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秘密の常識 その二

「不特定多数? たくさんの想像が合体するってこと?」

 ミズハが質問した。

「イメージはそれで構わない。この町の人間が、あり得ないものに気づかないことは説明したな。これは、想像できないからだ。想像できないからイマジナルに気づけないし、イマジンも操れない。しかし、この町にはたくさんの人が住んでいる。イマジナルやイマジンほどはっきりしたものは作れなくても、ごく小さな想像の欠片、想像カスが生まれ、町中に蓄積されていく。ある一定量に達したらなのか、時間経過なのか、それとも別のきっかけがあるのか……そこははっきりしないが、その想像カスが集まってイマジナルに変化する。ゆえに、こいつらは想像した特定の人物、いわば想像主そうぞうしゅを持たない。その点を強調するために野良イマジナルと呼ぶこともある」

「俺たちが倒すのは野良イマジナルなんだな」

「全てではないがね。人間がそうであるように、イマジナルも全員が悪いわけじゃない。仮面によって日常の外に閉め出される程度の、無害なやつがほとんどだった」

「だった?」

「少し前まではそうだった。だがここ最近、イマジナルの数、個体の強さともに上昇してきているのだ。住人はそれと気づいていないが、夜間以外のイマジナルによる被害も出てきている。やつらが増えている原因は特定できていない」

「夜間以外? じゃあイマジナルは夜行性か。それで十七時から仮面をつけるんですね」

 なんとなく一本筋が通ったように感じて、僕は思わずセンセイに確認していた。

「夜行性とは少し違う。そうだな……。ここで想像の性質とイマジナル、この二つの知識を関連づけよう」

「えーっ。複雑になったら、俺はわからないぞ」

 ユウが文句を言った。

「必要なのは頭のよさじゃない。想像力だ。ひとつ状況を思い浮かべてくれ。君たちは、電灯があり、テーブルの置かれた部屋にいる」

 センセイが黒板に窓のない部屋と電灯、そして小さなテーブルを描いた。なかなか上手である。

「俺がテーブルの上に赤くて丸い果物を置き、君たちに尋ねる。テーブルの上に何かを置いた、これはなんだ、とね」

 センセイはそれを描くことはなしかった。僕たちは光景を想像した。

「うーん、リンゴかしら」

「トマトだろ」

「ユウ、それは果物じゃないよ」

「岸戸はともかく、君たちはそれを見てしまっている以上、赤くて丸い果物に限定して考えるはずだ」

 その通りだとうなずいた。

「ではその果物をテーブルから取り去る。全く同じ部屋で、今度は電灯を消そう。部屋は真っ暗だ。質問も同じ。テーブルの上に何かを置いた、これはなんだ。さて、何を想像する?」

「トマト」

「あんた、どんだけトマト好きなのよ! でもこれって、答えがないんじゃない?」

「僕もそう思う。オレンジでもブドウでも、いや果物じゃなくてもテーブルに置ける大きさなら、なんでも当てはまるから絞りこめないよ」

 センセイは満足そうにうなずいた。

「では、その暗い部屋でだんだんと目が慣れてきたらどうだろう。色はわからないが、まるっぽい拳大のものだとしたら?」

「やっぱりトマトだ!」

「なんで断定できるのよ。そうとは限らないでしょ。私は、前と同じリンゴだと思うな」

「うーん。これって、直前に考えていた物にかなり影響されるんじゃないかな」

「つまり自分の心次第というわけだ。そういう意味では全員が正解だ。これが想像の性質だ。得られる情報が少ないほど、想像の余地が増えてしまう」

 センセイは描かれた電灯を消した。続いて小さなテーブルも消した。

「夜は暗く、視認できる範囲が制限される。だから想像の余地が大きくなる」

 この状態の部屋に何があるかと聞かれたら、さらに色んなものを想像できてしまうだろう。部屋の大きさ以外には制限がないのだから。

「想像の性質がわかったところで、皆瀬が言った、仮面は十七時以降につけることとの繋がりが見えてこないか」

「あっ、そうか」

「だから仮面は夜につける規則なのだ。暗くて辺りが見えなくとも、仮面さえ見えれば一気に情報が得られる。どこの誰かが判然とする。想像の余地をぐっと減らせるわけだ」

 センセイは黒板の図を全て消すと、新しく絵を描いた。いかにも悪そうな顔をした猫のようなマークと人型が並んでいた。悪そうなのがイマジナルで、人型はそのまま人間を表しているのだろう。

「これらを踏まえて、話をイマジナルに戻すぞ。イマジナルに対して、想像するのはラジオのチューニング、あるいはレンズのピントのようなものだ。想像することで、やつらを認識する可能性が高くなってしまう」

「認識って、どういうことですか」

「君たちは俺をどうやって認識している? 姿が見え、声が聞こえるからだろう。それと同じでイマジナルも姿を見る、鳴き声を聞くことで存在を認識できる。あるいは認識してしまう」

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