ウィズダム
部屋の面々に一通り自己紹介を終えて、僕らは部屋の中央に集まった。
「以上が我々巡回班をバックアップしてくれるメンバーだ。彼らに加え、一人のセンセイを核とする、複数の巡回班で組織は構成されている。君たちは、その巡回班一つだ。組織の名前は〈ウィズダム〉」
「〈ウィズダム〉……」
「英知、知恵、そして賢明な教えを意味する言葉だ。自称するのはいささか恥ずかしくあるが、想像の力を正しく使うように導き、町を守る。それが俺たちの役目だ」
「巡回班はいくつあるんですか?」
「他に五つ。君たちは第六巡回班になる。そのうち三つがセンセイに対して一人、二つが対して二人、俺たちはそれに対して三人のチームだ。二人を抱えている班も最初からではなく、一人いるところに新しくイマガイズを加えたと聞く。君たちのように同時に三人の新入りが現れるのは初めてのことだ」
「センセイの他にもセンセイがいるのか。何だか変な感じだな」
「俺だけで全員の面倒は見られないからな。伝えたように、俺たちのチームはちょっと特殊だ。新入りとはいえ、イマジンを使える三人にセンセイがついてしまっては、戦力を集中しすぎだ。俺がついていくのは今回だけで、基本、君たちだけで任務を行ってもらう」
「大丈夫かしら」
「なに、信頼していなければ、こんなことは言い出さない」
「ヒロの心配症がうつったか? 自信持っていこうぜ、ミズハ」
「誰が心配性だって」
「信頼されるのは悪い気分じゃないけど、ユウは気楽すぎないかしら」
ユウはおどけたように首をすくめた。
「そういえば、いちいちここに来る必要はないって言ってましたよね?」
「ああ。巡回の具体的な手順に関わってくる。チヨ、聞こえているだろう。出番だぞ」
モニターから張りきった声がする。
「待ってました! さて、急だけども、みなさん携帯電話を出してもらえますかねえ」
僕たちはモニターのカメラに映るように携帯電話を取り出した。
「それで結構ですよ。ほい、インストール完了」
携帯電話にアプリケーションが自動的にダウンロードされ、操作なしにインストールが完了した。これがチヨのイマジン。
メニューには新しくアイコンが表示されている。
「それはGPSと地図上の想像力情報を同期させたものさ。これも俺が作ったんだよ。一応名前もあって、俺らは〈WIZ〉……ウィズって呼んでる。実際使ってみれば素晴らしさがわかるよ。アプリケーションの使い方は簡単。基本は、巡回中にただ起動させていればいいよ。まあ、ものは試しでやってごらんよ」
僕たちはアプリケーション〈WIZ〉を起動させた。数秒でそれは立ち上がり、壁のモニターとほぼ同様の画面が表示された。少し違うのは、左下に文字が並んだ枠があることだった。
「その状態になれば、カナタちゃんが君たちの位置情報を取得できるようになるのさ。まあ、慣れてくれば自分で地図から情報を読み取って判断できないこともないけど……」
「まだ難しいかもね。巡回班の位置はともかく、イマジナルの位置はかなりずれがあるから。イマジナルが具現化すると、その周辺の想像カスがぐっと減って、エネルギー密度が極端に下がるの。私のイマジンの性質上、その現象ははっきりと捉えられるんだけれど、その後はイマジナルが発するエネルギーを頼りに大まかな予測位置を表示するしかないんだ」
「それに、それに! 地図情報が常に最新とは限らないからねえ。バッテリーの持ちとかの関係で常時更新はできない仕様なんだ。最大十分ぐらいのラグが生じるよ。だからカナタちゃんに任せるのが確実で楽ちんだねえ」
「ハイテクだなあ! ラークに毎回来る必要がないのは、これがあるからか」
「で、この左下の枠は何?」
「そうそう! そこを一番説明したいんだよね。上ほど新しい項目なんだが、ちょっと見てよ」
〈第05班 飾有アーケードエリア 要請〉〈第05班 飾有アーケードエリア 交戦〉〈第05班 飾有アーケードエリア 解決〉といった文字の横に時間が記されている。
「班はいいよね。場所は問題が起きた場所。要請はカナタちゃんが連絡した時間で、交戦は戦闘が開始した時間。解決は問題の消滅を確認したってことだ。要請はカナタちゃんから連絡が入るし、解決報告は要請を受けた後に出てくるボタンを一秒ぐらい長くタッチすればお終いさ。簡単でしょう? これは、その場にいながらカナタちゃんに報告できるだけじゃなく、全巡回班の〈WIZ〉に同期される。このシステムによって巡回班の危機管理を含めた負担が少なくとも四十五パーセントは減ったんだよ。ついでに教えておくと、左の枠には任意に文章を書きこむこともできるし、特定の班や人にワンボタンでメッセージを送ったり電話をかけたりもできるのさ。基本のシステムで十分だから、あんまり使う人はいないけどねえ」
「ラークにかかってきた連絡は、私がとるのでよろしくね」
カナタが言った。キーボードの横にマイクが備わっている。これで応対するのだろう。
「うーん、まだしゃべり足りないけど、説明は以上かなあ。もっとしゃべりたいなあ」
「チヨ、ご苦労だった。……それでは巡回に出るぞ」
「おお!」
「初任務ね。ちょっとワクワクしちゃう」
「僕は別の意味で心臓が高鳴ってるよ。クリーク、大丈夫か」
クリークが元気そうに鳴いたので安心した。
僕の携帯電話に見知らぬ番号から着信があった。出てみると、電話の向こうと部屋の両方からカナタの声が聞こえた。
「同じ部屋の中なのに変だけど、一応流れを知ってもらう意味でね。実際は巡回中に私から連絡が入るからね」
「もう出るってときにだけれど、質問。イマジナルっていっても、全部が悪者じゃないんだろ? どうやって区別するんだ?」
「人間や町の建造物に被害を出しそうかどうか……そのぐらいの基準でいいよ」
「曖昧なのねえ」
「大抵はイマジナルの方から襲いかかってくるからね。害のないイマジナルは小さかったり、見るからに大人しいから、すぐに判断できるようになるよ」
「向かってきたやつは倒せばいいのね」
「わかりやすくていいな」
「本来は各班のセンセイに連絡するんだけど、次からジョウさんは別行動をとるらしいからね。第六巡回班は、代表として皆瀬くんに連絡するから」
「ぼくですか?」
「ヒロがリーダーってことか。俺はいいと思うぜ」
「頼んだわよ、リーダー」
「代表なのは構わないけれど、その呼び方はよせよ」
「こほん、それでは……ラーク裏手の山林にイマジナルが出現。第六巡回班は現場に向かってください。……では健闘を祈るよ」
通話は切れ、携帯電話の画面に〈第06班 守床山 要請〉と文字が現れた。
「ユウ、ミズハ。裏の山だって。行こう」
「よっしゃ、初仕事だ。頑張ろうぜ」
「訓練の成果、見せてあげるわ」
「今回は俺もついていくが、先行するのは君たちだ。口も手も出さないから、そのつもりでな」
手を重ね合わせ気合いと結束を確認すると、僕は仮面を被った。他の三人はイマガイズを発現させた。
第六巡回班がラークを出発した。




