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別視点 その一

「反応は近いな」

 ユウがつぶやく。僕の顔にある仮面は、笑顔の形にひびわれている。ユウはドクロの、ミズハは鬼のイマガイズを出現させていた。

 僕たちは〈WIZ〉上の赤いもやを頼りに住宅街の巡回を開始する。

「ここからは目で探そう」

「建物で見通しが悪いし、通行人も多いわ。イマジナルと戦うには不向きの場所ね」

 ユウは正面、ミズハは左右、僕は背後を担当し、反応があった場所へと向かいならがイマジナルを探す。

「ややっ」

「どうしたのユウ」

「いるぞ」

「もう見つけちゃったの」

「ほら、あれだ」

 ユウの指さす方向にはコンクリートのブロック塀があり、そこに三十センチほどの青い毛皮のようなものがくっついている。毛はかなり長く、重力に任せて下にだらりと垂れ下がっている。

「本当にこれかな?」

 あまり危険な感じはしない。

「害のない他のイマジナルかもよ?」

「とにかく近づいてみるぜ」

「ユウ、油断するなよ」

 ユウは金属板を縦にして青い毛皮ににじり寄った。毛皮はそれに感づいたのか、壁に張り付いたまま体の向きを変えた。毛だらけで正面が分からない。こちらに向かってくるのか、逃げるつもりなのか。ユウがさらに一歩を踏み出すと、今まで力なく垂れ下がっていた毛が、びんと真っ直ぐになる。間髪いれずに、それらはユウへと真っ直ぐ突き出された。

「うへえ。毛……というか針だな。盾を構えていて正解」

 鋭い毛をユウは金属板で防いでいた。これを突き破るほどの威力はないらしい。

 イマジナルは敵わないと見たのか、壁からポロリと落ち、意外なスピードで逃走を図った。短いが体の底面にも同じような毛が無数に生えており、それらが高速で交互に前後することで体を前に送り出しているらしかった。

「あっ、逃げるぞ!」

「ユウ、いくわよ!」

「おう! あいつ、かなり速い! って、うわあ!」

 ユウはミズハに大げさに突き飛ばされ、宙を滑った。イマジナルに追いつく。やつは必死に突こうとするが、ユウにそれは通じない。空中で盾を使い、器用に針を受け止める。

「そおりゃ!」

 吹き飛んだ勢いそのままに、ユウは盾をイマジナルに叩きつけた。イマジナルはぐぴっと変な声を立てた。ユウが背中から地面に転げ落ちる。

「いてて。やったか?」

「もう動かないみたいだ」

「ユウ、ナイス!」

「ナイス……っておまえ! ああいうのは、一言かけてからやってくれよ」

「いくわよって言ったじゃない」

「あれだと一緒に追うって意味かと思うだろ」

「私が追ったら刺されちゃう。ユウだけだったら追いつけなさそうだったし、とっさの判断だったのよ」

「うーん、上手くいったからいいか。次はもっと優しく頼むぞ」

「はいはい」

 ミズハはあしらうように返事をした。

「これで終わりか。僕とクリークの出番はなかったね」

 真っ白なクリークは僕を黄色い目で見つめた。

「どうりでイマジナルのマークがないわけだ」

「攻撃はしてきたけれど、ちょっとかわいそうだったかも……」

 僕は〈WIZ〉を確認する。もやが少し晴れたようだった。

 僕たちは巡回を続けるため、歩きだそうとした。

 携帯電話に着信。手に取ると勝手に通話状態になった。相手はもちろん、

「はーい、俺だよ。君たちに緊急連絡だ」

 チヨからだった。

「チヨさん。なんですか」

「〈首輪男〉を見つけたよ」

「そうですか! すぐに向かいます」

「その必要はないねえ。彼が君たちの方へ向かっているんだ。おっと、もう時間はないようだよ」

 通話が切れた。背後からアスファルトと砂の擦れる音が、じゃりっと微かに聞こえた。立ち止まり、足の位置を直すような音。

 僕たちが振り返ると、青い毛皮を前にして〈首輪男〉が立っていた。三つ揃えの黒いスーツ。縁のないメガネ。恰好は以前と変わらないが、何か違う。僕はそれが表情から受ける印象だと気づいた。彼はイマジナルの死骸を前にして微かな悲しみを浮かべていたのである。


「あんたは!」

 北城が構える。岸戸が無言でその前に割りこむ。蒸気を吹き出し、さらに大きい盾を装着した。皆瀬は考える。〈首輪男〉には明らかにイマジナルが見えている。だが、イマガイズだとすれば、いつ戦闘が始まってもおかしくないこの状況で、仮面を出現させないのは異様だ。クリークは皆瀬の足の陰に隠れるようにした。

「なぜ殺すのです?」

 〈首輪男〉は言った。

「お前と会話する気はない」

 岸戸が怒気を含んだ声で言葉を断とうとした。しかし、彼は続ける。

「それは困ります。私はコモンに自分で考え、判断するように言われています。それが分別だそうです。質問に答えていただかないと、判断ができません」

 岸戸はそれを無視し〈首輪男〉に一歩近づいた。男は動かない。北城は今にも男に向かって走り出しそうだ。

「言い換えましょう。他に取れる方法があるのに、なぜ殺すのですか?」

「二人とも、待ってくれ」

 この男は何者で、何を知ろうとしているのか。皆瀬は興味を持った。

「僕たちは一般人に危険が及ぶものに限って倒している。無暗に倒しているわけじゃない」

「彼は」

 〈首輪男〉の言葉が示すのは青い毛皮のイマジナルのことだ。それは力を失い、消滅しつつあった。

「戦意を喪失し、君たちから逃げようとしていました。それでも殺す必要があったと?」

 堪らず北城と岸戸が言い返す。

「一般人には十分危険なのよ。放っておけば誰かが怪我をしたわ」

「それによ、ヒロに怪我をさせたお前が言っていい台詞じゃない。クリークを痛めつけたのもお前なんだろ?」

「離れた空間同士を繋げる能力。それを自由にする必要が私たちにはありました。他に方法はありませんでした」

 クリークをあんな目に合わせたのはこいつだ。そんなやつの言うことに納得はできない。それは三人共通の思いだった。

「ヒロとはあなたですね。人間には名前がある」

 〈首輪男〉は皆瀬を指差した。

「そして私は、コモンからケイジという名前を授かりました。しかし、クリークとは、聞いたことのない単語です。それが指すのは、あの緑橙みどりだいだいのイマジナルですか?」

 皆瀬は驚いた。彼はイマジナルという単語を知っている。

「イマジナルという言葉を知っているのか?」

「私はあなた方を監視し、言葉を学習しました。イマジナルが指す内容も理解しています。そして、なるほど。その白いイマジナルからは、微かに緑橙のイマジナルの臭いがします。どうやったか……それはわかりませんし興味もありませんが、あなた達はクリークを、イマジナルを助けたのですね」

 話し方が妙だし、さっきから、まるで自分が人間でないかのような口ぶりだ。この男は何かおかしい。

「それと同じようにイマジナルと友好関係を結べないのはなぜですか?」

「だから言ってるじゃない。危険だからよ!」

「それにやつらとは通じあえない。言葉も気持ちもだ。クリークは例外だけどな」

「なるほど。私は判断しました。あなた方には先入観がある。イマジナルは危険で言葉も通じないと。しかし、それは間違いです」

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