最後の訓練 その二
ジョウは、まず先行してきた岸戸に狙いを定めた。ごうと風を切り、あっという間に間合いを詰めると、躊躇なく上段から棒を振り下ろす。
ガキィン!
金属同士がぶつかり合う音。岸戸の仮面から蒸気が噴き出し、彼の腕には盾のように金属の板が装着されていた。
金属板は岸戸に接していないが、体を基準に固定されているために、攻撃の衝撃までは防げない。なんとか初段を凌いだが、ジョウはすでに次の攻撃態勢に入っている。
返すように棒が下方から振り上げられる。激しい衝突。間の空かない重い一撃に盾が跳ねあげられ、岸戸は体勢をのけぞらせる。
それを見て北城が動く。
ジョウの棒が、岸戸のがら空きの胴を狙って水平に振られる。
「やり過ぎよ!」
ジョウに向かって走りこんでいた北城が、横から飛び蹴りを浴びせる。その吹き飛び方を大げさにした。
ジョウは宙を滑るように弾き飛ばされ、岸戸は棒の範囲から外れる。その勢いは凄まじく、そのまま広場の端に激突するかと思われた。
彼は空中で奇妙な金属音とともに棒を振る。それはすでに棒ではなかった。先端が何方向にも先分かれ、巨大な熊手のようになる。それで地面をかき、ジョウは難なく減速する。
「岸戸の防御力、予想以上だ。それに北城のフォローもいい」
「どうやら本気っぽいな」
かなりの強度を持つはずの盾には、二つの打撃痕がはっきりと刻まれている。
「こいつは、もうだめだな」
岸戸が盾を放り投げる。それは蒸気となって消えた。
北城は岸戸の後ろで、いつでも彼を抜いて前に出られるようにスタンスを広くとる。皆瀬はクリークとともに遠巻きに様子を見ているが、近寄れない。
「クリーク、二人を助けられないか?」
クリークは怯え、動こうとしない。
北城が岸戸の前に出る。
「センセイが体勢を立て直す前に叩くわ!」
そう言うと、ジョウへの距離を一気に詰めて行く。
再び金属のぶつかり擦れ合う音。熊手が消え、ジョウは小さな刃物を構える。クナイのような、小さな刃物がギラリと光った。
短く息を吐きながら、ジョウはそれを北城に投げつける。投げつけるというよりも、これは発射だ。強化された身体能力から繰り出された刃物は、まるで弾丸だった。
北城は山猫のようなスピードと柔軟性で横に跳ねると、飛来物を避ける。そして着地するや否や、もう一度跳んだ。その地面へクナイがぐさりと刺さる。あのスピードの飛び道具を北城は見切っているのだ。
だが、ジョウの飛び道具は執拗だ。移動したところを、さらにクナイが襲う。北城が跳ぶ。居た場所の、影を縫うようにクナイが突き刺さっていく。
北城は脚への負担を感じた。近づけないだけでなく、このまま避け続けることもできない。
「ミズハ! こっちに来い!」
岸戸が叫ぶ。イマガイズの筒から大量の蒸気が噴き出す。一畳半もありそうな、大型で厚みのある盾が現れる。
北城はうなずくと、的を絞らせないように左右に飛び跳ねながら岸戸の元へと向かう。あと一飛び。その油断が動きの単調さを生んだ。先読みされたクナイの軌道へ、北城が飛びこんでいく。
その軌道を阻むように岸戸が前に出る。これほど大きな盾でも、岸戸の行動は阻害されない。重さがないというのは、そういうことだ。
カキ、カキキン!
クナイは盾にはじかれ、地面に落ちた。
「危機一髪だな」
「助かったわ。ユウ」
「センセイ、俺がいたら飛び道具は効かないぜ」
ジョウは音もなく移動する。およそ北城が元いた場所に立つ。
「そのようだ」
異様な金属音とともに長く細い棒が現れ、それで地面を払うようにすると、さらに追加で金属音が響く。その範囲の地面に刺さっていたクナイがなくなっていた。離れた所から見ていた皆瀬にはそれがよくわかった。
あの妙な金属音は、変形するときの音らしい。だがなぜクナイを回収したんだ? 皆瀬はその行為に強い疑問を持つ。
ジョウが地面を棒で薙いでいるうちに、岸戸と北城が皆瀬の方へと合流する。
「飛び道具があるなんてな。ヒロ、おまえが狙われるとまずい。俺のそばにいろよ」
ジョウと三人は十分な間合いを持ち、一時仕切り直しとなった。
「今のうちに、イマジンを当ててみるわ」
「ミズハ、わかったのか?」
「わからないわよ。でも、このままじゃ勝てないのはわかる」
ミズハはジョウに向かって声を張り上げる。
「その金属がイマジンなんでしょう? 自由自在に変形できる金属のイマジンよ!」
ジョウは首を振った。
「二十点。目のつけどころはいいが、正解には程遠い」
「だめか!」
「でも、まるっきり見当違いってわけでもなさそうだぞ。何とか考えなきゃな」
「それなんだが、確かめたいことがある。全部回収される前に、あのクナイが一本欲しい」
と皆瀬が言う。
「クナイだって?」
「それどころじゃないみたいよ!」
ジョウが再び、突進してくる。クリークが気圧されたように、たっと逃げだす。
「おい、待てクリーク!」
皆瀬の呼び止めも空しく、クリークはどこかへ行ってしまった。
その間にもジョウは間合いを縮めていた。岸戸は、皆瀬と北城をかばうように前に出る。
「俺が時間を稼ぐ! その間に二人はイマジンを当ててくれ!」
ジョウが、たっと地面を蹴った。
「棒は問題なく受けられるようだが、これならどうだ?」
奇怪な金属音。棒は消え、ジョウの手には新たな得物が握られている。小ぶりだが重量のありそうなハンマーだ。それは岸戸が構えた盾に振り下ろされる。先ほどより、強烈な衝突音がした。
「ぐっ!」
盾の裏側が四角く盛り上がる。一か所ではない。ボコボコと止まることなく盾が歪んでいく。凄まじい速度の連撃。
「援護するわ」
北城が盾から出ようとすると、それを抑止するように目の前の地面がえぐれ、土が飛び散った。
「これじゃあ、とてもじゃないけど出ていけない!」
「ヒロ、ミズハ。……そろそろ盾が壊れる。耐えきれない。少し下がれ」
岸戸が小さな声で言った。皆瀬と北城が下がると、岸戸は大きな盾を自ら解除する。蒸気が二度、噴き出す。岸戸はハンマーを、自ら受け止めにいく。
ゴギィン!
凄まじい動体視力と集中力だ。ハンマーは左手の盾により、高い位置で受け止められていた。そして、右手の甲には縦長の金属板が装着されている。
「守るだけじゃ、ないんだぜ!」
拳を固め、右手を真っ直ぐに突き出す。
スケートボードほどの大きさの金属板は拳を延長しており、その一番狭い面積を正面にしている。重量無視による、徒手同然の素早い一撃。しかし、実の重さは金属塊そのものだ。その破壊力に疑いはない。
金属音の後、確かな衝撃があった。




