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暗中飛躍

 カウンターでイナリ出してもらった飲み物を飲み、僕たちは一息ついた。

「〈ウィズダム〉としての初任務、ご苦労だった。一連の流れはわかったかね?」

「ええ。でも、どのぐらいの時間まで巡回を続ければいいのかしら」

「それは任せる。ただ夜になってしまうと、危険を未然に排除するというより、行き当たりばったりになってしまう。視認性の面でも、住人の想像の面でも夜は不利だ。なるべく夕方までに問題を解決し、暗くなる前に町をクリーンな状態にするのが望ましい」

「休みの日はどうするんだ?」

「土曜か日曜、任意で休んでもいい。ただし、急に人手が必要になる場合もあるからな。呼出には対応できるように心がけてくれ」

 これなら学校とも両立できそうだった。

「どうです。ジョウさんがいなくても、やっていけそうでしたか」

 イナリが尋ねた。

「ちょっと苦戦したけど、大丈夫だったよな」

「僕が上手くイマジンで応援できると、もっといいんだけど」

「何言ってんのよ。アキヒロが考えてくれたからじゃない。私はともかく、ユウなんか突っこんでいって、やられちゃってたわよ」

「やられないって! でも、ヒロがいなけりゃ、あれは思いつかなかったな」

「役立てているなら、よかった。てっきり足を引っ張っているかと思ってさ」

 ユウは僕の髪をぐじゃぐじゃかき回し、ミズハはこちらに来て背中をパンパンと叩いた。


 イナリがクリークにサラミを与えながら言う。

「巡回の後は、いつでも気軽に立ち寄ってください。そうすれば他の班と会うこともあるかもしれません。情報交換は有意義ですよ」

 自分の一番欲しているものを出してくれるのだから当然ではあるが、イナリの出す飲み物は本当においしい。代金も結構ということなので、僕たちはここが気にいってしまった。そして、センセイの話では必ずしも協力的ではないとのことだったが、他の班員と会ってみたいのもあった。僕たち三人は、巡回が終わったら毎回ラークに戻ろうと、意見が一致した。


 グラスを空け、そろそろ帰ろうかというとき、

「次回からは俺はいない。俺も個別に巡回することになった。第七巡回班としてな。今後は会う機会がぐっと減るだろう。なあに、わからないことがあったら、イナリたちが答えてくれる。心配はいらない」

 とセンセイが言った。

 信頼され独り立ちした充足感はあったが、少しさみしい気もした。センセイも同じ気持ちなのだろうか。仮に彼がそう思っていても、言葉にはしないだろう。

「センセイ、ありがとうございました」

「最初はちょっとおっかなかったけどな。センセイがセンセイでよかったよ」

「私、センセイより強くなって見せるからね!」

「おいおい、何も最後のお別れじゃないぞ。俺もここにはよく来る。また会えるさ」

 センセイはふっと笑って、手を差し出した。僕たちは順番に握手した。力強い手だった。




 日付が丁度変わった頃。

 飾有町かざりちょう南側の外れ、辺りを一望できる小高い丘がある。手すりとベンチが備えられ、静かに夜景を楽しめるとひそかに人気のデートスポットだ。

 だが、今そこにいるのは男二人きりである。一人は中肉中背の特徴のない男。もう一人は、スーツに首輪の男だ。

 二人は夜中だというのに仮面をつけていない。

「ケイジよ。この町の光が、私は嫌いだ」

 特徴のない男が言った。

「私には、それがよくわかりません。……ですが、あなたの理想は実現させたい」

 しばらくの間、二人は無言で町を見た。

 特徴のない方が、静かな調子で言う。

「例のモノはどうだ」

「居場所はわかっていますが、邪魔が入りそうです。殺しますか?」

 ケイジと呼ばれた首輪の男は、ごく自然にその言葉を発した。

「居場所がわかっていれば、今はそれでいい」

「お言葉ですが」

 ケイジが歯を剥き出しにし、唸った。

「そうしていて、あなたの理想はいつ完成するのですか」

「ふん、なら好きなようにやってみろ。ただし、確保が最優先だ。周りを殺す必要はない」

「ありがとうございます」

 ケイジは元の丁寧な物腰に戻り、深く礼をすると、目の前の柵に手をかけ、ぽんと飛び越えた。

 落ちると危険だから柵がある。しかし、首輪の男が平然と下を歩き去っていくのが見えた。

 特徴のない男は、じっとそれを見つめていた。

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