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反抗の旗は眼前に靡いて その二

 話を終えたセンセイはチヨの方へ近づいていった。それに気づいたチヨは、ひざまずいてがばと頭を下げた。ほとんど土下座だった。

「ジョウさん! 今回は本当にすみません!」

「頭を上げろ、チヨ。おまえの責任じゃない。部屋に直接の脱出経路を作られては誰も対処できんよ」

「それでも、それでも! 実は皆瀬くんに忠告されてたんだよ。クリークの力で脱獄が可能じゃないかって。それを俺は自信過剰に一蹴してしまったのさあ。あれをもっと深刻に受け止めていたら……」

「皆瀬は予知じみたところがあるからな。次はもっと信頼してやれ。だがクリークが複数の経路を開けるのは、皆瀬も知らないことだったし、言ったようにあれは誰にも防げない。終わったことよりも今後のことだ。脱走班を探すためには、監視カメラやウェブカメラの視界を使って町年体を把握できる、おまえのイマジンの働きが何より大きい。負い目を感じているのなら、挽回するチャンスはいくらでもあるぞ」

 センセイはチヨの背中をポンと叩いた。チヨはガッツリと叱られることを覚悟していたらしく、センセイの対応に涙ぐんでいた。

「ジョウさん……。俺、皆のために情報を集めてくるよ」

 〈エデンの外〉に戻るのだろう。チヨさんはやる気満々に店を飛び出していった。彼なりに責任を感じていたのだろう。先ほど、エイラに話し続けていたのも、そうしなければ心が持たなかったからかもしれない。

「ジョウはチヨの扱いがお上手。……〈ウィズダム〉に抵抗するための組織が出てくるなんて、大変なことになってきたようね」

 第二巡回班のセンセイ、エイラがいつの間にか僕の隣に立っていた。

 一見、丈の短いビジネススーツのようだが、着ている服は革製の光沢を放っていた。バッサリと真っ直ぐにカットした前髪、動きに合わせて踊る大きなピアス。胸元も大きく開いており、セクシーな女性だ。

 傍らに男の子もいる。もう肌寒さも出てきたというのに半袖半ズボンで、帽子を斜に被っている、いかにもやんちゃそうな少年だった。スケートボードで装着するようなプロテクターを両肘両膝に装着していた。

「あなた達が第六巡回班ね。私は第二巡回班のエイラ。この子は」

「コタツでーす」

「僕は皆瀬アキヒロ。よろしくお願いします」

「俺は岸戸ユウだ」

「私は北城ミズハよ」

「一度会ってみたかったのよ。ハスバがとんでもないやつらだって。彼が素直に褒めるなんて、あまりないことだから」

「オウナちゃんもすごい、すごいって言ってたよねー」

「いえいえ、やれることをやっているだけです」

「まあ、謙遜しちゃって。もっと自信持ってもいいのよ。ジョウに内緒で、一人貰っていっちゃおうかしら。私のところに来ない?」

「こら、エイラ。人の教え子に手を出すな」

 僕たちとエイラの間にセンセイが割りこんだ。

「冗談に決まっているじゃない」

「お前の場合はわからないからな。皆瀬、岸戸、北城。通達は終わった。今日はもう帰って休んでおけ。明日からは厳しくなるぞ」

 僕には一つ不安があった。

「センセイ、イマジナルとの戦闘なんですが、どうなってしまうんですか」

「どう、と言うと?」

「お互い、イマジンで戦うんですよね? 常識を超えた力のぶつかり合いになる。どちらかが死んでしまうのでは……」

「それは夢見悪いぜ」

「命まで取りたくないのは前提としても、相手が殺しにきてるのに、こっちが手心を加えてたら勝てないわよね」

「君たちの懸念はもっともだ。イマガイズとの戦闘は想定していなかったので、講義では伝えなかったが、安心して欲しい。イマガイズに防御機能があることは教えたな」

「イマガイズを出しているだけで想像の力を軽減してくれるやつね」

「ここで重要になるのは軽減された力がどこへ行くかだ」

「消えちゃうんじゃないのか」

「それは変よ。消えているように見えるだけで、代わりにどこかが負担しているはずよ」

「そうだ。つまり君たちの想像力が相殺してくれているのだ。肩代わりと言ってもいい。今までの戦闘で大きなダメージを受けたとき、イマジンの一部やイマガイズが解除されたことはないか?」

「そう言えば、この前戦ったバカでかいイマジナルに吹き飛ばされたとき、装着していたはずの板が消えてたな」

「では、もっと大きなダメージを受けるとイマガイズが消えるんですか」

「そのとおりだ。肩代わりしたダメージが蓄積されると、イマガイズは砕けるように消える。同時にイマジンも解除され、しばらくは使えなくなる。命まで取らなくとも、その状態にできれば確実に無力化されているわけだ」

「イマガイズが壊れたら勝負ありなのね」

「まあ、それでもイマガイズより先に肉体が持たなかったら、死んでしまうのだけれど」

 エイラが話に割りこむ。

「あまり脅すな。あり得ないとは言えないが、君たちのイマジンはしっかりと手綱を握られている。余程のことがなければ、相手の命まで取ってしまうことはない。心配するな」

 エイラはそうね、と言いながら意味ありげに唇の端を持ちあげた。

「コタツ、帰るわよ。明日から忙しいんだから」

 エイラが店を出る。コタツは元気よくその後を追っていった。

「ミズハが心配なんだよなあ」

「本当に心配になるから、やめてよ」

「あまり深く考えない方がいい。エイラはああ言っていたが、余程の実力差があるとか、または不意打ちでなければ、相手もイマガイズ、そしてイマジンで抵抗してくる。こうなれば、突然死ぬような事態にはならない」

 対イマガイズであっても、心配はいらないと言われ、僕たちは少し安心した。


 にわかに〈ウィズダム〉を取り巻く環境が一変した。〈ウィズダム〉自体が標的にされるなんて……。

 僕たちは正しいことをしている。自信を持って言える。だが〈獣の男〉はそう思っていない。そして、自分たちの方がよりよく飾有町かざりちょうを管理できると考えているようだった。

 〈ウィズダム〉は間違っているのだろうか。そんな疑念が、頭を掠めたりもする。いや、そんなわけがない。〈獣の男〉の思想こそ、この町に混乱を巻き起こすものだ。〈ウィズダム〉の正当性は、メンバーそれぞれが身をていして町を守ることで証明しているではないか。

 〈ウィズダム〉は想像の力を導き、町を守る組織だ。〈獣の男〉たちは打倒すべき相手だ。

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