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空を覆うは葬送の調べ その二

「なんだ、ありゃあ」

 少し先に見える番条ばんじょうビルが煙っていた。煙はごうごうと音を立て、ビルとその周囲を取り巻いている。

「こっちにくるわよ!」

 煙の先端が伸びあがり、ゆっくりとこちらに差し出されたかと思うと、それを構成している物体が徐々に明らかになった。


 二十センチほどのイマジナル、その集合が煙のように見えていたのだ。昆虫を基調として、一見イナゴのようなシルエットだが、顔が馬のように長く、丸い口には門のようにみっちりと白い歯が生えている。胴体は毛深く、生えている三対の脚は頼りないが、対照的に四枚の羽は大きく立派だ。腹部は節のある袋のような、昆虫のそれである。


 脚を折りたたみながら、ばらばらと羽を鳴らし、数十匹が向かってくる。

 岸戸は大きめの盾を出し、向かってきた半数を受け止めると、そのまま壁にたたきつける。数匹が岸戸にとりつく。噛みつこうと口を開ける。その対処に追われているうちに、残りが岸戸の防衛を突破し、北城に襲いかかる。

「大したスピードじゃないわね」

 拳を叩きこみ、変形を大げさにすると、べしべしと音を立ててイマジナルが折れ曲がった。北城は同じ要領で、ほぼ触れるようにして残りを叩き落としていく。

「でも、数が……多い! アキヒロ、そっちにも行くわよ!」

 倒しそこなった三匹が皆瀬に向かう。

「ふぎゃー!」

 クリークが飛び上がる。二匹を爪で叩き落とし、最後の一匹に噛みつく。イマジナルはどれも動かなくなった。

「やるじゃないか!」

 クリークはイマジナルを吐き捨てると自慢げに鳴いた。


「こいつら、てんで弱いぜ」

 取りついた数匹をひきはがし、盾で潰すと岸戸が言った。

「数で押してくるみたいね」

「あの煙が全部イマジナルなのか。すごい数だ」

「三班と合流しようぜ。力を合わせれば、いくら数が多くても、そのうち終わるだろ」

「賛成。それに助けを必要としているかもしれないわ。急ぎましょう」

「三班は僕たちより場数を踏んでいるんだ。そう単純な話じゃないかもしれない。気をつけて進もう」


 第六班はGPSを頼りに第三班の捜索を開始した。

 番条ビルエリアはオフィスが立ち並ぶ区画だ。皆瀬たちは大小様々のビルの間を進んでいく。反応は現在位置よりも番条ビル側にあった。

 途中、何度かイマジナルの大群に襲われるが、第六班の敵ではなかった。しかし、進むにつれて、だんだんと敵の密度が濃くなっているようだった。

「地図だとこの辺りだよな」

「みて、あそこ。イマジナルが集まってるわよ」

 数十匹のイマジナルが蚊柱のようになっている。

「何かあるのかもしれない」

「掃除といきますか」

 岸戸と北城が飛び出し、イマジナルを蹴散らす。クリークがその残りを的確に倒す。

 一分足らずで動くイマジナルはいなくなった。

「見て。何か落ちているわ」

 倒したイマジナルの陰に四角く黒いものが覗いている。皆瀬がそれを拾い上げる。

「これは、携帯電話だ」

 画面をタッチすると、僕らの携帯電話と同じ画面、〈WIZ〉が表示された。

「第三巡回班のものに違いない」

「じゃあ、GPSはこれかあ。やられちまったのかな」

「そうとも限らないわ。でも手掛かりがなくなっちゃったわね」

 皆瀬は拾った携帯電話をしまう。

「ふぎゃぎゃー。ふぎゃぎゃー」

「どうしたクリーク」

 クリークは壁際の一段高くなったステップでしきりに鳴いている。しかも壁の方を向いてしきりに鳴いていた。

「何か伝えたいのかもしれないぜ」

「妙ね」

 ミズハが壁の下方を観察しながら言う。

「これってどう見ても玄関マットよね。壁の下から生えているの」

「間違いない。一段高いステップになっているし、ここには玄関があったんだ」

 だがステップの先には堅そうなコンクリートの壁が立ちはだかっている。

「そんなことができるのは、もう限られてくるよなあ。離れててくれ」

 岸戸が蒸気を噴出しながら盾を腕に装着する。それを壁に向かって振り下ろす。

 ぼこ、ぱらぱら……。

 意外にも壁は薄く脆かった。軽い音を立てて崩れさる。壊れたドア、そしてその奥には二人の男女が座っている。歯車の男と緑っぽい面の少女。イマガイズだ。

「誰だ、おめえら」

 歯車の男が座ったまま言う。こちらがイマガイズでも、すぐには警戒を解いてくれないようだ。

「僕たちも巡回班です」

 皆瀬がとっさに答える。

「センセイ! きっと救援ですよ!」

「うるせえ、はしゃぐな。俺たちは第三巡回班。俺はセンセイをやってるハスバだ。で、こいつはオウナ」

 皆瀬たちは、自分たちのセンセイとはだいぶ雰囲気が違うと思いながらも、それぞれ名前を告げる。

「ははーん、なるほど。おまえらが第六巡回班か。ラークで噂になってるぜ。どえらい三人組の新入りが来たってな。外のは、おまえらがやったのか?」

「ええ。でも、まだたくさんいるわ」

「だろうな。オウナ、また塞いでくれや」

「了解です!」

 オウナはコンクリートの床にハンマーを叩きつける。衝撃で床がが浮きあがったように見えた。勘違いではない。複製された表面構造が一枚の布のように浮きあがり、そしてハンマーの中央に巻き取られるように消える。ハンマーのタイルが様々な色にぴろぴろと変化するが、それは一瞬で元に戻る。

「いきますよー」

 オウナは玄関に立つと、そのハンマーで宙を打つ。そこにまるで何かあるように、ハンマーには確かな反動があった。すると、先ほど複製した表面構造が壁のように展開され、完全に閉鎖された空間を作り上げた。

「完了です」

 玄関を塞ぎ終えたオウナが戻ってくる。

「これで、ちっとはゆっくり話ができるな。見上げてしゃべるのも疲れるんで、おめえらも座ってくれ」

 皆瀬たちは言われたように座る。クリークが皆瀬の膝に飛び乗る。ハスバはふうと息をつくと再び話し始めた。

「で、おめえら。どうするつもりなんだ?」

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