表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/150

飾有という町

 人は群れる。

 それは家族。あるいは友達や同僚。もしくは単なる知り合い。

 彼らを丸で囲んでいく。ぐるり、ぐるりと囲む。

 それらを俯瞰ふかんすると、町はまるで水玉模様のようだ。ゆったりと流れる玉。その間を無数の無関心がすり抜けるように往来している。

 生きた町だ。人々の流れは、体の中を血液が流れるのとよく似ていた。


 その無関心の一人、スーツ姿に鞄を持った、いかにもサラリーマンといった風体の男。鞄と皮靴はくたびれているが、スーツとシャツはしゃっきりしており、クリーニングからおろしたばかりか、まめにアイロンがけをしているのだろう。もしくは妻がいるのかもしれない。

 男は無関心のまま歩き続ける。

 無関心は個人で完結するシステムに思えるが、そうではない。他人の干渉があると、人は何かしらの反応を起こす。無視でさえ反応の一つなのだから、干渉された後に無関心でいるのは困難だ。無関心を維持する秘訣は、元から関わらないことだ。自分から関わっても、相手から関わってもいけない。

 それゆえ、彼らは相互に無関心であろうとし、それを暗黙の了解としていた。

 この男も、その術を心得ているようで、すいすいと人の間を通り抜けていく。足取りによどみはない。

 不意に、町なかにゆったりとした音楽が流れ始める。

 すると、それまで軽快だった男の足がぴたりと止まった。男は何かを探すように鞄に手を入れる。鞄の中身を改めはしない。どこに何が入っているのか知っているのだ。手探りで男が鞄から取り出したのは、一つの仮面だった。

 目の部分が楕円だえんにくりぬかれた、顔全体を覆うシンプルなデザイン。真っ白ではなく、やや黄色い。元々なのか。ワンポイントで目元に黄緑色の三つ葉マーク。その下に同じ色で何か文字が刻印してある。陽光が反射すると、仮面の表面には細かい傷があるとわかる。使いこまれている。

 男はそれを顔まで持ち上げると、当然のように被った。平凡だった無関心の一人は消え去り、代わりに仮面を被った男がそこにいた。

 いや、男だけではなかった。グループも、無関心も、皆が一様に足を止め、各々の仮面を取り出し、それを被った。そして仮面をつけた者から歩き始める。

 音楽が鳴り終わる頃、通行者達は先刻と全く変わらぬ様子で行き交っていた。実際、仮面を被っている以外、違いを見つけられる者はいないだろう。結局のところ、あの無関心は何の変哲もない一人の男に過ぎなかったのだ。

 これが飾有町かざりちょうの日常風景なのだから。街頭の時計は午後五時三分を表示している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ