イマジン その一
「これで岸戸と北城はイマガイズになったわけだ。皆瀬もいずれ、そうなる」
その言葉を裏返せば、僕はまだイマガイズではないということだ。どうも、心が後ろ向きになっていた。
「イマガイズは想像が強烈な密度をもって具現化したものだ。それは実体化している顔の部分だけでなく、体全体に影響を及ぼしている。わかりやすく言えば、想像のバリアーだ。イマガイズを出しているだけで、あらゆる想像の力の影響を軽減してくれる」
「これが仮面の代わりになるんだな」
「イマガイズの力でイマジナルと対等に戦えるわけね」
「いいや、これだけではイマジナルは倒せない」
センセイは僕らの前から離れ、何もない場所に立った。
「こっちへ来い。隣となるべく間隔を開けて立つんだ」
言われたとおりにした。ユウとミズハはイマガイズを発現させている。
「想像の力のもう一つは、イマジン。個々が持つ、特殊能力だ」
「えっと、それってセンセイみたいな、戦う力ってことか?」
「イナリって呼ばれてた人もじゃないかしら」
「そうだ。俺やイナリのような力だ」
ついに核心に近づいたぞ、と二人は色めき立った。
「あの、まだイマガイズではない僕は、できないんじゃないですか?」
「イマガイズとイマジンは切っても切れない密接な関係にあるが、必ずしも双方を同時に使う必要はない。ラークで会ったとき、イナリは素顔だっただろう。イマガイズなしでもイマジンを使うことはできる」
僕は少し希望を持った。
「では、説明を続けよう。想像の力というと、なんとなく、なんでも好き放題にできるのではないかと思いがちだが、そうではない。イマジンは一人ひとりの個性にひもづけされていて、まず同一のものはない。そしてイマジンで何ができるかは、かなり限られているのだ。君たちのイマジンも例外ではない。限定的で、無暗に使おうと思っても使えない、あるいは暴走する危険があるという訳だ」
「それでも、イマガイズみたいに考え方のコツがあるんだろ?」
「残念ながら、イマジンでそれをやると単なる当てずっぽうだな。何かイマジンらしいものが現れてもコントロールできる保証がなくなる。説明書のない道具を闇雲に振り回す状態は避けたい。自力かつ安全にイマジンに目覚める例は非常に稀だ。だからここでは、はっきりと段階を踏んで順番に試し、検証を繰り返して絞りこむ。地道だが有効な方法だ」
「暴走しそうになったら、わかるものなの?」
「場合によるだろうな。だから俺が監督する。君たちは心配しなくていい」
「早速始めようぜ」
「やる気があるのは結構。だがあまり力むと後が辛いぞ。いきなり成功させようとするより、一つずつ確実に、見落としのないようにするのが重要だ。いいかね?」
「了解!」
「よし! やるわよ」
僕も今度こそは、と気合いを入れた。
「まずは何をすれば?」
「イマジンは多種多様だが、大元は物体を出せるか、出せないかに分かれる。物体が突然出現すれば、それは誰が見ても明らかだし、多くのイマジンはこれに該当する。まずは、特に深く考えず、頭の中にあるものに思考をゆだねるんだ。それを頭、そして体から押し出し、ぎゅっと形にする。そういうイメージを描いてみてくれ」
「どういう形がいいとか、ある?」
ミズハが尋ねた。
「例えば、粘土にひし形の型を押し付けたとしよう。それは君たちがどう思っていたか、どう押し付けたかに関わらず、必ずひし形になる。それと同じで、君たちの想像力の型は決まっている。だから形は気にしなくていい。逆に形に先入観を持ってしまうと、それが外れだった場合、いつまでもイマジンが具現化しないままになってしまう。難しく聴こえるだろうが、自然体でいれば間違いないということだ」
「わかった。やってみるわ」
僕は言われたとおりにしてみた。仮面のときよりも集中できている。僕の頭の中のもやもやしたものが、体から染み出し、僕という個体がどんどん広がっていく感じがした。そのもやもやを一点に集中させる。はっきりとイメージできた。
だが何も起きなかった。何度かやってみたが結果は同じだ。
隣でガランと何かが落ちた音がした。ユウが驚きの声を上げる。
「何か出たぞ!」
それは二十センチ四方の板状の物体だった。金属光沢があるが、黒鉛で塗ったような暗い色をしていた。ユウのイマガイズにある金属とよく似ている。
「二人もいったん中止して注目してくれ。何かあったとき、すぐに動けるようにしろ」
センセイはその板に近づいた。
「これは金属片だな。岸戸のイマジンは何かを出すカテゴリーで間違いない」
センセイから、擦れるようなぶつかるような金属音が響いた。手には銀色の棒が握られている。それで軽くはじいた。金属片は少しだけ滑って静止した。
「ふむ、触っても大丈夫なようだ」
板を拾い上げた。
「かなり重量があるな。ありふれた金属ではない」
センセイは板をそのまま床に落とした。ガラガラと音がし、板は上下に振れながら止まった。
「岸戸、何ともなかったか?」
「いや、どうってことないですけど」
「なら……」
ギィン!
激しい衝撃音がした。センセイが棒で板を突いたのだ。少し丸い痕が残った程度で、板はほとんど無傷だ。棒は金属が擦れ、ぶつかり合う音ともに消えた。再び、センセイが金属板を拾い上げた。
「かなり強度がある。今ので、これは重量と強度があり、特に変わったところのない金属板だとわかった」
「なんでさっき俺を心配したんだ?」
「そのことか。イマジンと五感の一部が共有されている場合がある。それを確認せずに棒で突いたりしたら、大事になる恐れがあった。この板のような単純な物体で五感が共有されているケースは珍しいがね。念のためだ」
「なるほど」
「特に問題はなさそうだ。岸戸、持ってみろ」
ユウはセンセイから板を手渡され、裏返したりしながらしげしげと眺めた。
「うーん、ただの金属の板だなあ。でも、これめちゃくちゃ軽いぞ。重さがないみたいだ」
「そんなわけないでしょ。落ちたとき重そうな音がしたわ。センセイ、私も触っていいかしら?」
「大丈夫だろう。皆瀬もこっちにこい」
僕とミズハはユウのそばに行き、かわるがわるに金属の板を持った。
「ユウ、これ重いぞ。鉄より全然重い。持ったことないけど金よりも比重があるんじゃないか?」
「見た目の割に重いわね。いくら鈍感なユウでも、これを軽いって言うのは変よ」
ミズハはユウに板を返した。
「軽いって。ほんと手のひらに乗っている感触だけだぜ」
センセイは何か考えていたようだったが、口を挟んだ。
「なるほど。俺もその金属板は重く感じた。おそらく、それも能力のうちだ。岸戸だけが重さを感じない、その板はそういう性質を持っているのだろう」
「ただの板かと思ってがっかりしたけど、ようやく超能力っぽいな」
「岸戸は待機していてくれ。板を出したり消したり程度なら構わんが、それ以上のことはするなよ。皆瀬と北城は再開してくれ」
「了解、了解」
「もう、なんでいつもユウが先にできちゃうのよ!」
僕とミズハは元いた場所に戻り、何かを出すイメージを続けた。しばらくたったが、何かが出る気配はない。
「皆瀬、北城。イメージはできているか? 判断は主観で構わない」
「できていると思います」
「イメージはあるのよねえ」
「確定ではないが、君たちは物体を出すイマジンではないのだろう。次は、それを踏まえて絞りこんでいくが、その前に昼食だな」
携帯電話の時計を確認すると、とっくにお昼になっていた。急にお腹がすいてきた。何かがっつりと食べたい。




