創造力 その二
「では本題だ。皆瀬のイマジンは水の入ったペットボトルや壁を出現させた。物体を出すイマジンだ。実際に出してみるのがわかりやすいだろう」
僕は以前の訓練を思い出し、ありのままを心に描いた。しかし、何かが起きる気配はない。
それなら具体的に考えようと思ったが、水と壁に接点などあるのだろうか? 無理に関連づけるとほとんど対象がなくなってしまうし、その逆では対象が多すぎて定まらなくなる。全く何も思い浮かばない。
僕はどうしたものか、と首を捻った。
「漠然としていてはやりづらいか。現象の再現から入ろう。まずは水の入ったペットボトルを出せるか、試してみてくれ」
「いきます」
僕は水の入ったペットボトルを想像した。
「おお!」
「アキヒロの仮面が光ったわ!」
それとほぼ同時に僕の手も微かに光り、次の瞬間には水の入ったペットボトルが握られていた。
「見事だ。体の調子はどうだ?」
「特に疲労や違和感はありません」
「そうか。話では三本のボトルを出していた。五本でテストしよう。やってみてくれ」
僕は再び水の入ったペットボトルを想像した。今度は複数だ。
仮面に光が走り、続いて宙が青紫に光る。それは最初、ぼんやりとした球だったが、ペットボトルの形を取るとすぐに実体化した。ボトルは僕の手元ではなく、ユウ、ミズハ、そしてセンセイの傍から出現していた。
三人は器用にボトルを空中でつかみ取った。
残りの二本は僕の数メートル手前の空中に出現した。そのまま落下し、地面に接する。ぽいんと弾むと、次の瞬間、仮面を走ったのと同じ色の光に包まれて消滅した。
「さっきとは挙動が違うな」
センセイが唸った。
「地面に触れたら、光って消えたわね」
「これは見たことないよな?」
「それに、ボトルが俺たちの手元に出現した。皆瀬がそうしようと思ったのか?」
「いえ、最初と同じイメージをしました」
「ねえ、アキヒロから私たちは離れたところにいるけれど、問題なくペットボトルが出てきたわよね?」
「そういえばそうだ。センセイなんてさらに離れた場所にいるぜ。俺なんて数メートル手前ですら苦労したってのに」
「特異な点だ」
センセイはボトルのキャップを開け、手を濡らした。手を器のようにして溜めると、イマガイズを一時的に解除し、口に含んだ。イマガイズを戻すと言う。
「ペットボトルも中の水も問題ない。しかも、これは市販されているミネラルウォーターのパッケージだ。皆瀬、体に問題がなければ、もっと出してみてくれ」
僕は水の入ったペットボトルを新たに五本想像した。仮面のひびに光が走る。
青紫の淡い光と共に五本のペットボトルが宙に現れた。しかし、それらは落下すると、先ほどと同じように光って消滅してしまった。
「だめです。形を残せない。消えてしまいます」
「なるほど。これは重要なポイントだ」
「市販品ってことは、どこかから瞬間移動させてるんじゃないか? その場の在庫がなくなったから、もう出せないとか」
「だが、消えるのはどういうことだ」
「イマジンが作動してる合図かも。俺のイマガイズから出る蒸気なんかがそうだ。合図は出るけど、在庫がないから物は打ち消されて残らないんだ!」
ユウは自信満々だが、
「あり得なくはないな」
とセンセイの反応はいま一つだった。
「イマジナルと戦っていたときは三本だったわね。四本出せるなら、出てくれてもよかったのに」
「そのときは在庫が三本だったんじゃないか?」
「あんまり安易すぎるわよ」
「確かに安易だ。だが、当たらずとも遠からずかもしれない。ちょっと待っていてくれ」
センセイはその場を離れ、ラークへと向かった。
一分も経たないうちにセンセイはイナリを連れて戻ってきた。
「イナリ、協力してくれ」
「いいですが、どのようにすれば? 何かを出しましょうか?」
「立っていてくれればいい。皆瀬、もう一本だ」
僕は水を想像した。仮面と宙が輝き、ペットボトルが現れた。
ペットボトルは地面に落下し、消滅すると思われた。しかし、それは確かな実態を保ったままイナリの足元に転がった。
「ありがとう、イナリ。非常に参考になった」
「ええ。それは構いませんが、もう終わりですか?」
「ああ」
「そうですか。力になれたのなら結構です。また御用があれば、お呼びください」
イナリは頭を下げるとラークへと帰って行った。
「さっきは出なかったのにね」
「どういうことなんだ?」
「単純な話だ。ボトルは人数分出せる」
なるほど、と僕らはうなずいた。
「ヒロのイマジンは、人数分の何かを出せるイマジンなのか」
「そう判断するのはまだ早い。他には壁を出したんだったな。皆瀬、やってみろ」
僕は壁をイメージした。ペットボトルの時よりも強く、そして素早く仮面に青紫の光が走った。数メートル手前に現れた光の玉も大きい。それは面の形を取り、一枚のコンクリート壁になった。
しかし、二、三秒ほどで弱い光が内側から漏れたかと思うと、壁全体が光の粒になって拡散し、消滅してしまった。
「岸戸、北城。そちらから見てどうだ?」
「うーん、消えちまったな」
「しっかりした壁に見えたのにね。戦ってないとだめなのかしら」
「だが、ペットボトルは出せた。本数に制限があったように、これも何か条件があるんだ」
「人数が条件なら、あのときは三人だったぞ。今は四人だ」
「そうねえ。複数の条件があるのかしら」
「可能性はあるが、まずはシンプルに考えるべきだ。複数の条件組み合わせを考えるとなると、前に皆瀬のイマジンを判別しようとしたときのように、あらゆることを試さなくてはいけなくなる」
「あれは大変だったなあ」
「ペットボトルのときは人数が関わっているように見えたが、実は別の、壁が出ない原因と共通の条件があるのかも知れない。他には何が出せる?」
僕は手当たり次第に想像した。
まず視界の隅に映った、壊れた的。ミズハが訓練のときに破壊したものだ。これらを想像した。的の残骸の傍に、真新しい木製の的がいくつも出現した。これらは消えずに残った。
木製から連想して、タンス、テーブル、ドア、椅子と次々に想像した。タンスとドアは出現後、すぐに光の粒になって消えた。テーブルとイスは現れたものの、想像していたものと違って、キャンプで使えるような軽い折り畳み用のそれらだった。椅子の数は四脚。人数分だ。
それならと思い、バーベキュー用のセット、加えて串に刺さった肉と野菜をイメージする。テーブルの近くにそれらが出現する。火も起こされており、網の上の食べ物はじゅうじゅうと焼け、いい香りを辺りに漂わせていた。
「皆瀬、十分だ。体調は問題ないか?」
いくらでも出せそうな気がしたが、言われてみると軽い疲労がある気がした。
「少し疲れた程度です」
「そうか。……なんというイマジンだ。イナリのイマジンは他人の想像を媒介にして、本人への負担を大きく軽減している。しかし、皆瀬のイマジンは違う。凄まじい想像密度と物量だ……。どれも皆瀬が思い描いていたものか?」
「いえ、テーブルとイスは木製のつもりでした。タンスとドアはすぐに消えてしまいましたし、何もかも思い通りではないようです」
「これらは出せて、壁、タンス、ドアは出せないのか……」
センセイは思案しながら、端に出現した木製の的を調べに行った。
「関連性が見えないわね」
「バーベキューパーティーするイマジン!……なわけないよなあ。端に出た的や、戦闘のときに出した壁はバーベキューとは関係ないもんな」
センセイは的を触っていたが、やがて戻ってきた。
「文句のつけようがない、立派な木製の的だ。元あったものより上等なぐらいだ。あの距離に直接出現させて、全く何の劣化もないとは。イマガイズの発現もそうだが、皆瀬のイマジンには枠から外れたところがあるな」
「出た物を見てると、何でも出せるように見えるわ。ユウじゃないけれど、今にもバーベキューパーティーを始められそうじゃない」
「だろ? そう考えたらタンスは出なくて正解だな」
「まあね。ここにタンスがあったら変よね」
僕は今の会話にヒントがあると感じた。




