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秘密の常識 その一

 僕たちは授業を終えると、すぐさまラークに向かった。

 積極的な気持ちになれたのは、訓練に興味があっただけではなく、ジョウの態度のおかげもあったと思う。彼は僕たちに町を守る方を選ばせたかったに違いない。しかし、決して無理強いせず、状況を説明し、僕らに選択させてくれた。そのためか、やらされているのではなく、自分の意思でやる。自然とそんな姿勢になっていたのだった。

「訓練って、一体何をするんだろうな」

「あの人、厳しそうよ。ものすごいスパルタだったりして」

「それは嫌だな。でも相手を考えると、厳しいぐらいが必要なのかもしれない」

 僕は昨日のイマジナルを思い出していた。

「本当に、あんなのが倒せるようになるのかねえ」

「実感が湧かないわよね」

「イマジナルだっけ。あれの詳しいところも、よくわかってないままだろ?」

「なら、聞いてみようよ」


 ラークに着くと、カウンターの中でジョウが待っていた。この時間は仮面をつけておらず、素顔の彼だ。僕たちが来るまでに時間はあっただろうに、無精髭はそのままだった。格好も昨日とそう変わらない。ただ不潔感はなく、ブーツについた泥は、昨日のように山を歩くためらしかった。

 イナリと呼ばれていた男は見当たらない。

「好きなように座ってくれ」

 僕たち側から見て、左からミズハ、ユウ、僕と席を一つ飛ばしで座った。

「今さらのタイミングだが、自己紹介だ。君たちの名前を聞こう。呼ぶときに困るからな」

岸戸きしどユウだ」

北城ほうじょうミズハよ」

皆瀬みなせアキヒロです。あなたのことは何と呼べば?」

「ジョウって呼ばれてなかったかしら」

 ジョウは少し困惑したような表情を浮かべたが、

「ジョウはあだ名のようなものだ。なあに、あの仮面のせいだろう」

 と腰に手をやり、鍵束をちゃらちゃらとさせた。あの仮面には錠前がたくさんついていた。あだ名はそこから来ているのかもしれない。

「俺のことはセンセイと呼んでくれ」

「センセイ?」

「なんだか、学校みたいで嫌だな」

「反発するのはわかる。だが俺は教える立場だ。その点には、形だけでも敬意を持ってもらわないといけない。それがここの伝統だ」

 もっともだ。相手を見下しては学べない。あだ名で呼ぶわけにもいかなかったので、僕たちは彼をセンセイと呼ぶことにした。

 彼は、と言ってもそれほどの歴史はないんだが、と呟きながら僕たちの名前を確認した。

「岸戸、北城、そして皆瀬だな。早速、訓練を始めるぞ」

「ちょっと待って。聞きたいことがあったんだよ。なあヒロ?」

「僕に振るなよ。……あの、イマジナルについて、もっと知りたいのですが」

 センセイは腕組みし、顎をポリポリと掻いた。

「丁度いい。最初の訓練は講習だったからな」

 ユウがげっという表情をした。

「なんだ、岸戸。不満か」

「いやその、もっと実戦的なことをするのかと」

「それは無理だ。まずは理屈を知らないといけない。イマジンを扱う技術にも繋がるし、イマジンによる自滅を防止するためでもある」

「自滅?」

「そうだ。あまりに無軌道にイマジンを操ろうとすると、対象がおかしなことになって自分や味方に降りかかる。……例えば」

 金属音とともに、刀がにゅっと僕とユウの間に通される。僕とユウは思わず身を引いた。

「こういうことができるのは、想像の簡単な理屈と自身のイマジンを理解しているからだ。仮に未熟な状態でこれをやろうとすると、君たちのどちらかを突き刺してしまうとか、自分自身を切断してしまう、ということが起こり得る」

「もう、わかりましたから! 危ないんで、しまってください!」

 ユウがそう言うと、刀は音ともにぱっと消えた。ユウは心底ほっとし、額を手の甲で拭って息をついた。

「講習の重要性がわかってもらえたようだし、始めるとしよう」

 僕はカウンターにノートを出そうとした。

「それはいらんな、皆瀬。板書はほとんどしないし、写すことで反復して覚える内容でもない。俺の話に集中してくれれば、それでいい。むしろ、ノートを作るのが目的になっても困る」

 僕は顔を赤くした。ユウがニヤニヤしながら肘でつついてきたので、頭を丸めたノートで叩いて追いやった。僕がノートをしまうと、センセイは改めて話を始めた。

「君たちが知識として押さえておくべきは、イマジンを含む想像の力、イマジナル、そしてそれらの大元となる想像の性質。この三つだ。まずはリクエストがあったイマジナルについて教えておこう」

 センセイは小さな黒板を横向きにカウンターに乗せた。本来、喫茶店のメニューを書くものだろう。

「イマジナルとは想像から生まれる生物の総称だ。形態は多種多様で、獣、鳥、魚、虫や植物など地球上の生物に類似したもの、あるいはその一部を合わせもったもの、そしてそれらに全く該当しないようなものまでいる。大きさや強さも様々だ。生物の特徴としてはあり得ない、特殊な能力を持ったイマジナルもいくつか報告されている。実のところ、やつらがどのように出現するのか、その原理はよくわかっていない。それ以前に、なぜ飾有町で想像の具現化とも言える事象が起こるのか、判明していないのだ。何かが町全体に影響を及ぼしていると推測されるが、それを裏付けるものは何も見つかっていない。ただイマジナルが想像から生まれているのは間違いなく、特に昨日戦ったようなものは、不特定多数の想像から作られている」

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