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イマジン その二

 僕らとセンセイがカウンターに着くと、タイミングよくイナリが奥からやってきた。僕は仮面を外し、他はイマガイズをぱっと消した。

「みなさん、お疲れ様です。精が出ますね」

 相変わらずのにこにこ顔だ。

「イナリ、頼むぞ」

「承知しました」

 僕らの前に次々と料理が並んだ。もちろん、彼が宙の何もないところから出したものだ。僕の前にはステーキとライス、そしてオニオンスープとサラダのセットが置かれた。食べたいと思っていた内容そのものだったので、出てきたから食べたいと思ったのか、本当に食べたかったのか一瞬混乱してしまった。ユウとミズハの前には別々の料理があったが、思いは同様らしい。

「あの、イナリさんだっけ。あんたは心を読むイマジンなのか?」

「いえ、私は……おっと、いけません。これも訓練なんですよね、ジョウさん」

 センセイは料理をうまそうにぱくついていたが、もごもごしながらそれに答える。

「今日やるつもりはなかったが」

 こもった声で言った。食べ物を飲みこみ、順調だからまあいいか、とつぶやく。

「想像の力の三つ目は想像すること、そのものだ。君たちは今まで起こったことを総括して、敵の能力や特性、そして自分のイマジンの使い道を想像できる。これはとても地味だが、未知の敵と戦う際には非常に重要だ。イマガイズ、イマジン、想像力。どれが欠けていても、イマジナルとの戦闘で苦戦することは必至だ」

「ふーん、想像力か。なんだかクイズみたいだ。……心を読むのじゃないとすると、なんだろうな。あ、でもセンセイのイマジンは刀だろ?」

 センセイは肯定も否定もせず、食事を再開してしまった。当たるまではなにも言う気はないのだろう。

「さっき棒も出してたじゃない」

「あ、そうか。じゃあ刀と棒を出すイマジン」

 にこにこしながら話を聞いていたイナリが言う。

「ヒントぐらいは差し上げてもいいでしょうね。イマジンが二つあるのはありえません。仮にそう見えても、それらを繋ぐ何かが根底にあります。イマジンが二つあるのは、想像力の型が二つあるということになるからです。あなた方は想像するとき、何人のあなたで考えますか?」

「変な質問ね」

「俺は、俺しかいないぞ?」

「そういうことです。だからイマジンの型も一つなんです」

「つまり刀と棒を出すイマジンだと、確実に不正解なんですね。では武器を出すイマジンというのは?」

 僕もイマジン当てに参加した。

「それならば成立しますね。しかし……」

 イナリはセンセイを見た。彼は一心不乱に料理を食べている。

「どうやら不正解のようですね。それでは、ごゆっくり」

 イナリは一度カウンターから出て、センセイに耳打ちした。カウンター脇のスペースで何かやっていたが、すぐに戻ってきて、奥の部屋に消えていった。

 料理は残さず食べた。いつもの総菜パンがおいしくないわけではないが、こんなに満足した食事は久しぶりだった。前回、不気味だからと手をつけなかったのがもったいなく思い出されるほどだ。

 僕たちは食事を終えるまで何度かセンセイのイマジンを当てようと試みたが、どの答えに対しても彼は眉一つ動かさなかった。どうやら正解は出せなかったようだ。それでも、僕らは満たされた気持ちで昼食を終えた。


 訓練に戻ると、僕とミズハの立ち位置に目新しいものがあった。イナリが用意してくれたらしい。

 腰ぐらいの高さの机の上に透明な六面体があり、中には液体が半分ほど入っている。

 ユウとミズハは仮面を出現させた。同じく仮面をつけたセンセイが僕らの前に立ち、話し始めた。

「イマジンには適切な対象が必要だ。それが判明すれば、もうそのイマジンのおおよそは解明できたと言っていい。しかし、それが難しい。何が起こるかもわからない上、対象が狭く限定されている場合もあるからだ。それでも、なるべく多くの条件を満たせるような対象を用意した。それがそのキューブだ」

「プラスチックのようですけれど、中には何が入ってるんですか?」

「ただの食塩水だ」

「塩水なんだ」

 ミズハはキューブを持って、ちゃぽちゃぽ揺らしている。キューブは完全に密閉されていて、水がこぼれることはない。

「これは個体、液体、気体の三相全てをあわせ持ち、同時にそれらに形を与えるためのものだ。基本的な要素を全て備えているため、これを対象にすれば大抵何かが起きる。加えて、わずかな反応にも気づきやすい。水面の揺れ、水中に現れた気泡、結晶化した塩。そういったもので能力を特定できる可能性がある」

 シンプルだが、なかなかすぐれもののようだ。

「特定の対象にイマジンを使う場合、イメージの仕方が少しだけ難しくなる。想像を体から押し出すまでは一緒だ。先ほどはぎゅっと明確な形にしようとしただろうが、今度は形ではなく、位置を意識する。想像をキューブの方向に寄せ、そこへ集中させるようにするんだ。やってみてくれ」

 僕はイメージした。想像が染み出し、僕の周りに広がっていく。ここまでは前回と同じらしい。全方向に広がっていく僕に方向を与えてやる。キューブの方だ。僕とその他の境界が盛り上がるように変形した。次の瞬間それは明確な枝になり、そして僕は体からぷつりと分離し、キューブを包みこんだ。

 何も起こらない。ミズハを確認したが、彼女のキューブも静かなままだ。

「イメージはできてるんだけどな」

「僕も」

 手応えがあっただけに、僕はがっかりしてしまった。本当にこれを続けて、イマジンを使えるようになるのだろうか。

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