手、つなごう。
私は、葛西乃愛。十七歳の高校二年生。今は好きな人がいるんだ。それは、とっても素敵な出会いだったんだ。それはある日のこと、愛犬の『ころ。』を散歩に連れて行ったら、途中の公園でアノ人に逢ったんだ。
「よっ葛西。」
「あっ榎本君。」
そう、この人が私の好きな人、榎本翔也君。榎本君は、サッカー部のキャプテンで、みんなの人気者。それに、学校でも有名なモテ男子。クラスの女子の憧れの的。でも私、正直に言うと、榎本君のこと、あまり好みじゃなかったんだ。ずば抜けてタイプじゃなかったから。でも、公園でころ。が休憩したそうだったから、少しベンチに座ってみてたんだ。サッカーの練習を。カッコ良くヘディングする榎本君見てたら、胸がドキドキしちゃってたんだ。私、その時初めて、「好きだ」って、気づいたんだ。今は席、離れてるけど、いつか隣の席になって、いっぱいおしゃべりしたいんだ。
次の日森先生が、
「おーいみんな、今日は席替えをするぞ。」
やったーっ。もしかしたら、榎本君と隣になれるかな。
「今日はくじ引きだ。書いてあった人と隣だからな。」
「カサッ。」
『榎本翔也』
やったー。榎本君と、隣の席になれたー。
「あっ乃愛、翔也くんの隣なんだ。いいな、はいっ交換。」
「あれ美香?交換なんて絶対やだよーだ。」
この子は、青柳美香。私の心友。
「そういや、美香は誰なの?」
「 最悪、広翔だよ。いいなー、交換して!」
「だーめ。それ、反則。」
「ダダダっ!」
「アッ、乃愛ちゃん、翔也くんの隣なの?いいな、交換して!どうせ乃愛ちゃん、翔也くんのこと、好きでもなんともないんでしょ。」
「ちょっと、それはひどいよ。久美子ちゃん達。」
「いいのよ,別に。」
「乃愛・・・・・・・。」
サっ、手が伸びてきた。
「あっ。」
「俺の隣は、葛西って決まったんだ。お前ら、じゃますんなよ。」
「アッ、榎本君。」
そのあと、表情一つ変えずに、
「葛西、いこ。早く席、決めよ。」
「うん。」
「葛西、ごめん。俺のせいで。」
「ううん、榎本君のせいじゃないよ。」
「そっか、葛西は、優しいんだね。」
「有難う。男の子にそんなこと言われたのないから。それより、早く席決めよ!」
「うん。俺、黒板見やすいとこがいい。」
「どこでもいいよ。」
「じゃあ、あそこね。」
それからは、夢のように、楽しい毎日が続いたよ。榎本君と話していると、心が洗われたようにスッキリするんだ。でもね、それは長くは続かなかったんだ。榎本君のことが好きな久美子ちゃん達が、私に嫌がらせをしてくるようになったから。『休み時間に、仲間に入れてくれなかったり。』そんなこと続いて、私、へとへとになってた。榎本君、気づいてたみたいで、「大丈夫?」って、声かけてくれた。優しいよね。それで、榎本君に、全部話したら、
「ゴメン、葛西、俺のせいで。今度あいつらに話しつけてくるから。もう心配しなくていいよ。」
と、言ってくれた。それから、数日後、久美子ちゃん達は、仲間に入れてくれるようになったの。まるで、あの時のことがうそだったかのように。
そのことを、榎本君に聞いたら、
「今度葛西に手出したら、承知しないぞ!って、脅かしてみたんだ!」
って、にっこり笑ってウインクしてくれた。
「アリガトウ。榎本君。」
「それさ、もう、呼び捨てでいいよ。隣なのにみずくさいじゃん。」
「分かった。翔也くん。」
「プっ、ハハハ。」
2人で笑っちゃった。
次の日の放課後、引き出しの中にこんな手紙を見つけたの。『大事な話があるから、放課後、体育館裏に来て。翔也』えっ翔也くんから。なんだろう。っていうか、もう放課後じゃん。早くいかなきゃ。
「タッタッタ。」
あっ、あの後ろ姿は。
「翔~也く~ん。」
パッて、振り向いたその顔は、とっても真剣だったよ。
「葛西、大切な話があるんだ。」
「えっ、何?」
「この、1か月、葛西といると、本当に幸せだった。俺と、付き合ってくれないか。」
キャッ 翔也くんからの告白。いきなりビックリ。でも、返す言葉はただ一つ。
「私も、翔也くんのことが大好き。カレシになってください。」
「ほんと?」
コク 私は黙ってうなずいた
。「アリガトッ葛西。」そして、翔也くんは黙って私にキスをした。ファーストキスを。でも、一瞬だった。私は、持っていたバッグを落
としてしまった。そして翔也くんは、私のバッグを拾うと、こう言った。「バイバイ。葛西、また明日。」そう振り向いた彼の
顔は、涙で、キラキラ輝いていたんだ。
次の日、「オハヨッ。葛西。」翔也くんがちょっぴり照れた顔で私を見つめる。「おはよう。翔也くん。っていうか、それ、もうやめて。
『乃愛』でいいから。」「じゃあ、俺も。『翔也』って呼べ。」「わかった。」「俺も。」「ねえ翔也、ここわかんない。」「ああ、そこか、って、
乃愛、そんなこともわかんないのか。」「だって・・・・・・」「わかった、分かった。それはな、こうだぞ。」「サンキュ、翔也」
休み時間、「タッタッタ」「ノッエッル。」「キャッ、なんだびくった。美香か。何?」「なに?じゃないよ。なんで榎本君のこと、呼び捨
てなの?」「ウフ、だって、翔也の彼女になったんだもん。」「エーッ、乃愛、翔也くんの彼女なの?えっいつから?」「昨日から。」
「エーッ、ウッソー。みんなに自慢しちゃお。私の心友は、翔也くんと付き合ってまーすって。」「ああ、待ってよ美香。」そう言ったと
きには、すでに手遅れだった。「ああ、どうしよう。またいじめられる。」「ポン。」「えっ。」誰かの手が肩に乗った。クルッと振り返る
と、「アッ、翔也。」「大丈夫。俺が守ってやる。」「すごく心強い。ありがとう。」「それよりさ。今度の日曜、ステージワールドに行か
ない?」「えっ、でも部活が。」「部活は、休む。初デートだから。」「ほんと?うん、いく!」「よし、決まり!」『ステージワールド』って
ね、私達の町で、一番大きなテーマパークなんだ。デートスポットとしても有名なの。だから私、一度は、行ってみたかったんだ。
カレシとね。夢みたい。早速、家帰って、準備しよー。
「ガチャ。」「お母ーさーん。日曜、ステージワールドに行くから。」「えっ、誰と行くの?もう、年頃なんだから、大丈夫だとは思うけ
ど、知らない人に声かけられても、ついていっちゃだめよ。」「また始まった。お母さんの『ついて言っちゃダメよ台詞』は、小っちゃ
い時から何千回も聞いている。だから、お母さんは、嫌い。でもね、お父さんは大好きなんだ。おこづかいくれるし、やさしいし、い
っそお父さんと二人でくらしてもいいかも。でも、お母さんだから、なんか憎めないっていうか、大嫌いにはなれないって感じ。でも
、嫌いな理由はこれだけじゃないの。私、三つ下に友樹っていう、弟がいるんだけど、お母さんは友樹の方が好きみたい
。だって、友樹のことは、『ともちゃん』って、私はよびすてだし、お弁当だって、私より手がこんでるみたい。まあ、それも無理ない
かも。だって、友樹はスポーツならなんでもできる、スポーツ少年なんだもの。でも、友樹はなんか憎めない。弟だし、私、家では
『とも』って呼んでるし、それに何より、アイツは、翔也のこと、ソンケイしてるから。
日曜の朝、私、準備してたら翔也から、電話かかってきた。「はい、何、翔也?」「おれ、少し寝坊しちゃってさ。十時に、大道りで
待ち合わせでいい?」「うん。オッケー。でも、まだ八時半だよ。」「だって、今から、朝ご飯食べて、着替えて、準備するから、少し
遅れるんだ。いいだろ?」「うん、私も今から準備だから。じゃあね。」「おう、またな。」電話を切ると、友樹が起きてきた。
「あ、とも。おはよう。」
「ああ、おはよう。姉ちゃん。あれ、どっか、行くの?」
「うん、ちょっとね。ステージワールドにいくの。」
「えっ、だれと?」
「翔也と。」
「えっ、翔也って榎本翔也さんと?」
「そう。」
「えっ、なんでなんで、なんで姉ちゃんと翔也さんが。」
「『なんで』ありすぎ。」
「だから、なんでか聞いてんの。」
「だって、付き合ってるから。」
「えーっ、なんで姉ちゃんと翔也さんが付き合うんだよ!ねえねえ、何回目のデート?」
「今日が初。」
「いいなー。初デートかぁ。俺、付き合ったこともねえよ。まあ、せいぜい、楽しんで来いよ。」
「あんた、何歳の時の子よ。それに、よけいなお世話!でも、サンキュ。」
言い終わると、お母さんが出てきた。
「あら、ともちゃん、おはよう。朝ご飯、できてるから、早く食べちゃいなさい。」
「うん、わかった。」
「アッ、乃愛、待ち合わせいいの?」
「えっ。」
「だってさっき、電話で話してたでしょ。待ち合わせがなんやらかんやらって。」
「えーっ、聞いてたの?」
「ちょっと小耳にはさんだだけよ。」
「よけいなお世話!」
「だって、待ち合わせって大事よ。」
「もういいでしょ!それに、待ち合わせ、十時だし。大道りだから、そう遠くないでしょ。歩いて十分程度だから。」
「じゃあ、タイマーでもかけとけば。乃愛は忘れんぼだから。」
「お母さんは、一言よけいなの。でもいい案。アリガト、おかあさん。じゃあ、テレビ見ててもいい?」
「どうぞ。私は朝ご飯のかたづけがあるからあるから」
「ピピピ。ピピピ」「あっ、タイマーなった。じゃあ行ってきまーす。」私は玄関の扉を開けると、小走りで大道りに向かったよ。大道り
について、時計を見ると、まだ五分もある。小走りのつもりが速く走っちゃってたみたい。だって、翔也に早く会いたかったから。そ
の時、
「おーい、乃愛ー。」そこには、私に向かって走ってくる、翔也の姿が!
「ゴメン、遅れちゃって。待った?」
「ううん、全然。だってまだ五分もあるよ。」そういうと翔也は時計を見た。
「ほんとだ。まだ五分もあるじゃん。おれ、勘違いしてた。」
「ハハハ。」二人で笑っちゃった。
「乃愛、いこ。」そして、私は翔也と初めて手をつないだんだ。むねが『ドキドキ』ってなったよ。私、ドキドキしすぎてなにも話せな
かったから、翔也の方から話してくれた。
『次の日曜日にサッカーの試合があること。』翔也はね、高校入って、一人暮らしになったから、試合の時でも、応援してくれる人
、いなかったんだって。だから、今度の試合、応援にきてって。私、『絶対、行く。』って約束した。こんな話してたら、あっという間に
駅についちゃった。
「ピンポン、パンポン。まもなく、?番線が発車します。」
「やべ、早くいこ。」
「うん。」翔也と一緒に階段を駆け上がった。もちろん、手をつないだままで。「ダーーーーーーッ。」「プシューーッ。」
「よかったぁ、セーフだ。」
「あっ、あそこ、丁度二人空いてる。乃愛いこ。」
「ホント。とっといてくれたみたい。翔也、目、いいね。」って、大声で喋っちゃったみたい、電車に乗ってた人たち、みんな私に注目
しちゃって。私、真っ赤になって、しゅんってちいさくなっちゃった。すると翔也はね、わたしのほっぺたに人差し指をちょんってあて
て、
「つい、出しゃばっちゃう乃愛も好き。もう誰も見てないよ。それに、俺がついてる。何かあったら、守ってやる。」キュン。私、翔也
に、いちころです。男の子にこんな優しくされるの初めてだから。
「アリガト、じゃあ、身を任せちゃうね。」
「そろそろ、つくぞ。」
「まもなく、?駅に、到着します。」「ピー。」「ガタガタガタ。」
「わっ、今日もすごい人ごみだなあ。」
「私は、別にいいよ。だって、翔也の近くにいられるもん。」
「ぷっ、冗談か?」
「ちがうもん。」私は、ぷうっとふくれた。
「そういう、乃愛も好きだよ。」キューン。あなたの優しさは世界一だよ。一緒にいるだけで、幸せだもん。
「今日は、楽しかったなあ。」今日はね、翔也と一緒に、ジェットコースターとかお化け屋敷とか、楽しいところにいっぱい言ったよ。
「そうだな。今日は特別だから。」最後はね、私達の町が見下ろせる、一番見晴らしのいい丘に行ったよ。
そこでね、私、翔也に初めて、長いキスをもらったんだ。本当は短かったのかな。でも私には、とっても長く感じたんだ。
嬉しいことの次には、必ず嬉しいことが待っている、そんな気持ちで学校にいったら、すごくうれしいことが待っていたんだ。
「乃愛っ。」
「なあに、美香。嬉しそうな顔しちゃって。」
「だって、本当にうれしいことがあったんだもん。」
「えっ、なになに?」
「私ね、広翔の彼女になったんだ。」
「えーっ、広翔と!!席替えの時には、『最悪』なんていってたのにね。」
「ううん、ぜんぜん、『最悪』なんかじゃないよ。広翔ね、付き合ってみると、ちょーやさしいの。私、バレー部じゃん。試合の時に、
応援しにきてくれるの。優しいよね。」
「えーっ、あの広翔が。よっぽど美香に一目ぼれだったんだね。」
「ふふ、私も広翔のこと、少し、気になってたんだよね。」
「じゃあ、運命の二人だったんだ。最初っから。」
「やめて。乃愛、そんないいもんじゃないからさ。だいいち、乃愛だって、翔也くんとラブラブじゃない。」
「のせないでよ。美香。」
「のせてないよ。本当のこと行っただけだもん。」
「うそついてるくせにー。」
「うそじゃないって。あっ広翔だ。じゃあね乃愛、お幸せに。」そう言って、美香は広翔の方へ走って行った。
広翔はね、野球部に入っているの。うちの学校は野球の強豪校で、全国大会で準優勝したこともあるんだって。だから、うちの
学校に入る人、ほとんど野球目当てだったんだよね。でも、翔也がきてから、野球よりサッカーの方が強くなっちゃった。翔也は一
年生でレギュラー入りして、全国大会で準優勝、二年生でキャプテンになって、全国大会で優勝。いきなり、野球の強豪校の消印
を消されちゃって、野球部としては、翔也を憎らしく思っていると思う。でもね、野球部のエースの広翔と、サッカー部のキャプテン
の翔也は、元々は、とっても仲のいい心友同士だったんだよ。それに、種目は違うけど、二人ともよきライバルだったんだよね。だ
って広翔が野球の強豪校に行くっていったら、翔也、追いかけてきたぐらいだもの。自分の夢を捨ててまで、広翔の夢を応援した
かったんだと思う。でも、高校入って半年ぐらいたったころから、二人が犬猿の仲になっちゃったの。半年頃っていうと、サッカー部
が、全国大会で準優勝したころ。広翔、よっぽどショックだったんだと思う。
「おーい、乃愛ー。」
「あっ翔也。」
「タッタッタ。」
「待っててくれたの?」
「待ってたというより、探してた。一緒にかえろ。」
「うん。」こんなに、嬉しいこと続いたら、悪いことも、一つぐらいおこらないかな。
その数日後、本当に悪いことが起こるとは。数日後、うちのクラスに転校生がきた。これが、悪夢の始まりだった。
転校生の名前は、近藤美波。髪が長くて、背が高くて、ほっそりしているのが特徴。クラスの女子の中で一番
美人だと思う。でも、私や美香たちは、一番聞きたくない名前が耳に飛び込んできて、思わず耳をふさいだ。だってこいつは、私
達の中学校生活をメチャクチャにした女なんだから。こいつは美貌を使って、ことごとく、クラスメイトの好きな人や付き合っている
人を奪っては喜ぶような女だ。だから、実際にとられた人やその行いを知っている人は、絶対に好きな人を守ろうとするだろう。私
や美香もその一員だった。休み時間になると、私はすぐに美香のもとへ行った。
「美香、美香、何で美波がくるわけ?あいつはわたしらの追っかけなの?」
「ハハハ、何言ってんの?乃愛。でも、あいつが来たっていうことは気を付けないと。」
「私達も、彼氏とられちゃうかもしれないってこと?」
「そういうこと。ましてや翔也くんとか、広翔なんかは私たちと同じクラスだったから、とられる可能性は高いかも。」
「えーっ翔也は・・・・・・・とられたくない!!」
「じゃあ、精いっぱい守ることだね。そうすれば、もしとられても達成感があるじゃない。」美香にそう言われたけど、やっぱり翔也
は、私の者!!絶対にとられるもんか!!とは思うけど、どうやればいいのだろう?そうだ!あと十日でバレンタインデーじゃん。
よーし、張り切って手作りチョコ作るぞー。そう思ったとき、誰かに話しかけられた。嫌な予感がした。恐る恐る振り向くと。キャッ。
アイツだ。美波だ。
「こんにちは。乃愛さん。お・ひ・さ・し・ぶ・り。」そう言うと美波はあっちへ行った。すると美香が駆け寄ってきた。
「なにあれ、嫌な感じ。」すると翔也が来た。
「おい、乃愛。青柳。」
「あっ翔也。翔也くん。」
「なあ、近藤って確か、俺たちが中二の時に転入してきて、中三の初めにまた転校してった奴だよな。」
「そうそう。嫌な奴だったよね。美香。」
「うん、うん。」
「えっ、なんで?」
「ナイショー。」私と美香、同時に言ってた。
「ハハハハハ。」気づいたら、三人で笑ってた。
帰る時間になると、
「おーい、乃愛ー。帰るぞー。」
「はーい。待ってー。」みんなが羨ましそうに見てる中、一人だけ憎らしそうに見てるやつがいる。美波だ。
「翔也、美波には気をつけてね。」
「さっきも言ってたけど、なんでだ?乃愛。」
「さっきも言ったけど、ナイショ!!」
「ハハ、分かった。」 家に着いた。
「バイバイ、翔也。」
「また明日な、乃愛。」
「今日金曜だから、月曜だよ。」
「あ、そっか。じゃあな、月曜にまた。」
「うん。バイバーイ。」
「ガタ。」「ガチャ、ガチャ。」
「ただいまー。お母さーん。おやつはー?」
「テーブルのうえー。まず、きがえてらっしゃい。」あとから続いて、友樹も帰ってきた。
「ただいまー。おやつどこー。」
「もー、あんたたちは姉弟だねー。帰ってきたと思ったら、同じことを言う。最初に着替えちゃいなさい。ホント、もう。」
「まあまあ、いいだろ。元気な年頃だ。」ほらやっぱり、お父さんがお母さんをだまらせてくれる。うちのお母さんはうるさくて、少し
ドジなところがある。そのてん父はしっかり者だ。正反対の二人なのだ。
「あーっ、今日のおやつはようかんだー。私、ダーイスキ。」
「えーっ、姉ちゃん好きなの?おあれ、きらーい。」
「じゃあ、食べなくてよろしい!」台所から、お母さんの声がした。
「わかった、わかった。食べるよう。」友樹が泣きそうな声で言った。ふふ、かよわいやつめ。男のくせに。そう言って時々、友樹を
いじめる。でももう中学生。あまり相手にしてくれないんだ。はて、あいつはお母さんとお父さん、どっちに似たんだろう。まあそれ
は良しとして。アノことをお母さんに話そう。
「お母さーん。バレンタインのチョコ、一緒に作ってー。ついでにやり方も教えてねー。」
「ハーイ、ハイ。わかったわよー。でも、バレンタイン、再来週の月曜日よ。今準備しなくても。」
「いーの!!私は早く作りたいの!!」
「はは、さては姉ちゃん。翔也さんにバレンタインチョコあげる気だろう?だんだんしゃれっ気が出てきたな。」
「おまえ、何歳の時の子だ?」私はあきれた。
「そんなくだらない言い合いしてないで、乃愛、インターネットで、何作るか決めておいてね。丁度お母さん、明日買い物行くから。
今日のうちに決めといて。乃愛がスイミング言ってる間に買っちゃうからさ。」
「うん、分かった。じゃあお父さん。パソコン貸して。」
「おう。でも、ちゃんと電源切って返すんだぞ。」
「わかってるって。」「ピポパポ。」
「あーった。これかわいくない?」
「どれどれ。」すると友樹が来た。
「あ、とも。お母さん呼んだんだけど。」
「お母さん来たよ。」
「どれどれ、もっとよく見せて。」
「あら、可愛いじゃない。これにする?」
「うん!!」
「じゃあ、買ってくるから。この紙に材料かいといて。あ、言っとくけど、三人分だからね。」毎年、友樹とお父さんには、バレンタイン
チョコあげてるんだ。
翌日、あっ、スイミングに行く時間だ。そろそろ美香が迎えに来るんだけどなー。すると玄関の方から、
「おーい、乃愛ー、いーくーよー。」私は、今いくよー。とすぐにカバンを持って、玄関の方へ急いだ。
「タッタッタ。」
「ゴメンねー、美香。玄関で待ってればよかったね。」
「ううん、いつものことだし。もうなれっこ。」美香はいたずらっぽくウインクした。
「何よそれー。私に対してのイヤミー?」
「ちがう、ちがう。ほら乃愛、早くいかないと遅れるよ。」
「よーし、スイミングまで競走だ!!」私は走り出した。
「あっズルーい、乃愛。」美香が追いかけてきた。競走したらあっという間に。っていうか予定より早くついちゃった。そしたら美香
が、
「もー、乃愛のせいで。予定より早くついちゃったし、全速力で走ったから、体力使い果たしちゃった。もう、スイミングで泳げなかっ
たら、乃愛のせいだからね。」
「はあ?それは筋違いでしょ!」
「おーい、乃愛ー。」この人は、貞方七海。通称『ナナ』。中学の時の同クラで、同じスイミングスクールに通う仲
間。級は私と一緒で、ある意味よきライバル。
「あれーナナ、真里菜は?」美香が聞いた。
「え、もうすぐ来るはずだけどー。あっ、ほらきた。」
「おーい、ナナー。」
「もうナナったら、どうして先に行っちゃうの?」
「だって真里菜、遅いんだもん。」
「待っててくれたっていいじゃない。もうっ。」
「はい、はい。ごめんなさい。」
「わかればいいの、分かれば。」この人は、鈴木真里菜。ナナと同じで、中学の時の同クラ。スイミングスクールに
通う仲間。級は美香と一緒。だけど、真里菜は美香をライバル視してないみたい。それが美香にはたまらなくショックみたい。
「ねえねえ、乃愛たち。」
「なあに、真里菜。」
「今日ってさ、テストじゃん。乃愛たち、受かる自信ある?」
「えー、正直、ないよねえ。」
「うんうん。」美香とナナが同時にうなずいた。でも、最後にナナが付け足した。
「でも私、絶対、乃愛には負けないから!」
「ちょっとー、それはこっちのセリフですよー。」
スイミングが終わった。美香たちにテストの結果、聞いてみた。
「あっ、美香、真里菜。」
「あっ、なあに、乃愛。」
「どうだった?テスト受かった?私とナナは二人そろって、一歩前進!これで美香たちに近づけたぞお。」
「いいなー、私と真里菜は仲良くそろって落ちちゃったよ。」
すると、
「乃愛ー、帰るわよー。」
「あっお母さんだ。じゃあね、みんな。」
「うん、また来週ね。」私はお母さんの方へ走った。走って思った。『あれ、私、お母さんのこと、あまり嫌いじゃないかも。そっか、
あれは、反抗期なだけだったんだ』そう思うと、無性に嬉しかった。お母さんを嫌いにならなくて済むことが。そしたら、お母さんが
「なあに、嬉しそうな顔しちゃって。なんかいいことでもあった?」私は慌てて答えた。
「あっううん。なんでもない。」
「そう?買ってきたわよ。材料。帰ったら、一緒に作ろうね。」そう語りかけたお母さんの笑顔は、いつもより何倍もあたたかく感じ
られたんだ。
「うん!」
家に帰ると、友樹とお父さんが待っていた。
「ただいまー。」
「おかえりー、姉ちゃん。おかえり、母さん。」
「さあ、乃愛作ろうか。あっ、そういえば、週末は、たくさん宿題があるんじゃなかったの?」 ギクッ
「えっ、お母さん、なんでそれ知ってんの?」
「乃愛迎えに行く途中に美香ちゃんのお母さんに会ったのよ。週末は宿題がたくさん出てるって。土曜日分、終わらせちゃいなさ
い。」
「はーい。」
私は自分の机に座って考えた。『なんか、嫌な予感がする。美波が来たことより、もっと恐ろしいことが。』
次の日は日曜日、私、いつもより三十分早く起きたの。えっなぜかって。だって、お母さんが、目覚ましを三十分早くセットしとい
たから。おかげで、寝そびれちゃった。三十分だけだけどね。お母さんに抗議しよう。
「お母さん!!」
「なあに?」
「『なあに』じゃないよ。なんで目覚ましが三十分早かったの?」
「ああ、それはね・・・・・・」
「うんうん。」
「今日出かけるからよ。」
「ええっ、どこに?」
「おばあちゃんち。」
「うっそー、やったー。」おばあちゃんはね、パパのお母さんで、パパ以上に優しいんだ。
「えっでも今日一日だけ?おばあちゃんち、山形だよ。ここ、愛知からだと結構かかるよ。いつも泊りがけでおばあちゃんちに泊っ
てるじゃない!」
「ばかだねえ。」
「えっ、あっ、そっか。月曜も火曜も祝日だ。」
「そういうこと。」
「やったー。おばあちゃんちに二泊できるなんて。」
「ほらほら、わかったら早く準備しなさい。ともちゃんはもう準備してるわよ。」
「お母さん!」
「あらともちゃん。支度できた?」
「できた!ってか、おれもう中二だよ。そろそろその、『ともちゃん』っていう言い方やめてくんない?『友樹』でいいから。姉ちゃんも
『とも』はやめて。子供みたいで恥ずかしいから。」
「えーっ、とも、子供じゃん。」
「そういう、理屈はいいの!とにかく、友樹でいい!」
「じゃあわかった。ともはやめて、友樹にするから。」
「本当にわかったー?母さんは?」
「わかった。」
「よかったー。」すると、
「ピーンポーン、ピーンポーン。」チャイムが忙しく鳴った。お母さんがインターホンの画面を見に行くと、
「あら、美香ちゃんよ。青い顔してたってるわ。急いでるみたい。」
「えっ」二度目の嫌な予感がした。すぐに玄関へ走った。「ガタン」
「どうしたの?美香。」美香が青い顔をしてこういった。
「ま、真里菜が、真里菜が。」
「真里菜がどうかしたの?美香。」
「こっ、交通事故で。」
「えっ、交通事故!」奥から友樹とお母さんが出てきた。
「車にひかれて。」
「真里菜ちゃんは、真里菜ちゃんは大丈夫なの?」
「あっ乃愛のお母さん。今、集中治療室に入ってる。今手術中。」
「乃愛、行ってあげなさい。お友達でしょう。」
「うん!」
「おばあちゃんちは今度にしましょう。」
「うん。」
「乃愛、いこ。おじゃましましたー。」私達は走った。
「美香、どこの病院?近くなの?」
「『愛知中央総合病院』」
「えっもう着いたよ。」 愛知中央総合病院は、ここ、愛知県で一番大きな病院なの。
集中治療室の前には、ナナと真里菜の両親が座ってた。
「ナナーー。」
「あっ乃愛。」ナナがなみだごえで言った。
「こんにちは。真里菜のお母さん、お父さん。真里菜のようだいは。」
「あっ乃愛ちゃん。来てくれたのね。真里菜は、今は危険な状態だと。」
「そんな、昨日はあんなに元気だったのに。」
「ええ」
「パッ」ライトが消えた。
「ガーッ」ドアが開いてドクターとベットに乗せられた、真里菜が出てきた。
「先生!娘は、真里菜はどうなんですか?」ドクターはがっかりしたような目で黙って首を振った。
「ガタ」奥さんが倒れた。私の目から涙が流れてきた。
数時間後、お母さんが友樹と一緒に迎えに来た。
「どうだった?真里菜ちゃんは?」私はドクターのまねをして、黙って首を振った。
「そ、そんな。」
「駄目だったの?真里菜さん。」
「駄目だった。もう手遅れだった。」
真里菜の葬儀が終わっても、私は元気が出なかった。美香は、あんなに立ち直っているのに。でも、お母さんのあの言葉に救
われた。
「乃愛、真里菜ちゃんは、乃愛がこんなんで喜ぶかな。真里菜ちゃんに、生きるってこんなに楽しいよって見せてあげな。真里菜
ちゃんの分まで、楽しいこといっぱいやってあげな。真里菜ちゃんが天国で笑いかけてくれるから。」
「ううっああー。」私はお母さんの胸に飛び込んだ。今まで我慢していたことが全部出てきたみたいに。でも、いっぱい泣いたら、た
まってたもやもやが全部流されたみたいに、スッキリしたの。その次の日から私、別人みたいに立ち直ったの。でも時々、食欲が
あまりでなくなる時がある。死んだ真里菜のことを考えてるとき。」それにお母さんが気づいて、
「ほら乃愛、手、止まってるよ。また真里菜ちゃんのこと考えてるの?『災い転じて福となす』悪いことがあった後には楽しいことも
まっているから。それを信じて頑張りな。」
「でもお母さん、『二度あることは三度ある』ともいうよ。本当に三度目の悪いこと、起こるかも。」私は反論した。
「理屈はいいの!」
「だって・・・・・・」
「ほら、早く食べちゃいな。」
「姉ちゃん、俺なんてごはん二杯目完食!」
「友樹はすごすぎるの!」そういって私は食べ始めた。しばらくして、
「ごちそうさま。」
「ほら、食べられたじゃない。洗い物終わったらチョコ作ろう。乃愛。」
「ああ、うん!」久しぶりに私の顔に笑みが戻った。それを見て、友樹もお母さんも、お父さんも、ほっとしたような顔をした。
「よーし、終わったー。乃愛、作るよ。」
「お母さん、材料の準備完了!」
「偉い!乃愛、準備ばんたんだね。乃愛のおかげですぐ作れるよ。ありがとう。」しばらくして、
「チーーン。」
「はい乃愛、チョコづくりおーわり。あとはラッピングするだけ。」 ああーバレンタイン楽しみだなあ。でも、翔也はこの頃、部活、部
活で全然一緒にいてくれない。だからもらってくれるか心配。」
そしてとうとうバレンタインの日、私はさりげなく翔也に話しかけた。
「ねえ翔也。」
「んん?」
「今日の放課後体育館うらに来て。大事なこと、話すから。」
「えっ」でも私は、それ以上何も言わなかった。なるべく普通に接した。
「はあはあ」 どうしよう。居残りで遅れちゃった。あっ翔也。あれ、誰かいる。あっ美波だ。
「しょ。」言えたのはそれだけだった。なぜかというと、翔也と美波がキスするところを見てしまったから。そのとたん、チョコも落っこ
とした。その音に気づいて、翔也がこっちを向いた。
「あっ乃」私は走り去った。もういい。美波なんて大嫌い。私は泣きながら玄関のドアを開けた。
「ガタン」すると、お母さんと友樹が駆け寄ってきた。
「どうしたの?姉ちゃん。」
「どうしたの?乃愛。」私は黙って階段を駆け上がって自分の部屋に飛び込んだ。私は泣きじゃくった。やっと落ち着いた時にはも
う夜中だった。でも、朝起きたのは誰よりも早かった。全然寝れなかったからだ。朝イチで起きて椅子に座っていると、チャイムが
鳴った。お母さんを起こそうと思ったが、ぐっすり寝てたので私が出ることにした。
「ハーイ。アッ」そこに立っていたのは翔也だった。
「しょ、翔也。」
「乃愛、昨日は。あれは・・・・・」
「もういい。言い訳なんて聞きたくない!!」
「バタン。」私は勢いよくドアを閉めた。
ふと考えてみると、翔也は何にも悪くないかも。なのに私、八つ当たりしてたんだ。だって翔也は、簡単に人にキスするような人
じゃないもん。なのに私、理由も聞かずに強く当たってた。最低だ。翔也に本当のこと聞こう。
私はドアを開けると一目散に翔也の家に走った。
「ピンポン、ピンポン。」
「はい、榎本ですけど。」うつむいた顔で出てきた。
「翔也」 私の顔を見ると驚いた様子で
「乃愛。」
「翔也。翔也と美波がどんな関係か聞かずに勝手に先走って八つ当たりしてた。本当にゴメンね。」
「おれもゴメン。おれ、勝手に勘違いしてたんだ。
「えっ」
「昨日の放課後、乃愛待ってたら近藤が来たんだ。乃愛はどうしてるかってきいたら、『居残りで勉強だから代わりに私が伝えに
来た。』って。」
「それから?」
「その話はなんなのかって聞いたら、『乃愛ちゃん、もう翔也くんのこと好きじゃないよ。翔也くん、このごろ部活、部活で全然一緒
にいられないから、もう乃愛ちゃんは翔也くんのこと好きじゃないってさ。』って言われたんだ。そのあと近藤が、『乃愛ちゃんに振
られたんなら、私と付き合って。』って言ってきたんだ。おれどうかしてて、トラウマだったんだな。その要望に応えちまったんだよ。
バカだよな、おれ。そしたら、近藤がキスしようとしてきたんだよ。あわててそれとめようと思ったら、乃愛が来たんだ。事情説明し
ようと思ったら、逃げちゃってさ。おれ、追いかけたんだ。でも、これ以上は追いかけちゃいけない気がして。」
「ゴメンね、翔也。」
「いいんだ。おれもだから。乃愛に大事な話があるって言われて別れの話かと思って。でも思った。」
「えっ」
「おれは乃愛のことしか愛していない。ほかのやつらなんかどうでもいいんだ。」
「翔也。ウエーン。」私は泣きながら翔也の胸に飛び込んだ。翔也は黙って微笑んだ。そしてこう言った。
「ほらほら、そろそろお母さんたちが起きてくるぞ。もう帰った方がいい。」翔也と離れるのはさびしがったけど、今日一緒に登校す
るって約束したから、帰ることにした。
「ガタン」
「ただいま」
「あら乃愛、どこ行ってたの?」
「翔也のとこ。」私はそれ以上何も言わなかった。お母さんもわかったらしくてそれ以上追及しなかった。すると友樹が起きてきた。
「ああ、おはよう。あれ、姉ちゃん、バカに早いね。」
「失礼ね!」それから朝ご飯を食べ、
「いってきまーす。翔也待ってるからー」
「ハイハイ、慌てないでよー。ほら、友樹も早くいきなさい。」
「わかったよ、姉ちゃんまって。」
「ヤダヨ、もう行ってきまーす。」「ガタン」
「ああ、もう、けち。」私は翔也の家へ走った。
「翔也ー。」翔也は軽く片手をあげた。
「お待たせ。」 ギュ 手をつないだ。翔也の手のぬくもりはピカイチだった。
そんなこんなで、美波はもう嫌がらせをしなくなった。っていうか、また高二の終わりに転校してった。風が吹いたように突然いな
くなった。
そして、クラス替えをして、私達は三年生になった。クラス替えで、私と美香と翔也は、また同じクラスになった。でも、美香のカレ
シの広翔は隣のクラスになった。美香はガッカリしていたけどとても楽しい毎日が続いたよ。三年になって一か月、やっと新しいク
ラスメイトにも慣れてきた。そろそろ志望校を決め、受験勉強を始めなければ。偶然にも、私と美香と翔也は同じ大学を志望校に
した。受験勉強で、私、美香、翔也はめったに遊ばなくなった。でも私、家で勉強するのは苦じゃない。だってうるさくないから。な
ぜかって。それはね、友樹も高校受験で勉強してるから。友樹の志望校は、今、私達が通ってる高校。友樹は、マジで翔也のこと
ソンケイしてるみたい。でも時々、勉強がはかどると、三人で出かけたりする。でも本当に時々。三か月に一回ぐらい。
そして、合格発表の日、私達三人はお母さんの車で大学へ向かった。着くとバラバラになり、自分の番号を探した。私は328、美
香は212、翔也は555。
「私のは、えーっと。」お母さんも一緒に探してくれた。
「328、328・・・・。あーった!328。やったー。」私はお母さんとしっかり抱き合った。するとそこに、
「おーい。」
「乃愛、受かった?私と翔也くん、受かったよ。」
「ほんと?やったー。」今度は三人でしっかりと抱き合ったよ。やっと顔を上げた私たちの目には、うれし涙がキラキラ光っていたん
だ。
それから二年後、私達は充実した大学生活を送っています。そして今、私は翔也と、翔也からあのキスをもらった丘にいます。
二人きりで。何か大切な話があるみたい。
「なあ、乃愛。」
「なあに、翔也。」
「大事な話、聞いてくれるか?」急に真剣な顔になった。それは、翔也に告白された、高2の夏のあの顔にそっくりだった。
「うん。なあに。」
「この四年間、乃愛といるだけで、幸せになれた。もう乃愛を手放したくない。オレと結婚してくれないか。」
「はい、よろしくお願いします。」
それから二年後、
「キャーかわいー。乃愛、チョーかわいいね。」
「ほんと?ありがとう。美香。」私は大学を卒業すると同時に翔也と結婚した。
それから四年後、
「ママー。」今は子供が三人いるの。
長男 育人 四歳
長女 愛子 三歳
次女 愛希 一歳
私達、出かけるときはいつも手をつないでいるの。もちろん私は、愛する子供と愛する夫と一緒に。ずっと、手、つないでようね。
(お・わ・り)