イマガイズ その二
「ユウ、仮面が!」
「なんだか、そんな気がしたんだよ! でもどうなってるんだ、これ?」
ユウは不思議そうに眼窩の縁を撫でていた。
「骸骨みたいだわ。目玉は空洞になってるけど……ちょっと! 指突っ込むのはやめてよね! 気持ち悪いんだから」
見ていて気持ちのいい行為ではなかったので、ミズハが止めてくれてほっとした。
センセイが確認しに来た。とはいっても一瞥しただけだ。
「それがイマガイズだ。おめでとう、岸戸」
ユウはへへへ、と照れくさそうに笑った。
「どうやったんだ?」
僕は少しでもきっかけが得られればと思った。
「うーん、正直わからん。いつの間にか出てた」
「ユウができるなら、難しく考えない方がいいのかも」
「言い方に棘のあるのが気になるが、そうかもな。俺は素直に単純に考えただけだから」
ユウの言葉を参考に、僕とミズハは再び自己のイメージを想像し始めた。しかし、どうもうまくいかない。単純にと考えれば考えるほど自分のイメージがぼやけていくようだった。意図して単純さを求めると、直感から遠ざかってしまう。
まとまらないので、僕は座りながら後ろに体勢を伸ばした。知らず知らずのうちに体がこわばっていたようだ。隣にはドクロの面のユウがいて、僕の様子を見守っていた。他人のようで落ち着かない。その奥にはミズハが――。
僕は思わずミズハを二度見した。彼女の顔に仮面が現れていたからだ。本人とユウはそれに気づいていない。
ミズハの仮面は、普段使いの仮面のデザインと色、そして大体のシルエットが同じだ。全体が朱色で二本の角が上に突き出ている点はそっくりだ。だが、この仮面は顔全体を覆っていて、真ん中が刀のしのぎのように高くなっている。口のある辺りから一段低くなっており、その段差は直線ではなく逆への字で、そこからさらに二つの突起が下に飛び出ている具合だ。簡略化されてはいるが、まるで牙の生えた口のようだ。目の部分はくりぬかれていて、ミズハの凛とした目が覗いている。目の周りは、はっきりと白く縁取ってあるので周囲の朱色からよく映える。角、とあえて言ってしまうが、それもミズハの普段使う仮面と比べて大きい。角は角柱状で、長さが仮面の縦の半分はありそうだ。角の根元から少し上に幅の狭い帯が巻かれており、それが角から二本ずつ、計四本顔の前に長く垂れ下っていた。いつもの仮面は猫と言われれば、そう見えなくもないが、これは完全に鬼だ。
「何よアキヒロ、じっと見つめて。もしかして……」
「うん、仮面が現れてる」
ユウもミズハの仮面に気がついた。
「お、本当だ。なんというか……」
ユウは口ごもった。僕が脇腹を突いたからだ。
ミズハはさっぱりした性格だが、案外可愛いもの好きで、女の子らしい一面があった。見たままをストレートに伝えたら、彼女は怒る。
「なによ、はっきり言いなさいよ」
「ミ、ミズハらしいよ」
「それじゃあ、わからないわ」
「なんというか、その、鬼……みたいな?」
ユウはミズハに突き飛ばされた。彼はもんどりうって床を転がった。
「ちょ、痛てえ! 加減しろよ」
「そんなに強くやってないでしょ」
「本気で身の危険を感じたぞ!」
「小突いただけなのに、大げさねえ」
おかしいなあと首をかしげながらユウは席に戻った。
「北城もイマガイズを出せたようだな」
センセイは満足そうだったが、ミズハは鏡で自分のイマガイズを見て、若干気落ちしているようだった。
残るは僕だけだ。必然、みんなの視線が集まる。焦燥感。
それから、僕は仮面を出すことに集中した。最初は軽口混じりで応援してくれたユウとミズハも、三十分を過ぎるころには口数が少なくなった。才能がないのかもしれない。僕の心を諦めが占有していた。
「皆瀬はまだのようだが、時間いっぱいだ。次のステップに進むぞ。想像の仮面を出すのは一人でも行える。むしろ一人の方が落ち着けて、いい結果を生むかもしれない。皆瀬は個人的に習得しておくように」
「わかりました」
「誰もが一律に同じ結果を出せるわけじゃない。個人差があるのは当たり前だ。それに仮面を出せなくても、次の訓練には参加できる。気に病むなよ」
「はい」
センセイの語調は優しく、そして親身だった。だが、どうしても気にしてしまう。僕が苦戦しているうちに、ユウとミズハは自在に仮面を出したり消したりできるようになっていた。コツさえつかめば簡単だと、二人とも励ましてくれた。僕はそれを素直には受け取れない。悲しいような悔しいような、むしゃくしゃした気分だった。




