空を覆うは葬送の調べ その三
第六班は顔を見合わせた。
「どうするって、地道に潰していくしかないだろ」
「数は多いけど、大した強さじゃないわ」
ハスバの歯車の回転が少し早くなった。
「そりゃあ、感心しねえ方法だな」
「なんでだよ。いくら多くても、倒していけば減るだろ」
「俺もそう思っていたよ。倒していけば、いずれは終わるってな。だけどな、違ったんだ」
「どういうことですか」
「あいつらは増えてるんです。少なくとも僕たちが倒す数以上に」
「増えてる? カナタさんも反応が大きくなってるって言ってたわね」
「それに気がついたときには、すでに俺たちは消耗しきっていた。ここに何とか隠れたのはいいが、ケータイを落としちまって連絡手段がねえ。壁の向こうではイマジナルが集まっている気配がしやがる。どうにも身動きが取れなくなったところへ、おまえらが来たというわけさ」
皆瀬は拾った携帯電話のことを思い出し、ハスバに渡した。ぶっきらぼうに、どーも、とお礼を言われた。
「それでも、僕たちとあなた達が協力すれば、減らしていけるのでは?」
「かもしれないな」
「だ、だめですよ。センセイは怪我をしてるんです!」
「うるせえな。俺は平気だ。俺を行かせないってんなら、おまえたちが行くのも許可できねえ」
「そんなあ」
「話を聞くに、闇雲に消耗戦を仕掛けるのは得策じゃないみたいね。連絡もとれるのだし、増援を頼んだら?」
「お前たちに要請が回ったのは、近かったのもあるが、手が空いてそうだったからだろう。他の班は手いっぱいってことさ。一応連絡してみるが……」
ハスバは電話をかけ、二言、三言話すと、すぐに通話を切った。
「予想通り、ラークには誰も帰ってねえ。カナタが他の班に当たってくれるそうだが、時間がかかるとよ」
「時間がかかるって、あいつらは今も増えてるんだろ? 少しでも減らしておこうぜ」
岸戸が拳を合わせ、やる気をたぎらせた。
「それで消耗し、増援が来たときに何もできないんじゃ、同じことの繰り返しだ」
「ぐっ……それもそうか」
「でも、じっとしているのは、性質じゃないわね。何か出来ないかしら」
皆瀬はここしばらく考えている様子だったが、ぽつりと口を開く。
「敵の親玉がいるか、巣があるんじゃないかな」
ハスバは感心したように目を細めた。と言っても、機械に埋め込まれた眼球を丸いシャッターが覆ったのが、そう見えただけかもしれない。
「おまえ、皆瀬だったか。詳しく言ってみろ」
「イマジナルが想像から生まれるといっても、こんなに無尽蔵に、しかも同じ種類のイマジナルが湧くのかなって疑問だったんです。きっと、これ自体が能力なんだ。イマジナルを生みだすイマジナルがいてもおかしくない」
「なるほど……。他に考えられねえ。畜生、なんで今まで気づけなかった……」
ハスバは自分を責めているようだった。
「そうとわかれば、親玉をぶん殴りに行こうぜ!」
岸戸が気炎を吐いた。
「ちょっと、親玉はいいとして、どこにいるかわからないのよ。探している間にやられちゃうわ」
「いや、ミズハ。場所はわかるよ。想像の力は手元に発現させるのが効率いい。あのイマジナルが湧くのは大元の近くのはずなんだ。つまり」
ハスバが言葉を継いだ。
「イマジナルが濃いところを目指して行けばたどり着ける。なるほどな。いい推理だ」
「すごいです、皆瀬さん!」
「おめえも、ちっとは頭を使え」
「す、すみませえん」
「だが、それだと大量のイマジナルと戦い、しかも正面だけでなく四方八方から攻められることになるぞ」
「センセイ! 目的地がはっきりしていれば、僕のイマジンで安全に進めます」
「ほう、オウナにしては上出来だ。……じゃあ、こうすっか。オウナもうるせえし、俺は治療のため一旦ラークに帰る。移動には、怪我人がいない方がいいだろ」
「僕も行きますよ」
オウナが手を挙げた。
「あほか。おまえは第六班と一緒に行くんだよ。後は皆瀬の指示に従え。まさか俺が一人で帰れないなんて、思っちゃいないだろうな?」
オウナは不服そうだったが、わかりました、と返事した。
「心配なのはおまえらだ。いいアイディアだが、やり直しは利かねえぞ。一発で決めてこい」
岸戸が肩に手をやり、ぐるぐると回す。
「よっしゃ、ぶちのめしに行こうぜ」
北城はぐいと天を仰ぐ。長い髪が広がり、帯が宙を踊る。
「数の暴力って、嫌いなのよねえ。特に自分だけ安全なところにいるやつはさ」
「クリーク、僕らも行くぞ」
クリークは元気良く返事をする。
オウナがハンマーを振りまわし、入り口に向かって構えた。
「では、みなさん。しばらくの間、よろしくです。壁を取り払いますよ。外に出たら、道路の上で固まって、少し待ってくださいね。……それでは、センセイも気をつけて」
ハスバはめんどくさそうに手を振った。
オウナが入口に作った壁に意識を集中すると、それは触れもしないのに一瞬で消える。皆瀬たちが飛び出し、道路上に集まる。
ハスバはそれと逆方向に駆け出していき、角を曲がって消えた。
皆瀬たちの動きにイマジナルの群れが気づいた。
オウナはハンマーを振り上げ、アスファルトを思い切りたたく。先ほどよりも大きく表面が複製され浮き上がり、ハンマーに収納される。
「みなさん、姿勢を低く!」
オウナはハンマーで皆瀬たちを次々と、最後に自分自身をも軽く叩く。
イマジナルが羽音を立て、迫る。だが、メンバーの上で急に方向転換すると、間もなく飛び去って行ってしまった。
「今のうちです。進みましょう」
皆瀬たちの体は真っ黒になっていた。色だけではない。アスファルトの質感が全身を覆っている。表面がパリパリしているが、動くことでひび割れることはないようだ。
「うお、なんだこれ」
「これが僕のイマジンです。カモフラージュになって、上空からはかなり発見されにくいはずです」
「へえ、便利ねえ」
「あまり離れるとか、僕の集中力が途切れるとかすると消えてしまいますけどね」
番条ビル周辺には大量のイマジナルが飛びまわり、黒い雲のように見える。それは先ほどよりも明らかに濃くなってきていた。
「イマジナルはあの大きいビルに集まってるみたいだ。そこに向かおう」
一同はうなずくと、番条ビルに向かって移動を開始する。
オウナのカモフラージュがあっても、低空を飛びまわっているイマジナルには気づかれてしまう。偽装を横から見られると真っ黒な一団が見える。都合よくビルの柄になるとはいかないのだ。だが、それでもうんと遭遇回数を減らし、戦力を温存しながら番条ビルへと到着することができた。




