縁の下 その一
翌日。
ラークの中ではセンセイが待っていた。いつもならカウンターに座るのだが、その前に立ちはだかるようにセンセイがいるので、僕らは自然とその前に集合した。
「訓練を終了し、君たちは今日から正式に活動を始めることになる」
正式という言葉に身が引き締まった。
「だが、その前に活動内容について把握してもらいたい」
「片っぱしからイマジナルを倒せばいいんだろ?」
ユウが闘志満々に拳で胸を叩いた。
「効率を考えると話はそこまで単純ではないのだ。薄々感づいているとは思うが、我々は組織だ。君たちは俺とイナリ、そしてチヨ以外には会っていないが」
「チヨっていうと?」
ミズハが聞く。
「〈エデンの外〉にいた、おしゃべり男さ」
「ああ、彼が……」
「ただ活動内容を伝えるより、組織の構造を知ってもらった方がわかりいい。メンバーの一部と顔合わせを済ませておこうと思ってな」
「もしかして、本部とか秘密基地とかに向かうのか? どこにあるんだ?」
センセイは何も言わず、カウンターの奥の部屋に入っていく。
「えっ、そっち?」
ラークの奥がどうなっているのか、僕たちは知らない。普通の喫茶店なら調理場や食糧保管庫があるのだろうが、イナリがいればそれらは必要ない。余分なスペースだ。かといって、人や機材が十分に置ける広さではない。何があるのだろう。
扉を開く。何も置かれていない。
「行き止まり……よね?」
センセイに続き、ミズハ、ユウ、そして僕。クリークは素早く部屋に滑りこんだ。
外側から見るより、部屋は一回り小さく見える。体重を加えると、床がわずかに揺れた。そこは部屋ではなく、巨大な昇降機だった。
ユウがボタンに気づいた。
ボタンは二つしかなく、上向き下向きの三角形がボタンに彫りこまれている。
「これ、エレベーターか?」
「ずいぶん大きいわ」
がじゃんと大きな音を立てて、扉の前に蛇腹の鉄柵が展開した。
「子供みたいに隙間から手を出したりするなよ」
センセイはそう言って下向き三角のボタンを押した。
ガゴン!
部屋全体が一段落下した。
「おいおい、大丈夫なのか?」
ユウが心配したが、その後は低い唸りを上げながら、箱は順調に降下していく。それほど待たずに、ブレーキのような軋む音。続いて大きな衝突音と共に、床に叩きつけられたような感覚になった。クリークは驚いて僕に抱きついた。
「到着だ」
「ちょっとしたアトラクションね……」
「セーフティバーはないけどな」
昇降機を降りた。
木製の店内から一転し、コンクリート壁の部屋だ。床はリノリウムでてかてかしていて、パソコンにモニター、そしてそれに付随すると思われる、よくわからない機器が部屋の隅に並んでいた。パイプに布がかかった衝立の向こうには、何組ものベッドがあるのが確認できた。壁には十二ものモニターが組み合わさって大きな画面を作っており、ここが複数人にまとめて情報を発信する場所だと示していた。ここには三人の人物がいた。見知ったイナリの他に、モニターを見ながらキーボードをたたく女性と、ベッドのそばのデスクで読書をしている女性がみえた。
クリークはきょろきょろしながら、おとなしく僕の後についた。
「イナリは知っているな」
イナリはこちらに向かって丁寧に礼をした。
「他の二人は初めてだろう。紹介しよう」
センセイが声をかけると、二人の女性がこちらにやってきた。
「彼らが今日から活動を始める皆瀬、岸戸、そして北城だ」
先に話しかけてきたのは、キーボードを叩いていた女性だ。
「ふうん。三人って聞いてはいたけど、本当だったんだね」
そう言い、つぶさに観察しながら僕たちの周囲を一回りした。
「ふうん、そうかあ。私は観測班のカナタ。飾有町の観測とオペレーションが仕事だよ」
年は僕らとさほど離れてはいない。動きやすそうなデニムのオーバーオールを着ている。髪形は女の子らしいが、服装のせいで年齢以上に幼く見える。その風貌は、どこか小動物を思わせた。
もう一人の女性は、もっと年齢が上だ。二十代前半だろうか。ぼさぼさの長い髪に白衣。神経質そうな眼の下には隈があった。白衣は清潔そうだが、あまり身だしなみに気を使うタイプではないらしい。カナタが自己紹介を終えても彼女は腕を組んだままで話そうとしない。
「ねえ、ヒカゲ。あなたも自己紹介しなよ」
カナタが急かすと、苛立ったように頭をわしわしと掻いた。
「ヒカゲ。医療班。怪我したら治す」
電報のように告げると、元いた机に戻ってしまったので、僕たちは呆気にとられた。
「別におまえたちが嫌いなわけじゃない。ヒカゲは、ああいうやつなんだ。腕は確かだぞ」
ヒカゲは机で読み物を再開していた。
「自己紹介は以上だ。ではカナタから、簡単に説明してくれ」
「私の仕事はモニターを見てもらえたら早いかな」




