表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/150

胡桃割り その二

 皆瀬は口に人差し指を当てると、携帯を取り出し、何かを入力する。

〈あいつは音だけを頼りにして僕らを見つけている〉

 〈WIZ〉の左の欄に皆瀬が打ちこんだ文字が現れる。

〈僕を見失ったことを踏まえると、ドップラー効果から位置を割り出すような、そんな高級な器官じゃないらしい〉

〈だから狙いに、むらがあったんだな。俺の盾も見えていないようだった〉

〈このまま静かにしていれば、対策は練られそうね〉

「いや、待て。何の音だ」

 緊急を要したので、皆瀬は小声で伝えた。イマジナルの方から、ギチギチという不快な音が響く。発見したときに出していた音だ。

 イマジナルは僕らの方に一歩を踏み出した。

「移動しよう」

 岸戸を最後尾に、皆瀬たちは静かに、そして慎重に移動する。ギチギチと音を鳴らしながら、イマジナルはゆっくりと方向を修正し、正確に一団へと向かってくる。

「適当に動いてるんじゃないみたいだぞ」

「なぜ? 大きな音は出していないのに」

「感度を切り替えたのかも。足元に気をつけよう。少しの音も出さないように移動するんだ」

 三人と一匹は細心の注意を払い。滑るように移動する。だが、それをまるで見ているかのように、イマジナルはギチギチと音を立てながら追尾する。

 この先はやぶだ。音を出さずには進めない。しかし、ここで止まっていては対策もないまま再び対峙し、消耗してしまう。

「感度だけじゃないみたいだ。探知方法を切り替えている。あのギチギチした音がソナーのようになっているんだ」

「ソナーって潜水艦の?」

 皆瀬はうなずく。

「初め、やつはこちらが出した音を拾って目標にしていた。けれど、今のは違う。自分で出した音の反射を拾っているんだ。これなら静かで動かない物体も探知できる……。音に頼るなら、能動的に探知する方法を持っていないはずがない。うかつだった」

「藪を進むの? どうするの?」

 皆瀬は迷う。このまま戦うのも藪を進むのも、どちらもいい選択とは思えない。突然、岸戸が口を開く。

「……感度は上がってるんだな?」

「ああ? 間違いない。あのギチギチした音の反射を確実に拾えないと、こちらの位置がわからないはずなんだ。さっきまでは小声の会話は大丈夫だったようだけど、今ではそれも捉えられているかも」

「どうしたら……」

 イマジナルがゆっくりと迫る。

 皆瀬は考える。散開するか? だめだ。岸戸と北城には疲労が蓄積してきている。誰が狙われても窮地に陥るし、囮にして隙をつくにしても、普通の方法ではあの装甲を破れない。みすみす一人を犠牲にするようなものだ。だからといって、このまま三人でじっとしていても状況は悪くなる一方だ。

「ヒロが言うなら間違いない。俺に任せてくれ」

 ドクロの中の太陽が熱く燃えあがった。

 岸戸は一人、イマジナルに向かう。イマジナルはギチギチ音を鳴らし、じっくりと確実に岸戸との距離を縮めていく。岸戸は丸く薄っぺらな板をそれぞれの手に出現させ、イマジナルを迎え撃とうとしている。

「あの薄さじゃ受け止められないわよ。かといって刃物ほど鋭くもない。何を考えているの?」

 岸戸は両手を大きく広げ、構える。眼の前までイマジナルが迫る。太い二本の脚が岸戸を挟みこむように振り回される。

 その瞬間、岸戸は思い切りよく腕を閉じ、二枚の板を撃ち合わせた。

 それは盾でも武器でもなかった。巨大なシンバル。空気が震えるほどの音が出た。

「敏感すぎる器官なら、でかい音は想定されてない。だろ?」

 これは視覚でいうならば、暗闇に慣れた目に強烈なライトを当てられたようなものだ。強烈な刺激は感覚器官へのダメージになり、機能を奪う。イマジナルの脚がふらつき、攻撃は岸戸を逸れる。脚に振り回されるようにバランスを崩したイマジナルは、胴からどすんと地に倒れた。起きようともがくが、平衡感覚を失っているのか、その脚は地面を削るばかりでつかまない。

 皆瀬と北城は、岸戸に駆け寄る。

「ユウ、シンバルとは考えたね」

「やるじゃない!」

「自分の耳までは考えてなかったけどな。まだキンキンするぜ」

「さてと。動きは止めたけど、この堅さはどうしたものかしら」

 イマジナルはまだ立ち上がれず、動きも鈍い。その隙に、皆瀬はこのイマジナルを改めて近くで観察した。

「……じっくり見て気づいたんだが、胴体の殻が前後で繋がってないね」

「柔軟性を持たせるためみたいね。どうも殴っても蹴っても手応えがないのよね」

「隙間は柔らかいかもしれない」

「でも、今はぴったりくっついてるわよ」

「それはミズハがこじ開けるのさ」

「なるほど。となると、隙間を狙うのは……俺だな」

 岸戸と北城がうなずき合う。

 イマジナルは、徐々に感覚を取り戻しつつあった。足に力がこめられ、胴体が持ち上がる。

 皆瀬はクリークと共に距離をとる。

「もう動きだすぞ。今しかない!」

 北城イマジナルの胴の下に素早く滑りこむ。シュッと息を吐いた。全身をばねにして、真上に突き上げる蹴りを放つ。大げさにするのは変形。イマジナルはぼくんと浮きあがり、胴をわずかに歪ませた。甲殻上方の隙間が少しだけ広くなる。

「行けえ! ユウ!」

 ミズハはイマジナルの下から滑り出る。

 岸戸が飛びかかり、隙間の柔らかそうな肉質にシンバルを食いこませる。イマジナルの足がぐにゃりと曲がり、力を分散する。さらに弾力性に富む表皮に阻まれ、少し食いこんだところでシンバルは止まってしまった。

「だめなの?」

「いや、まだだ!」

 岸戸はシンバルの固定を解除し、瞬時に厚みのある盾を装着する。板と呼ぶにはギリギリの厚み。その重さが尋常ではないことは一見して伝わった。ドクロのイマガイズから大量の蒸気が噴き上がる。

「おりゃあああああ!」

 突き刺さったシンバルへ超重量を叩きつけ、釘のように打ちこむ。ずぶり。表皮を突き破る感覚がした。シンバルがイマジナルの体内にめりこむ。

 イマジナルがゴリゴリと鳴く。岸戸を挟み潰そうと、二本の脚を振り上げる。

 北城が空に舞った。

「いい加減! 倒れなさいよ!」

 髪をなびかせ、上空から急降下するような飛び蹴りを金属塊に浴びせる。その吹き飛びを大げさにする。イマジナルの胴体と激突した衝撃で地面が抉れ飛ぶ。シンバルがさらに深く突き刺さる。

 胴体裏側の甲殻まで到達したらしく、これ以上シンバルはめりこまずに、ひしゃげてしまった。イマジナルが、がくがくと痙攣する。岸戸と北城はイマジナルから飛び退く。

 イマジナルは、それでもゆっくりと立ち上がる。

 岸戸と北城が構える。

 しかし、ふらふらとその場でぎこちなく足踏みをすると、足を振り上げるようにしてひっくり返ってしまった。伸ばした足から徐々に力が抜け、やがて動かなくなった。




「はあ、はあ、ようやく倒したな」

「これで動いたら、もう、どうしようもないわね」

 ユウから離れたシンバルが蒸気となって消えた。それでもイマジナルに動く気配はない。完全にやっつけたようだ。

 僕が代表して〈WIZ〉の報告ボタンを押した。イマジナルのマークは消え、欄に〈第06班 守床山 解決〉と表示された。

「よっしゃあ!」

「なんとかなったね」

「終わったのね」

 僕らはハイタッチした。クリークもほっとした様子だ。センセイが木の陰から現れる。

「見事だった。やはりイマジナルはだんだんと強くなってきているな。こいつは前に俺が倒して見せたやつよりも数段強い。正直に言うと、ピンチになったら手を出すつもりでいた。だが、その気づかいは無用だったな。やはり君たちはいいチームだ」

 イマガイズ越しでもセンセイが満足し、喜んでいるのがわかった。

「周辺の巡回を続けよう。日に二度、要請を受けることもある。気を緩めるなよ」

 僕たちはパトロールを続けた。〈WIZ〉の報告欄には、ぽつぽつと他の班の〈要請・交戦・解決〉が表示された。だが第六巡回班には要請はされず、危険性のあるイマジナルと出会うこともなかった。

「今日の巡回はここまでにしよう。ラークへ戻るぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ