イマガイズ その一
僕、ユウ、ミズハの住んでいるところの、およそ中間地点に十字路がある。今日はここで合流してからラークに行く予定だった。
十時までということだったが、早くその対策とやらを知りたかったので、十字路には九時に集まることになっていた。
今は八時四十五分。少し早く着きすぎたかもしれない。
ややしてユウとミズハが一緒に歩いてきた。この十字路から見て、二人の家は同じ方向なのだ。
「ごめんね、アキヒロ。待った?」
「そんなことないよ。数分かな」
「いやーミズハがよ、呼びに来るのが遅かったからさ」
「全く準備してないなんて思わないわよ」
「起こしてくれて助かったけどな」
「ユウは休みの日には起きられないもんな」
「そういう体質なんだ。たぶん」
「話は変わるけどさ、僕の部屋にいたあの生物」
「あれね。どう、懐いた?」
「だんだんと慣れてきているみたいだ。それで、あいつってイマジナルなんじゃないかなって」
「そう考えると、しっくりくるな。とすると、今は見えるのかね?」
「確かめる価値はありそうね。実は見たかったのよね、その生き物」
「でも、見えるということは、干渉されやすくて危険だってセンセイが言っていたし、一度確認した方がいいかなあ」
「大丈夫だろ……とは言えないもんな。こればっかりは聞いた方がいいか」
「じゃあ、許可がもらえたら見せてね!」
「こんなわけわからないことが立て続けにあった後じゃ、すごいものを期待されても困るけどね」
そんなことを話しながら僕らはラークに向かっていった。
予定よりかなり早く来たので、もしかするとセンセイはまだ来ていないかと思ったが、ドアを開けると彼はすでにカウンター席に座って待っていた。
センセイは前と同じく、よれたコートにブーツといういでたちだ。無精髭もそのままだが、ブーツに土はついていなかった。
「やる気十分といったところかな。感心だ」
冗談めかして言いながら、僕たちと入れ替わるように席を立った。僕らはカウンターを背にして座り、センセイに注目した。
「昨日はイマジナルと想像の性質を中心に話したな。仮面もそれらに深く関わっていると学んだはずだ」
センセイの語調が引きしまった。訓練はもう始まっているのだ。
僕たちはうなずいた。
「今日は残りの一つ、想像の力についてだ」
「あのう、不満ではないけどさ、今日も講習なのか?」
「今回は実技もある」
「あら、ユウ。よかったじゃない」
「だが、まずは簡単に話をしてからだ。それでは、想像の力は様々あるが、大きく三つに分けることができる」
昨日と同じように、彼の顔に突然仮面が現れた。
「まずは、これがなんなのか、昨日から疑問に思っているだろう」
センセイは仮面をこつこつと爪で叩いた。
「イマジナルと正対し認識するからには、通常の仮面ではほとんど意味がない。イマジナルは想像の存在。対抗するには同じく想像の力が必要だ。それが想像の仮面、イマガイズだ」
「イマガイズ?」
「想像の仮面それ自体、あるいは想像の仮面を出現させられる人物を指して、そう呼んでいる」
「想像か。それで突然現れたのか」
「どうやって出すのかしら」
「君たちはイマガイズの存在を知った。想像すれば今にでも……」
僕らは言葉の終わらないうちに、想像し始めた。どんな仮面がいいだろう? 僕は自分の仮面が好きではない。今度こそは気に入った仮面が欲しい。
「というわけには、残念ながらいかない。若干のコツがいる」
肩透かしだった。気を取り直して続きを聞く。
「君たちは今、どんな想像をした? 岸戸」
「曖昧だけど、かっこいいやつを想像したな」
「北城は?」
「ええと、可愛い感じで、でも甘くなりすぎないデザインかな」
「皆瀬」
「僕は自分の気に入る仮面なら、と思いました」
「なるほど。それぞれ色々考えがあっただろうが、そういった仮面の具体的な想像は不要だ。想像するのは仮面ではなく、己だ。想像の仮面は自分自身だ。己を想像しろ」
「自分を客観的に見るということですか?」
「そこまで固く考えなくとも、もっと内向きで単純だ。人物を動物に例える質問遊びがあるだろう。あれの対象を自分にして、動物という枠を取っ払えばいい。直感で自分をイメージするのだ」
僕は悩んでしまった。僕とは、一体何なのだろう。考えたことがない。
ユウやミズハだったら、僕のイメージを何か持っているのだろうが、自分自身で決めるとなると雲をつかむようだ。
改めて考えてみると、僕には突出した部分がない。平凡、平均、普通……そんな言葉が次々と浮かんだが、イメージというにはあまりにも漠然としている。
そんな考えを巡らせていると、隣でユウがおおっ、と尻上がりの声を上げた。
見ると、ユウの頭を僕の知らない仮面がすっぽりと覆っていた。
ドクロの仮面だ。眼球はなく、眼窩がぽっかりと空いている。そこからユウの目が見えてもよさそうなものだが、真っ黒な、奥行きを感じさせる闇が広がっているだけだ。右目は真っ暗だが、左目の奥では小さな太陽が踊っているような白熱した光があった。右目の上を中心に、何か重いもので叩き割られた具合の、クモの巣状のひび割れが広がっており、そのひび割れと破片が欠落した隙間を煤色の金属が埋めている。仮面の下部には骨の部分がなく、下顎の代わりになるように、中央からバイクのマフラーのような筒が左右対称に伸びている。それは耳の下で折れ曲がり後頭部に真っ直ぐ抜ける。これは、ひびを充填しているのと同じ金属でできているようだ。その先端から蒸気らしい、微かな白いもやを立ち昇らせていた。




