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日々訓練 その二

「それでは今日の訓練だ」

 センセイの仮面が現れる。ユウとミズハもそれに倣った。僕は鞄から仮面を取り出し、それを被る。ないよりはいいはずだ。

「まずは実験しよう。今の話とも大いに関係があるぞ。岸戸きしど、こっちに来い」

「俺?」

 ユウは、若干不安そうな足取りでセンセイの元へ向かった。

「お前のイマジンが実験に最適だからな。まずは特に意識せず、自然に金属板を出してみてくれ」

 ユウは集中した。イマガイズのパイプから白い蒸気が吐き出されると、一枚の金属板が彼の目の前に現れ、地面に落ちた。

「余裕、余裕」

「では、ここからが本番だ。五メートル先に金属板を出現させてくれ」

「なんてことないだろ。……あれ? あれあれ?」

 何も起こらない。

「おっかしいな。ぬうううん、どりゃあああ!」

 渾身の叫びとともにイマガイズの筒から大量の蒸気が吐き出された。何か出た。材質は同じようだが、先ほどとは比べるまでもない小さなチップだ。

「どういうことか、わかるかね」

「ちょ、ちょっとタンマ。すごく疲れた……」

 ユウは膝に手を突き、肩で息をしている。

「まるでわからん。このぐらいならできると思ったんだけど」

 息を整えてから言った。

「遠くには出せないのかしら」

 ミズハがつぶやくように言った。

「そのとおりだ」

 あまりに単純で、正解だと思っていなかったらしく、ミズハは虚をつかれた様子だ。

「想像のキャパシティは、いわばバケツに入った粘土のようなものだ。年齢とともに小さくなる傾向はあるが、粘土の体積に個人差はほぼない。だが私と今の君たちでは、イマジンの扱いにはっきりと差がある。なぜだろうか」

「経験の差ですか」

 センセイはうなずいた。

「イマジンの個性を、粘土で何を作るかだとすると、経験は粘土をどう取りだすか、その方法だ。君たちは効率のいい取り出し方が身についていない。そして今の実験は、粘土は手元のバケツから取り出されると証明している」

「手元のバケツというと?」

「君たちは未熟とはいえ、粘土を少量取り出すのは容易にできる。だが先ほどの岸戸は苦労し、しかも本来の量を取り出せなかった。それは手元からかけ離れたところで粘土を形作ろうとしたからだ。岸戸は気合いで何とか出したようだが、実際やってみてどうだった?」

「どうって、頑張った割にあんなちっちゃいのしか出ないし、それにすごく疲れたよ」

「遠くに出すと効果も効率も著しく落ちるというわけだ。イマジナルとの戦いではイマジンを一回使って決着するとは限らない。これが賢明な方法でないことはわかるな。もう一つ実験しよう」

「また疲れるやつじゃないよね」

「今度は大丈夫だ。最初に出した板を持って、投げてくれ」

「俺にとっては重さがないんだぜ? どのぐらい飛ぶかわからないけど、やるぞ」

「思い切りやってもいいぞ。念のため、人のいない方にな」

「投げるぜえ。そりゃ!」

 ユウは板をフリスビーのように投げた。それはすぐに見えなくなった。十分な勢いがあったので落下したわけではなさそうだ。目を凝らすと、白い蒸気が消えた付近に漂っていた。

「消えちゃったぞ」

「遠くに直接出すとロスがあるように、近くでないと効果が解除されてしまうイマジンもある」

「じゃあ板を投げて武器にはできないのかあ」

「残念ながら、そうなるな」

「遠くに出せないなら、イマジナルとは接近戦をすることになるのね」

「基本はそうだが、思いこみは危険だ。イマガイズのイマジンだけでなく、イマジナルの中にも稀に特殊な能力を持ったやつがいる。あるいは体構造の関係で遠距離戦を好むやつがいるかもしれない。岸戸のイマジンはすぐに解除されてしまったが、反対にかなりの距離まで解除されないイマジンもあるのだ」

「えー! それってずるいぞ!」

「コインの裏表とバケツの粘土の話がそこで活きてくる。遠距離で通用するイマジンは効果が控えめだったり、対象が狭く限定されていたりがほとんどだ。そうでない場合は燃費が悪く、イマジンの使用回数や効果時間に制約がかかる。想像のキャパシティという粘土の絶対量が決まっている以上、効果、距離、時間の全てを満たすイマジンは存在しない。必ずどれかが犠牲になる」

「ちゃんと欠点があるんだな」

「岸戸のイマジンだが、近距離でしか効果がない短所も、裏を返せば効果がはっきりと出て、長時間扱えるという長所になるわけだ」

「私のイマジンも似た感じかしら」

「北城は見たところ効果に特化している。岸戸と同様、近距離が有利なのは間違いないだろう。対して皆瀬のイマジナルは遠距離に行くことができそうだ」

「でも俺とかヒロのイマジンで、どうやって戦えばいいんだろう? ミズハは殺傷能力ありそうだけどさ」

「殺傷能力ってなによ。人を危険人物みたいに」

「まあまあ」

 僕はミズハをなだめる。

「実験はここまでだ。ここからはイマジンを戦いのツールにまで引き上げる」

 センセイはユウの問いに答えず、話を進めた。

「実戦形式とか?」

 ミズハが期待をこめて言った。

「まだ早い。まずは自身のイマジンをもっと理解しろ。先ほどの実験で、イマジンの一般的な知識が拡がったはずだ。今度は自分自身のイマジンについて、深く掘り下げていくんだ」

「俺は準備万端だぜ」

「早くやりましょ」

 ユウもミズハもやる気満々だ。クリークが不安そうにしていたので、僕は頭を撫でてやった。

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