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揃う足並み

 僕たちがラークに着くとイナリが迎えてくれた。

「おつかれさまです。大変だったようですね。治療の準備はできているそうです。さあ、下へ」

 迅速にヒカゲの元へと案内される。

「みんなあ、無事でよかったよ! 全然連絡がないから、どうなっちゃったのかと……」

 カナタが泣きそうな表情で駆けてきた。

「カナタよお」

「ひぃ、ハスバさん、ごめんなさい。他の班はどうしても手が離せなかったらしくて……」

「怒ろうってんじゃねえよ。おめえがぱっぱと第六班に要請してくれたおかげで助かったんだ。あのまま時間が経ってたら〈ウィズダム〉総出の大仕事になるところだった。今回は、よくやったんじゃねえかな」

「ええっ? ハスバさんが褒めてくれるなんて、なんだかおかしいよ!」

「うるせえなあ」

 ハスバはわしわしと頭を掻いた。その後ろで、僕のことは全然褒めてくれませんよね、とオウナがぶつぶつ言っていた。

「いいから、ヒカゲのところだ。岸戸もこい」

 ハスバはベッドの方へ向かっていった。


 ヒカゲはすでに錠剤を用意していた。

「飲め」

 ユウとオウナは薄緑の薬を一錠ずつ受け取った。口に含む。

 錠剤は飲むというより、口の中で粘膜に吸収されてなくなっていくんだ、と後にユウは語る。

「止血する。すぐに終わる。ベッドに行きな」

 ヒカゲがベッドを指差した。ベッドは横に五つ並んでいた。ユウとオウナがベッドへ向かう。その後にハスバがこっそりと続いた。ヒカゲがハスバを睨んだ。

「おい、脱走者。今度は抜け出さずに寝てろ」

「人聞きが悪いじゃねえか。薬飲んで具合がよくなったから、任務に復帰しただけだろ」

「薬は寝ないと効かない。嘘つきだな」

 ヒカゲがくつくつ笑う。ハスバはばつが悪そうに、ヒカゲに背を向けてベッドに横たわった。

 ヒカゲはユウとオウナの傷を確認し、処置を始める。先に言われたように、それはすぐに終わった。鮮やかな手際だった。

「あとは寝ろ」

 淡泊にそう言うと、ヒカゲは机で辞典のような厚さの本を広げた。

「ありがとうございます」

「あのう、寝るって今日は家に帰れないのか?」

「夜には治る。でも、暗いからな。今日は泊れ」

 ヒカゲがページをめくりながら言った。

「そっか。じゃあヒロの家に泊まるってことにするかな」

「話は合わせておくよ」

「助かる」

 ユウは家へと電話をかけ、今晩は帰らないことを告げた。特にとがめられもせず、通話を終了する。

「ヒロの名前を出すとスムーズでいいぜ」

 オウナはもう寝息を立てていた。


「治療は済んだようですね。他のみなさんは食事でもいかがですか」

 とイナリが言った。

「うーん、嬉しいんだけど、今日はとっても疲れちゃったわ。ごめんなさいね」

「僕も早く家に帰って眠りたい。イナリさん、また今度、ご馳走してください」

「それは残念です」

 イナリは眉を下げたが、すぐに笑顔になる。

「では出口まで、お見送りしましょう」

 僕らはイナリの後に続いた。クリークは僕の肩に飛び乗った。

 センセイが部屋のドアの横に立っているのが見えた。その横を通るときに、よくやったなと言いながら、肩をぽんと叩いてくれた。これだけのことだったが、僕は認められた気がして嬉しくなってしまった。


 家までの道のり、十字路に差し掛かり、ミズハが聞く。

「家までついていきましょうか?」

「クリークがいるし大丈夫。今までありがとう」

「変な言い方。アキヒロって変に律義よね。まあ、そこがいいところか。今日は大活躍だったわね、クリーク」

 クリークが自慢げに鳴いた。

「じゃあ気をつけてね」

 ミズハは手を振りながら十字路を曲がった。

「僕らも帰ろう」

「ふぎゃふぎゃ」

 クリークは僕の肩から飛び降りると、前を歩いていく。いっちょう前に、護衛のつもりなのかもしれない。

 クリークとはある程度、意思疎通ができるようになってきた。能力もわかった。

 今まではイマガイズすら出せず、イマジンはただのネコみたいな生き物だと、正直悲観していた。僕が足を引っ張っていることを二人は否定してくれるが、僕自身はそう割り切れていなかったのだ。だが、これからは違う。クリークと協力すれば、もっとユウとミズハに協力できる。対等な立場で戦闘に参加できる。クリークのおかげだ。僕は心の中で感謝した。

 部屋に着くと、慣れた場所だからか、急に体の重さを実感した。軽くシャワーを浴びた後、倒れこむようにして眠ってしまった。




 夜。闇と静寂が辺りの全てのようだった。平凡な男は、また高台から町の明かりを眺めていた。

 靴音が響く。首輪の男、ケイジがその横に並んだ。

「手に入ったかね」

 振り返りもせず、男が聞いた。ケイジはかぶりを振った。

「責めているわけではないのだ。むしろそれでいい。それが分別というものだ」

「フンベツ」

「お前がその気になり、手段さえも選ばなければ、いかなる状況でも目的を達成できるだろう。だが、目的と状況を照らし合わせ、おまえは考えたのだ。そして、リスクを回避することを選んだ」

「従来の私にはない感覚でした。それは確かです」

「次も考えろ。分別を持たなければ、理想は成しえない」

「はい。……ところで、わからないことがあります」

「なんだ」

「やつらの言葉です。ウィズダム、イマジン、イマガイズ、イマジナル……。張りこんでいるとき、何度も耳にしました。私の知らない言葉です」

「人はモノに名前がないと困るのだ。だから、新しいもの、今まで存在しなかったモノには名前をつける。すでにある名前から取って、ときには新しく言葉を作りさえもする。お前にケイジという名があるようにな」

「あなたから頂いた名前です」

 ケイジは深い感謝の念と共に片膝を立て、首を垂れる。

「イマ……これらは、どれも想像に関わる言葉なのだろう。一つだけ毛色の違うウィズダムは組織名と考えるのが妥当か。……しかし、やつらが〈ウィズダム〉を名乗るとは、皮肉だな。だったら、我々もやつらの言葉にならってやろう」

 男は鼻で笑うと、同じ姿勢を取り続けるケイジに語りかけた。

「お前は強い。そして徐々に変わりつつある。この町に疑問を抱き、興味を持て。変えるには、まず知ることが必要だ」

 ケイジは顔を上げた。

「私にはわかりかねます。しかし、あなたの理想を実現するためであれば」

 そう言うと、首輪の男は闇に消えた。

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