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楽園外部は内にある その二

「見るって、どこを見たらいいのかしら。ただの通路よね?」

「ここから見る限りじゃ、そうだな」

 ミズハにユウが同意した。

「離れすぎじゃないか? 進もう」

 ジョウは僕たちを気にする様子なく、どんどん進んでいく。僕は二人を促し、足を進めた。

 光の漏れている場所に着いた。

 そこには壁から少しくぼんだ形で扉が設置されていた。扉は金属製で継ぎ目が全くない。まるで一枚の板で作られているようだった。目線の高さにつけられた金属製の番号札と、その右下に単純な取っ手がなければ、扉だとは思わなかっただろう。そして、扉の上には会釈をするような角度でモニターが設置されていた。これがぼんやりとした光の正体だった。

 モニターには部屋が映し出されていた。この扉の向こうだろうか。モニターの映像は数秒ごとに切り替わったが、どうやら同じ部屋を様々な角度から映しているらしい。モニターの右上だけは、切り変わることがなく常に八つのゼロが表示されていた。

 部屋は質素だったが必要なものは揃っていた。何の特徴もない、モデルハウスのような内装だ。ただ妙な点が一つだけあって、壁に設置されている時計がかなり大きいのだった。

 それは黒地に赤のデジタル表示で、普通なら時間と分を表す二桁が二セットのところ、この部屋の時計は四セット並んでいる。表示は全てゼロだ。余分な桁は年、月、日、秒のどれかを表示するとして、すべてゼロになっている理由がわからない。

「普通の部屋よね」

「何を見せたいんだろう」

 意味がわからないものの、静かな光景だった。一刻前まで何を不安に思っていたのか、自分でもはっきりしないが、とにかくほっとした。

 ユウは先に進んでいて、僕とミズハに声をかけた。

「おい、隣にも似たようなのがあるぞ」

 僕とミズハもそちらに向かった。

 次の部屋も構造は前の部屋とほぼ同じだった。ただ部屋の番号と、時計が動いているのが異なった。

 一番右の二桁はどんどん増加していくので、これが秒だろうか。隣は順に分、時、日だろうと思われた。時計の表示はめちゃくちゃだ。携帯電話で確認するまでもない。日にちも違うし、今は夕方ぐらいなのに、あの時計の時を表す場所は「01」を示している。そして、その数字はモニター上部の数字と連動しているようだと気づいた。

 モニターの画像が三度目に切り替わったとき、僕らは息をのんだ。

 ある程度予測できたことだが、その部屋には人がいたのだ。その男性はテレビを見ながら食事をしていた。そのかたわらに目の部分だけをくり抜いた真っ白な仮面が置いてあった。音声は聞こえない。何気ない日常をカメラが俯瞰ふかん気味に映し出していた。

「この部屋で何をしてるんだ?」

「普通に暮らしているようだけれど……」

「この人は誰なのかしら」

 不気味に思いながらも、僕たちはさらに通路を進んでいった。

 他の部屋も同様だった。部屋番号は順番に増えていき、誰もいない部屋があり、あるいは部屋の中で一人の男性、または女性がごく普通に仮面をつけて生活していた。

 ひとつ気づいたのは、壁の数字は時計ではないということだった。部屋によっては数字が減っていくのがモニターで確認できた。むしろ二番目の部屋が珍しい場合だったようで、数字が減っていく部屋の方が圧倒的に多かった。多角度に設置されたカメラといい、何かを計測しているのかもしれなかった。

 部屋をいくつ見たのだろう。いつの間にか、通路の終端まで来ていた。こちらは右側だったが、左側の通路に行けば、ここと対称の構造になっているに違いなかった。

 僕たちが追いつくと、ジョウは振り返って言った。

「これが君たちの選択肢の一つだ」

「どういうことだよ」

「見たけれど、よくわからなかったわ」

「ここに収容される。それが第一の選択だ」

 不便な場所ではなさそうだが、カメラや壁の数字、そして収容という言葉に抵抗を覚えた。

「いやよ。なんでこんなところに!」

 ミズハが真っ先に反発した。

「俺たちが何かしたのかよ」

 こうは言いながら、仮面を外した以外にないと、ユウもわかっているに違いなかった。

「大体、ここは何なんです? 普通に生活しているだけに見えますけど」

 僕は二人を落ち着かせる時間を稼ぎつつ、情報を引き出そうとジョウに質問した。

「簡潔に説明するなら、ここは飾有町かざりちょうの仕組みに再び順応するための施設だ。俺たちは〈エデンの外〉と呼んでいる。いましめに背いた者は楽園を追われ、ここに追い出される」

「規則を破って仮面を外した人……」

「ここにいる、みんな……ってことか?」

「そして、君たちも仮面を外した」

 今まで見てきた部屋の人たちは、特に制限なく生活しているようだった。刑務所のような扱いではなさそうだが、それでも、すんなりと受け入れられる提案ではなかった。それに、この施設がどのような働きをして、男の言う順応が起こるのか見えてこない。それが不安だった。ユウもミズハも難しい顔をしていた。

 その気配を察してか、ジョウが続けた。

「これは選択の一つに過ぎない。君たちが選べるということだ。それに、今の段階で決めてほしいとは、俺も思っていないのだからね」

 男は鍵束をジャラジャラさせながら僕らの脇をすり抜け、元来た道を足早に戻り始めた。

「ここは十分だ。次に行くぞ」

 背を向けたまま声をかけるジョウに、僕らは遅れないように通路を引き返した。

 黄色い防壁を越え、再び管理人と思われる男の部屋の前に来た。ジョウはノックし、ドアを半分ほど開けると、終わった、助かった、とだけ言って閉めてしまった。

「捕まると、また長いからな」

 通路から何かが重くしっかりと噛み合う音がした。防壁が閉じたのだろう。

 重厚な部屋の扉、やり過ぎとも言える防壁、そして監視カメラに壁の数字。人間的な生活が送れるとしても、この施設はやはり異常だ。

 階段を上り、何もない殺風景な部屋に出た。

ここを最初に見たときは、地下にこんな施設があるとは考えもしなかった。ルールを破り、仮面を外した人を収容する施設〈エデンの外〉。ここでは彼らを町の生活に再び順応させるのだという。

 ここに収容されるのが選択の一つだとジョウは言った。

 しかし、ジョウは初めに、選択肢が二つあるとも言った。危険こそ感じないが〈エデンの外〉は普通ではない。ここより、もう一つの選択肢がましなものだといいのだが。

 僕たちは、他の選択を確認するため、ジョウに続いてビルを出た。

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