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カケル・ディキンソン2 「手記」

例えば。

もしも、身体だけここに置いて、心だけで旅が出来たら。

もう少し素直に、色んな事に驚いたり、悲しんだり、喜んだり……。

そんな風になれるのだろうか。

風に晒されて、人に晒されて、雨に打たれ、本当に「気の向くままに」旅ができたら……。



白い病室。

動かない足を抱えた私の世界はこの何畳かの四角い空間と、窓から切り取られた風景、それだけ。

単純に日を取り入れるためなのか、それともせめてもの気休めなのか、無駄に大きいその窓からは今日も変わらず、変わらない風景が見える。

病院の中庭、そこに植えられたモミの木、門、そしてその向こうの町並み、空。

それが、私の限界。

私が、旅することの出来る世界の限界。

運ばれてきた昼食をとった後の昼下がりには、死にたくなってしまう。

……いや、死にたいわけじゃないな。

こんなポンコツな身体を捨てて、心だけになってしまいたくなる。

こっちのほうがしっくりくるな。うん。


このまま身体だけを此処に置いて、ふわふわとまるで生霊のように飛んで行って。

あのビルの間を走り抜けたり、あの入道雲の下で思いっきり雨にうたれたり。

そんな空想を駆使して、どうにかこうにかジリジリと私は私の世界を広げていくしか無い。

人はこんな私を見て、愚かだと思うだろうか。

……でもさ、空想と記憶の違いってなんだろうか。

実際に旅をして、何かに出会って、何かを感じて。

そしてそれは、記憶になって。

でも人は「今」という時間を観続ける事が出来ない。

記憶というフィルムはどんどん過去へと押し流されて、次第にピントがぼやけていって、内側からは穴がどんどん空いていって。

それでもどうにか観続けたくて、人は空想という絵の具で……しかも自分の好きな色でさ、そのフィルムを補修する。

そうして出来た「記憶」という映像は……この私の空想と一体何が違うというのだろう。

真実が在ったかどうかなんて、それほど重要じゃない。

それを本当に確認する術なんて、無いんだから。

現実と妄想の区別がつかない危ない奴だって思われるかもしれないけどさ。

そんな曖昧さを、希望にしたって良いじゃないか……。

それが私に残された、身体を捨てて、心だけで旅をする唯一の手段なのだから。

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