第一巡回班の、おそらくおっさんの携帯だ。これを見つけたとき、おっさんが何かしらのトラブルに巻きこまれてると確信した。だが、それでも俺は消息不明と報告するつもりだった。おっさん達はベテランだ。死ぬわけがねえ。けどよ、キジマも死ぬわけがねえんだ」

 ハスバはテーブルに両肘をつき、顔を覆い、拭った。

「何が起きてんだよ!」

 叫ぶと、ハスバはテーブルを力任せに叩いた。血の付いた携帯が跳ね上がる。落ち着いたのか、彼は項垂れたが、すぐに身を起こした。

「そうだ、残りの巡回班は? ジョウはどこにいるんだ」

 カナタが鼻をすすりながら答える。

「まだ、連絡がないよ……」

「ジョウもだと? まさか、畜生!」

「僕たちが行きます」

「皆瀬くん?」

 カナタが顔を上げ、心配そうに僕を見つめた。

「センセイは助けを必要としているかもしれません」

「そうね。放ってはおけないわ」

 ミズハはユウを見る。ユウは当然のように歩き始めた。

 僕が〈WIZ〉を確認すると、第七巡回班はラークからさほど遠くない位置に表示されている。ユウがそれを肩越しに覗きこんだ。

「近いな。急ごうぜ」

 ユウを先頭に、僕たち三人と一体は部屋を出ようとする。

「待ちな」

 ハスバが声で制止した。

「お前たちの実力を疑うわけじゃないが、状況が危険すぎる。やつなら言うだろうな。今は動くな、ってな」

「止めるんですか」

「だが、それはジョウだったらの話だ」

 僕はきょとんとした。

「俺は止めねえ。止めねえが、俺も行く」

 ハスバが立ち上がる。

「僕も行きます」

 オウナがとっさに言った。それに負けない早さでハスバが切り返す。

「おめえは来るな」

「そんなあ」

「……と言いたいが、ここも安全かわからねえ。目の届く分、一緒の方がましだな」

「ハスバさん!」

「オウナ!」

 僕とミズハは、驚きと嬉しさでそれぞれの名前を口に出していた。

「ジョウまでいなくなるなんて、そんなの俺は認めねえ」

 ハスバが立ちあがり、意を決したようにオウナが続く。第三と第六巡回班の合同チームだ。心強い。

 いざ、捜索へ向かおうとしたそのとき、エレベーターが上昇した。誰かが地下にくるのだ。

 エレベーターは下降を始める。僕たちはやきもきしながらも、じっとその到着を待った。

 鉄柵の開く音がし、少し間が空いてから扉が開けられた。

「俺はここだ」

 ゆっくりと弱々しい言葉。エレベーターから出てきたのはセンセイだった。彼はがくりと膝を折った。息が大きく乱れていた。

 見ると、右腕が途中からない。衣服ごとバッサリと切断されていた。ぐるぐると金属の線が巻きつけてあり、一応の止血はしてあるようだった。

「センセイ!」

 僕たちはセンセイに駆け寄った。センセイの服には血がじっとりと滲んでいた。素人目に見てもかなりの出血だ。僕を押しのけるようにしてヒカゲが前に進み出た。

「すぐ、治療する」

 一目で判断すると、彼女はセンセイをストレッチャーに手早く乗せた。ベッドの方へと運ばれていく。ヒカゲはベッドを仕切るようにカーテンを引いた。

「大丈夫かしら」

「ヒカゲに任せておけ。彼女の時間だ。命さえあれば助けちまう」

 そう言うハスバの表情は複雑だ。ジョウがやられた動揺と、彼が生きて戻ってきた安堵、そして敵に対する憎しみが入り混じった表情だった。

 しばらく口を開く者はいなかった。時間だけが過ぎていく。


「戻ったわ」

 第二巡回班、エイラとコタツが降りてきた。コタツには前出会ったときのような快活さがない。ハスバが立ちあがり、彼女に詰め寄る。

「おい、エイラ」

「事実よ。報告したことは全部事実。信じたくないのは一緒。でも覆しようがない」

 ハスバが何かを言う前から、エイラは矢継ぎ早に答えた。

 カナタがまた涙ぐみ始めた。コタツは俯いた。

 エイラは立ちはだかったまま動きを止めたハスバの胸を軽く押した。彼はよろよろと後ずさり、元いた椅子にすとんと座った。ゆっくりと肘をつき、顔を手で覆った。彼にとっても、この事実はよほどショックだったのだ。

 エイラはカツカツとヒールを鳴らしながら、部屋の中央に進み出た。一際大きな音を鳴らし、くるりと皆の方へ振り返った。

「いい? くよくよしてても仕方ないのよ。なぜこうなったのか。そして今後どうするか。それが重要だわ」

「相変わらずドライな冷血女だ。それでも正論だ。状況を整理しなくちゃなんねえ」

 顔を上げたハスバが言った。

「まず各班の状態だ。第一巡回班は大量の血痕を残して消息不明。第二、第三巡回班はここにいる。そういやあ〈灰色〉はどうなってる?」

 カナタの傍のモニターが切り替わった。チヨが大写しになる。

「こっちで探してるけれど、見つからないね。どのカメラにも痕跡がないんだ」

「巡回開始直後にやられたってのか?」

「それとも違う。全く映ってないんだよ。まるで今日一日、町にいなかったみたいにね」

「元々勝手なやつらだったが、異常だな。〈灰色〉も消息不明か。そして、第五巡回班は全滅。第六巡回班は無事。第七巡回班は負傷で、ヒカゲが治療中と。エイラ、なにか補足はあるか?」

「私の報告の詳細だけれども、彼らの周囲には焼け焦げた跡や砕かれたコンクリート、アスファルトが散乱していた。他には、ひと抱えもありそうな妙な岩。元からその場にあったものじゃないわ。イセキが鎖に繋ぐために運んだのかも。状況を見るだけでも、かなり激しくやり合ったことがわかる」

「第五巡回班から連絡はなかったけれど、エネルギー反応を見ている限りイマジナル討伐は順調そうだったよ。なのに、どうして、誰が……」

 カナタだ。

「そりゃ、脱走者の一人だろう。あるいは複数かもしれねえ」

 とハスバ。

「でも、そう言われると妙だわ。第五巡回班の戦闘力はかなりのものよ。ろくに統制の取れていない複数のイマガイズに襲われたとして、負ける要素がない。仮に第五班を倒せるほどの人数を集中したのなら、他の班が同時に襲われた説明が難しくなる。相手は多くても七人なのよ。余った戦力で倒せるほどエチゼンは甘くない」

 エイラが指摘した。

「集中した戦力が、たまたまおっさんやキジマと鉢合わせるってのも偶然が過ぎる考えだ。複数の班が同日に襲われたのを考慮すると、相手も戦力を分割して、こちらと遭遇する確率を上げていたと考えるのが自然だ」

 この状況は僕たちが新しく知った情報と関係している。伝えなければ。僕は口を開く。

「そこなんです。相手は脱走者、〈首輪男〉、そして〈獣の男〉だけじゃない」

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