三位一体
誰の顔にもイマガイズは見当たらない。僕らは緊張から解放され、一息ついていた。
センセイがぽつりと言う。
「決めたぞ」
「決めたって、何をです?」
「君たちをどのような構成にするか悩んでいた。増え続けるイマジナルに対抗するため、我々も可能な限り戦力を分散させたい。俺を含めた四人を二班に分けるのが効率的だ」
「別々に行動しないといけませんか?」
「バラバラになっちゃうってこと?」
「やだぜ、俺はよ」
「しかし、皆瀬、岸戸、北城。君たちには三人一組で行動してもらう」
急に話の方向が変わったので、僕たちは一瞬では理解できなかった。一秒近くしてやっと、手を取り合って喜んだ。
「君たちは個々の実力だけではなく、他のメンバーとの強い結束を示した。北城の攻撃、岸戸の防御、そして皆瀬の調査。これらが揃って最大の力を発揮するとみた。チームはこれで決定だ」
イマジナルに対して十分な戦力になるというだけでなく、僕らのチームワークが評価されたのだ。これは嬉しかった。
「ユウ、ミズハ、一緒だってさ!」
「よろしく頼むぜ! って、今さらか」
ユウは笑った。
「よかったわ。知らない人とだったら、心細いもの。それで、すぐにでもイマジナル退治にいくの?」
「おっしゃ、任せとけ!」
センセイは声を出して笑った。
「やる気があるのはいいことだが、今日はもう終わりだ。疲れただろう。ラークでイナリに何か出してもらって、ゆっくりするといい」
一方で、イマガイズを出せないこともあり、僕は心配になった。
「でも、僕たちだけで大丈夫でしょうか」
「……実のところ、俺も君たちの訓練で手いっぱいで、ここ数日の飾有の様子には疎い。この町が変調をきたしているのは確かだ。この短い期間で何か変化がないとも限らない。最初は偵察も兼ねて同行しよう。手は出さないがね」
センセイが一緒に来てくれるのは心強い。
「じゃあ明日、イマジナル退治に行くんだな」
「そう、せっつくな。まずは休息だ。俺もイマジンを使って疲れたからな。詳しいことは明日話そう」
センセイは僕らの背中を順番に軽く叩くとラークに入っていった。僕らも続く。
店の中にはイナリがいて、にこにこと出迎えてくれた。
「お疲れさまです。相当激しくやったようですね」
「センセイ、かなり本気なんだもんな。まいったぜ」
「はー。私、喉渇いちゃった」
「僕も何か飲みたいな」
僕は冷たい炭酸、季節外れだがラムネをグイッと飲みたいと思った。
「では、こんな物はいかがでしょう」
僕の目の前に瓶入りのラムネが置かれる。ユウにはアイスコーヒー、ミズハにはレモンティーだった。
「おっ、丁度飲みたかったんだ」
「イナリさんのイマジンって便利よね」
ユウとミズハは飲み物に口をつけた。僕はラムネのビー玉を蓋で押しこみながら、イナリのイマジンが何なのかを考えていた。
思考を読むイマジンではない。彼自身が否定していたのもあったが、僕がそう思ったのは、ほんの小さな出来事が原因だ。
ミズハが以前、奇妙な品物を考え、それを当てられたときのことだ。彼女は〈おしるこアイス乗せ〉と言っていた。だがイナリは〈おしるこアイス〉と言いながら持ってきたはずだ。思考が読めるのなら、その通り正確に名前を言ったはずなのである。イナリはこちらの欲しているものを当てられる。だが、料理の名前は出した実物を見て、自分でつけるしかないのだ。
それでは一体、何を察知しているのだろう?
そう言えば、最初に会ったとき、彼はメニューを想像させ、僕らはそこから注文した。仮面を外した人間へのテストだと思っていたが、それ以上に想像という言葉に意味があるのではないか。
この直感が正しいのかどうか、僕は確かめずにいられなくなった。
「イナリさんは他人が想像しているかどうかわかるんですね。そして、それを取り出せる」
と思わず言ってしまった。
イナリはきょとんとした。今まで見せたことのない表情だ。しかし、すぐに笑顔に戻ると、拍手した。
「素晴らしい」
イナリの狐のようにもみえるイマガイズが現れる。その周囲に青白い火の玉が浮いていた。
「ご指摘の通りです。私のイマジンは、他人の想像に干渉すること。こちらにそれを持ってくると具現化できます。それがなんなのか、取り出すまではわからないのですが……」
イナリはユウを見た。周囲の火の玉が縮んだり膨らんだりした。彼はおもむろに手を突きだすと、何かをつかみユウの前に置いた。
「どうぞ」
それはラムネだった。
「なんだ、ユウも飲みたかったのか」
「ヒロの見てたら欲しくなっちゃってさ」
「飲みものばかりだと、お腹たぽたぽになるわよ」
「このような具合でございます。サブで想像に向けられたプラスの印象を読みとりました。だから、今はラムネでしたが、これが欲しいのだな、と予想できた訳ですね。それにしても、見事な正解。ジョウさん、この子たちはとても優秀なようです」
センセイは自分が褒められたみたいに、照れくさそうだった。
僕らはおいしい飲み物と談笑で、安らぐひと時を過ごした。それは、激しい訓練があったことを忘れさせ、ごく近い将来の戦いを予感させない、パイの中のカスタードクリームのように穏やかな時間だった。




