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日々訓練 その三

「まずは十分にスペースを取れ。前回よりも強くイマジンを使うことになる。もう暴走の心配はないだろうが、事故を防ぐためだ」

 僕らは広場に散らばった。センセイはそれぞれに指示を出す。

岸戸きしどは金属板の詳細を明らかにするんだ」

「詳細と言われてもなあ。どうしたらいいのか」

「自分で考えなければいけない。俺が具体例を示すと、それが先入観になって邪魔をしかねない」

「とにかく色々試せってことかね?」

「おおざっぱに言えばな。ただ無茶はするな。遠距離に出したときのように苦労するのなら、それはまだ技量が追いつかないか、正規の使い方でないかのどちらかだ」

「オッケー!」

北城ほうじょうも同じく、イマジンを明らかにしよう。特にイマジンの対象が自分とその他の場合で何か違いがあるかもしれない。北城のイマジンはわかりやすく、強い効果が出る。くれぐれも慎重にな」

「わかったわ。試すために何か的が欲しいのだけれど」

「それなら、ここの隅に転がっている。自由に使って構わない」

 広場の隅には木製の短い丸太や台、同心円の描かれた標的などが乱雑に置かれていた。

皆瀬みなせは、そのイマジナルに能力があるか、あるならばどういう能力なのかを確認しよう。相手は思い通りにならないイマジナルだ。焦らず、気長にやってくれ」

「わかりました」

 こうして僕らは、自分のイマジンへの理解を深めるため、それぞれの訓練を始めた。

 クリークには何か能力があると僕は確信していた。そうでなければアパートで何度かクリークを見失ったことに説明がつかない。

 僕はクリークを頭の高さから何度も落としたり、一緒に走り回ったりしてみた。やつはふぎゃふぎゃとご機嫌だ。クリークが楽しそうなのは結構だったが、能力らしいものは見られない。目立った収穫は得られなかった。


 次の日、また次の日と放課後に同じ訓練を続けた。帰ってからは、アパートでイマガイズを出現させる練習をした。だが、何度やっても出せるようにはならなかった。

 実践的な訓練を始めて四日が経った。

 日が傾き始めたころ、センセイが言った。

「一区切りとしよう。皆瀬、イマジナルの様子はどうだ」

「かなり慣れてきました。でも能力らしいものは見られません」

 おいでクリーク、と呼ぶと、少し離れたところで寝転がっていたクリークが起き、僕の元へ駆け寄った。

「イマジナルに慣れたのは大きな成果だぞ。岸戸はどうだ。何かわかったか」

「まあ、見てくれたら早いぜ」

 ユウは金属をいくつか出した。平らなもの、竹を割ったようにカーブしたもの、小さいもの、大きいもの、厚みも様々だった。それらを出すのに合わせて、仮面から蒸気が噴き出した。

「やっぱ俺のイマジンは板みたいだ。これで剣が作れたら強いかなと考えたんだけど、どうにも板の範疇はんちゅうから外れるものは出せない。代わりに板と呼べるなら、形、大きさ、厚さや曲がり加減がいじれる。それと…」

 ユウは出した金属板の一つを持ちあげると、腕に押しつけた。手を離しても板は落ちない。金属板はユウの腕から数センチのところ、浮き上がるように固定されていた。

「出した金属板は俺の体にくっつけられる。磁石みたいに引きよせたりはできないけど、かなり頑固に固定されてるぜ」

「では、それをどう使う?」

「うーん、盾だな。無敵ではないにしろ、相当丈夫だからな」

「上出来だ、岸戸。北城はどうだ」

「私も実演するわ。見ていて」

 そう言うなり、ミズハはとんでもない初速で走りだした。イマガイズの角についている帯と髪が後ろになびいた。隅の地面に突き刺してある角材へ、彼女はあっという間に接近すると、それに綺麗な型で拳を打ちこんだ。みしみしと軋む音をさせながら、角材は真っ二つに折れた。彼女は手をぱんぱんと払うとそのまま反転し、今度はこちらに向かって跳躍した。三メートル以上は高さがあった。飛距離もすごい。ほぼひとっ飛びで僕たちの元へ来た。彼女は足関節だけでなく、全身をクッションにして着地すると、屈んだ態勢で止まった。

「いたた、ちょっとやり過ぎたかしら。今見せたように、自分の身体能力を大きくしたり、起こした作用を大きくできるのよね。大げさにする……とでも言えばいいのかしら」

「ミズハ、大丈夫か。着地の衝撃すごかったぞ」

「しばらく屈んだままだったもんね」

「あはは、そうなのよねえ。身体能力が上がるといっても、走るスピードや飛ぶ高さが上がるだけ。その反動はもろにきちゃうの。やろうと思えばもっと速く、高くできそうだけど、体が持たないでしょうね」

「角材はどうやって折った?」

 センセイが尋ねた。

「拳を当てたときの歪みを大げさにして折ったの。ただ角材が細めだったからこそ、できたんだけどね。もっと太いとか、あれより固いとなると、全く曲がらないわけで、大きくしようがないでしょう? 大げさに拳を突きだしたら、痛めちゃうだろうし、そうなると普通の拳と破壊力は変わらないわ。あっ! 怒られる前に言っておくけど、色々試していたら、的のほとんどをだめにしちゃった。ごめんなさい」

 隅を見ると、的の類のほとんどが木の残骸になっていた。

「いいだろう。的は気にするな。形あれば壊れるものだ」

 少しやり過ぎだがな、とセンセイは冗談っぽくつけたした。ミズハは決まり悪そうに顔の前で手を擦り合わせた。

「みな、四日間ご苦労だった。期待通りの成果が出ている」

 僕は素直にそう思えない。ユウとミズハは、自分のイマジンについてかなり理解を深めていた。僕はというと、クリークと遊んで仲良くなっただけだ。

「とは言っても、君たちは、イマジンの基礎の基礎を理解しただけだ。これからは想像力がイマジンを発展させていく。それを忘れるなよ。……今日はここまでだな。明日はラークの方に来てくれ。待っているぞ」

 もっとやってもいいと思えたが、そろそろ午後五時だ。辺りが暗くなり始める。仮面をつけて、早めに僕らは広場を後にした。


 また今日もユウとミズハが僕を送ってくれることになった。毎回、申し訳なく思う。その道中。

「ついに訓練も佳境みたいだな」

「そろそろ、野良イマジナル退治が始まってもおかしくないわね」

「ユウとミズハはいいだろうけど、僕は大丈夫なのかな……。まだイマガイズも出せていない」

「気にすんなって。クリークはかなり言うこと聞くようになってるだろ」

「でも根が臆病みたいだし、身体能力も猫ぐらいだぞ」

 腕の中でクリークが不満そうに鳴いた。

「なんだ、違うってか。ヒロ、怒られてら」

「なら証明してくれよ、クリーク」

 前足の下に手を入れて、前後に揺すってみた。

「ふぎゃ、ふぎゃーん!」

 しっぽがゆらゆら揺れた。

「こら、いじめないの。それに臆病ってことは、動物みたいな鋭い本能があるのかも。意外なところで役立つかもよ」

「そうかなあ。鋭い本能ねえ」

 クリークをじっと見つめた。やつも僕を見つめ返してきた。愛嬌はあるのだが、戦いとなると頼りない。クリークもイマガイズを出せない僕をそう思っているのかもしれない。

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