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最後の訓練 その一

「放課後、ラークに行くのも当たり前になってきたな」

「そうねえ。部活動みたいでちょっと楽しいかも」

「イマジナル、イマガイズにイマジンか。今さらだけれど、とんでもないことになってしまったね」

 僕らは、話しながらラークへと向かう。

 新しい知識は、なんとか頭の片隅にあるという程度。今後の見通しは全く立たない。それでも、楽しいと感じることには同意だった。

 ゲームセンターの前を通ったとき、すれ違った男から視線を感じた。僕は立ち止り、振り返って男を見た。首輪をした男。相手は振り返ることなく去って行く。腕に抱いたクリークが微かに震えた。

「どうした、ヒロ」

「具合悪いの? 最近はよかったのに」

「ぼんやりはもう治ったんじゃないのか? 大丈夫かよ」

「違うよ。平気だ。ただ、公園で見た男がいた気がしたんだ」

「えっ、どこどこ」

「もういなくなったよ」

「この辺りに住んでるんじゃねえかな。同じ町だし、会うこともあるだろ」

 ユウの言うことはもっともだが、どこか心の隅にひっかかりがあった。

「なんでもないなら行きましょ」

 なんとなく気持ちが悪いが伝える言葉がない。クリークを撫でてやった。まだ微かに震えている。


 店の中ではセンセイとイナリがカウンターの中で何やら話していた。僕たちが店に入るとセンセイは話をやめ、こちらに向き直った。イナリは一礼して店の奥へと消える。

「来たな。早々だが、今日はまず、イマガイズについて補足する。好きに座ってくれ」

 僕らはいつも通り、ユウを中心にして座った。僕の隣の椅子にクリークが飛び乗った。

「イマガイズには想像のバリアーの他に、もう一つ効果がある。それはイマジンの補助だ」

「イマジンの効果が高くなるってこと?」

「それはイマジンによって様々だ。単純に能力が伸びる場合もある。身体能力が向上する場合もあるし、イマジンをより効率的に活かすためのツールが与えられる場合もある。どういったケースでもイマジンの幅は広がるが、主となる効果が複数になることはない。故にメインのイマジンに対して、これらはサブやサポートと呼ばれることがある」

「それ、どうやったらいいの? 教えて!」

「使えたら便利そうだよな。次の訓練はこれか?」

 僕はイマガイズが出せない。関係ないとは言わないが、仲間はずれのようで気分が沈んだ。

「今すぐの習得は難しいだろう。代わりに、イマジンに練達してくれば自然と使えるようになる。ちなみに俺のサブだが、身体能力が上がっている」

 センセイはイマジンを明かさないが、サブに関してはあっさりと教えてくれた。不自然なことだ。

 しかし、それ以上に僕は不安だった。イマガイズが出せないのは、今現在の差になっているだけでなく、後にはサブが使えない差にもなってくるのだから。

皆瀬みなせ、心配か」

 顔に出ていたらしい。センセイが僕に声をかけた。

「はい。イマガイズがないと、かなり不利ですよね?」

「不利だな。攻撃と防御を交代しながら交互に殴りあったら、皆瀬は確実に負ける。だが戦いはそういうものではない。それにイマガイズがあっても、攻撃をもろに受ければ危険だ。条件はさほど変わらないと思えばいい」

 はっきりと言ってくれて、反対に救われた気がした。僕のできることをやろう。そう思った。

「ともかく修練あるのみなのね。今日の訓練をしましょ」

「サブとやらを早いところ引き出したいしな」

 センセイはゆらりとカウンターから出た。いつの間にか、錠前のたくさんついたイマガイズがその顔を覆っている。いつもと雰囲気が違った。いや、変わった。ユウもミズハもそれを察した。鍵束がじゃらりと鳴った。

「センセイ?」

「君たちに教えることは全て教えた。後は君たち次第だ。……最後の訓練を行う」

 彼は振り返りもせずに店を出た。裏手に向かったのだろう。

「おっかない雰囲気だな。初めて会ったときみたいだ」

「最後、って言ってたよね」

「なんなのかしら。行くしかないわよね」

 僕らはセンセイの後を追った。クリークもてくてくと続いた。


 裏手の広場、その中央にセンセイは立っていた。一メートル以上ある、銀の棒を両手で持ち、地面に突き刺すようにしていた。仮面は元からグロテスクだが、今は一種の威圧感さえ覚えるようだった。空気が粘つき、重く感じる。近寄りがたい雰囲気だったので、センセイとやや距離を開けて僕らは集まった。

「最後の訓練とは、何をするんですか?」

 センセイはゆっくりと話しだす。

「君たちには、俺と戦ってもらう。俺を倒せ。それが最終訓練だ」

 センセイの戦う姿を思い出し、瞬時に無理だと感じた。

「まだ早いわ! 私たち、知識ばかりで戦いは一度も経験してないのよ?」

「それにセンセイは俺たちのイマジンを知ってるじゃないか。フェアじゃない」

 目しか見えないが、仮面の下でセンセイがにやりと笑ったように見えた。

「確かに不公平だな。ならば俺を倒す以外に、もう一つ、別の勝利条件を与えよう。俺のイマジンを明らかにしてみろ。できたら、それでも君たちの勝ちだ」

 センセイが自身のサブを明らかにした理由はこれだ。自分のイマジンを推測させようとしているのだ。この勝負、単純にセンセイを打ち負かすのは三人がかりでも難しい。いや、可能性はほとんどない。最初から、イマジンを明かせば勝ちという条件を加えるつもりだったに違いない。

岸戸きしど北城ほうじょうがイマガイズを出したら開始する。皆瀬も仮面を被れ。ないよりましだ」

 僕らは顔を見合わせ、うなずきあった。ここまで来たら、やるしかない。僕が仮面を装着するのに合わせて、ユウとミズハのイマガイズが発現する。ドクロと鬼がそこにいた。

 それとほとんど同時に、センセイが地面を蹴った。

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