死者の集う丘
十字架が所狭しと並んでいる丘でした。
まるで針の山のようにも思えて、見ているだけで肌がチクチクと痛みます。
でも、そこは普通の墓場とは少し趣が違いました。
「安らかに眠ってね」
そう言って、少し派手な格好の女性が十字架にお供えしたものは花でもなく、食べ物でもなく、ドレスでした。
少々露出の多い、ステージなどで着るような、ドレスです。
見渡せば、どの十字架にもお供えしてあるものは一風変わった物ばかり。
楽器、ペン、包丁、果ては飛行機のプロペラまで……。
お墓にお供えするにしては、随分とバラエティにとんでいます。
失礼は重々承知の上ですが、私は好奇心に負けて、その女性に尋ねてみました。
すると。
「ここは夢の墓場ですから」
清々しい笑顔で、そう答えました。
夢の墓場……夢の途中で無念にも亡くなられた方々が眠っているのでしょうか?
「違う違う。夢そのものが眠ってるのよ。……例えば、この十字架の下には私の踊り子になりたかったって夢がね……」
今度は少しだけ寂しそうな、笑顔でした。
「でも、もうその夢は死んだ……いや、その時の私は死んだの。だってそうでしょう? 今の私はどうやったって、その時の私に干渉出来ない。他人より遠い他人なのだから」
ふと、ある少年のことを思い出しました。
私が歩いてきた道は、始まりから今までずっと続いています。
でも、旅を始めた私と、旅を続けている私……それは確かに同じ「ククル」だけれど、纏っている匂いも、考えも、全然違います。
……じゃあ、あの日の私は、今どこに?
「あなたもその重そうな旅行鞄を弔ったら? 生まれ変わるって素敵なことよ」
確かに、今この女性はとても身軽に見えます。
それはひょっとしたら、ステージで踊っていた時よりも身軽なのかもしれません。
それは過去の自分を捨てたからでしょうか。
その分の重さが、無くなったからでしょうか。
「……そう。残念ね。仲間が増えると思ったのに」
私は気づけば顔を横にふっていました。
私は旅人です。
あの日の私とすれ違うことも、あるかもしれません。
そんな夢を抱いて、私はまた歩き出しました。




