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縁の下 その二

 僕たちはパソコンのある場所へ移動した。机上のモニターにはこの町の地図らしきものと二種類のアイコンが表示されていた。右上には〈WIZ〉というロゴがある。

「それで、これの見方なんだけど……」

「ちょっと待ったあ!」

 突然モニターが切り替わり、音声が流れてきた。大写しになっているのは〈エデンの外〉のおしゃべり男、チヨだ。

「俺を忘れるなんてひどいなあ、ジョウさん。ずっと缶詰めなんで、自己紹介ぐらいさせてくださいよ。えへんおほん! それじゃあ、いきますよ。俺は……」

 センセイはモニターに手を伸ばし無言で音量を下げた。男の声が聞こえなくなる。しかし、しばらくすると自動で音量が上昇し始めた。

「やめて下さいよお。話の途中……」

 今度はモニターのボタンを押し電源を切った。すぐさま画面が復帰する。

「ふっふっふ。俺にそれは通じないでしょ。わかっていてやるんだから、いじわるだよね」

「今、別の説明をするところだ。後にはできんのか」

「俺もみんなと一緒に自己紹介したい、したいんです。こっちにいるのは仕方ないですけどねえ、仲間はずれは酷い!」

 センセイは額に手を当てため息をついた。

「なら、手短に頼むぞ」

「わかってますって。俺の名前はチヨ。俺も観測班なんですけどねえ、カナタちゃんと違って〈エデンの外〉担当なんですよ。これがなかなか退屈でねえ。そうだ、俺のイマジンも知りたい? 知りたいよねえ。俺のイマジンは電子機器の遠隔操作。まあリモコンみたいなもんなんだけど……あれ、今くだらないとか思ったでしょ! 確かに戦いには向いてないんですけどねえ、いやはや、なかなかこれが便利でさあ。さっき、モニターを勝手に操作したでしょ。あれは俺がやったわけ。しかも、本来の操作系統より上のランクで操作できるんだよねえ。つまり機械に対して俺の命令は絶対なの。動けと命令すれば動くし、壊れろと命令すれば壊れちゃう。すごいでしょう。で、なんで俺が〈エデンの外〉を監視しているかというとねえ、気になるでしょう? 機械にはセキュリティというものがあるよねえ。俺がここで言っているのは論理セキュリティってやつで、いわゆるソフトの話さ。よくわかんないかもしれないけど、ともかくそういうのがあるんだ。セキュリティによって守られているから、機械は外部からの干渉を受けず、だから操作する人の望み通り働いてくれるわけだ。でも、最近は機械に精通した人も増えてきているからねえ。破られる可能性がある以上、それは絶対じゃないよね。そこで俺のイマジンを応用するとだね、俺がうんと言わなければ全く動かないようにできるわけ。つまり〈エデンの外〉は扉が物理的にでも壊されない限り、脱走不可能になるのさ。俺がここを監視することになった理由はそれなんだよねえ。そうだ、イマガイズも見たいよね?」

 僕らがまるで返答しないのに、チヨは立て続けにしゃべっている。センセイがやれやれと言った。


 モニターのチヨにイマガイズが現れた。

 黒がベースで、顔全体を覆っている。その部分は全く光を反射していなかった。顔に沿った形のはずなのに、立体感のない一様な黒い画面のようだ。左半分には縦に緑の光線が何本も入り、横にもまばらに渡された線がある。丁度、あみだくじのように見えた。その線は領域を超え、空間を浸食しているように見える。光は上から下へ流れるように明暗を繰り返し、目のある辺りが一番強く発光した。


「どう? なかなかいいでしょう。俺は気に入ってるんだけどねえ。このイマガイズのおかげで、遠隔操作で入力できるだけじゃなく出力も遠隔で飛ばせるのさ。つまり、サブね! この場所にいながら町中のカメラというカメラの……」

「カナタ、壁のモニターに映せるか? チヨも邪魔をしたいわけじゃない。こっちにまでは割りこんでこないだろう」

「了解です」

 カナタがキーボードを少しいじると、壁のモニターに先ほどの地図が映し出された。チヨはお構いなしに、夢中で話を続けている。センセイがこっそりボリュームを下げた。

「同じ班ながら面目ないです。……では気を取り直しまして。これは簡単に言うと、町のどこで想像の力が働いているか表示しているんだ」

 地図上には赤いもやと、縦に線が入ったボウリングの玉のようなマーク、そして三角の耳が生え、悪そうな顔をしたマークが表示されている。

「この赤いもやもやが想像の力だね。今見えているのは、一般人が例外的に想像してしまったもの、想像カスだよ。仮面を外した人がいたらもっと濃いもやがでるし、イマジンみたいに強い力になると、さらにもやは濃くなるよ。地図上の表示についてだけど、このマークが巡回班。君たちと同じ任務についている人たちだよ」

 カナタはボウリングの玉を指した。

「そして、こっちがイマジナル」

 続いて耳の尖った、悪そうな顔を指した。

「巡回班の位置は正確だけれど、イマジナルはおおよその位置なんだ。イマジナルはマークの大きさで大体の脅威度が判断できるよ」

 センセイが僕たちを発見できた理由がわかった。イマガイズ、イマジナル、イマジン、そして仮面を外し気づいてしまったもの。さらには想像カスまで、この町の脅威となる全般を、この装置は観測できるのだった。

「あれ? センセイの話だとイマジナルが増えてるって話だったけど、この画面だとそうでもないわね」

 ミズハの疑問ももっともだ。画面には二つのマークしか表示されていない。

「それはね、探知の精度を落としているから。見ててね」

 カナタが操作すると、画面に別の枠が開き、そこにはこちゃこちゃと何か数字や英語が並んでいた。そこをいじると、画面全体が赤みを増し、イマジナルのマークはそれに比例するように増加していった。

「こんな感じかな。本当はもっと精度が上がるんだけど、そうすると画面全体が真っ赤になっちゃうんだよね。これは町のバランスが壊れる前からで、原因はよくわかってないの。探さないといけないのは強い想像やイマジナルだから、結局は精度を落とした方が都合いいんだ」

 再び枠の中をいじると、全体の赤みは消えマークの数が二つに戻った。

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