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日々訓練 その一

 放課後になると、僕とユウは隣のクラスにミズハを迎えに行き、真っ直ぐにラークへと向かった。

 ラークに着くと、今日は店の中ではなく、センセイが外で待っていた。

「来たな。今日は場所が必要なので、外で訓練する」

 手でついてくるように合図した。

 ラークの裏手は広さのある芝生が広がっていた。サッカーコートよりは狭いが、それでもかなりの広さがある。もともと人通りのない場所だが、さらに通りと空き地の間にはラークが立っているので、外からここはほとんど見えないだろう。実際、案内されるまでこんな場所があるとは、僕たちは知らなかった。

「ところで皆瀬みなせ。仮面は出せるようになったか?」

「いえ、それが……まだなんです」

「そうか」

 センセイは思案顔だ。しばらくしてから言う。

「当面は皆瀬が仮面を出せない前提で進めていく。気にするな。いずれ出せるようになる」

 見捨てられたような気分がした。僕に合わせていては訓練が進まない。それはわかっている。だが、それ以上にセンセイは急いでいるようにみえる。これは前にも感じたことだ。

 わざわざ僕を落ちこませる理由はないはずなので、率直に尋ねることにした。

「センセイ、何か急ぐ理由があるのですか」

「気負わせまいと話さずにいたんだが……」

 センセイはためらいがちに口を開いた。

「以前、イマジナルの数、そして個体の強さが上昇してきていると話しただろう。それに歯止めが利かなくなってきているようなのだ。原因は不明だが、飾有町かざりちょうのシステムが壊れてきているのかもしれない。根本の対策にはならないが、我々ができるのは危険なイマジナルを一頭でも多く排除し、住人の安全を守ることだ。だが、やつらの数に対してイマガイズの人数が不足している」

「ねえ、イマジナルが増えるのとイマガイズが増えるのって、大元は同じ原因なんじゃないの? だったらイマジナルが増えれば、イマガイズも比例して増えるはずじゃない?」

北城ほうじょうの指摘するように、イマジナルとイマガイズの大元はこの町のシステム、想像を具現化する現象にある。だが、想像カスから勝手に生まれるイマジナルと違って、イマガイズになるにはある程度の示唆が必要だ。俺が君たちにしたようにね。少数だけが自力でイマガイズになることができるのだが、自力でイマガイズになったとしても、イマジンが暴走して命を落とすケースが三割弱。残りは、無事でも意図せず人を傷つけたり、イマジンを悪用したりしてしまう」

「そうなの……」

「イマジンで人を傷つける、または悪用した場合、当然法律では裁けない。どちらも〈エデンの外〉に収容することになる。つまり、この町を守る戦力とするには、君たちのように仮面を外したがイマガイズとイマジンに目覚めていない、無垢むくな状態が最適だ。しかし、それは珍しいケースなのだ」

「へえ。〈エデンの外〉には、仮面を外したやつだけじゃなく、イマジン犯罪者とでも言えばいいのかな、そういうやつらも収容されているんだな」

「なるべく早く、僕たちを一人前にしないといけないといけないんですね」

 センセイはユウと僕、どちらの言葉も肯定した。彼の焦りの原因が明らかになった。この町は僕たちが考える以上に危ういらしい。

「だからといって、君たちが焦る必要はない。急いでも、ものにならん。恨み言ではないが、本来、一人のセンセイにつくのは一人、多くても二人だ。それが三人だぞ? 少しぐらい時間がかかっても誰にも文句は言わせんよ」

 センセイは冗談らしく歯を見せた。決して見捨てられたわけではないとわかり、僕の気分は少しよくなった。

 鞄がごそごそと揺れた。クリークが顔を出し、ふぎゃふぎゃ鳴いた。僕に抗議しているのだ。学校では、ずっと閉じこめていたので、さすがに我慢の限界だったのだろう。

「そんなところに入れていたの?」

 クリーク愛護派のミズハが眉をひそめた。

「ほう、それが例のイマジナルか」

「そうです。おいで、クリーク」

 クリークは鞄から飛び出すと、僕の後ろに隠れるようにしてセンセイを見つめた。

「人見知りするらしくて」

「つまり、君の意志では自由に動かせないのだな」

「やっぱり、僕のイマジンではないですか」

「そうとも限らん。イマジナルを出現させるイマジンは、その性質によって大きく三つに分類できる。一部、または全ての知覚を共有し、自身の延長として扱うもの。ある一定の行動パターンに自動的に従うもの。そして、このイマジナルのように完全に独立した思考を持つものだ。先に挙げたものほど思い通りの働きをするが、それはイマガイズ本人の状況把握に大きく依存する。つまり君のイマジナルは言うことを聞かない代わりに、例えば君が縛られ目隠しされていても、行動の制約をされないメリットがある」

「悪いことばかりではないんですね。でも、今の例だと自動的に行動する方がいいようにも思えます」

「自動的に動くタイプは融通がきかない。使用者の利益になる動きを常にするとは限らないのだ。自動とはいえ、その対象や周囲の状況を常に使用者が把握し、制御しないと望んだ結果は得られない。その点、独立したタイプならどんな状況でも同じように活動できる」

「柔軟性があるんですね」

「不確定要素が大きいとも言えるがね。岸戸きしど、北城も聞いてくれ。これは皆瀬だけの話じゃないぞ。イマジンはいわばコインだ。メリットとデメリットが背中合わせになって一つの価値を生み出している。長所を裏返せば短所になる。その逆も然り。この考え方は、自身のイマジンを理解するだけでなく、敵を理解する際にも役に立つ。頭の隅に置いておくように」

 僕らは口々に返事をした。

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