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第伍歩・大災害+61Days 其の肆

 前回からの引き続きで、櫻華様の御作『天照の巫女』http://ncode.syosetu.com/n0622ce/7/、とのコラボとなっております。

 おりますが、レオ丸の台詞は大幅にリニューアルさせて戴いており、会話の状況にも変更をさせて戴いております。

 全て、拙著の都合でありますので、何卒御容赦のほどを。

 事実誤認箇所を訂正致しました(2015.10.08)。

 挨拶の後、言葉少なく前置きをするや否や、朝霧は多弁に語り始めた。

 <大災害>直後の事。

 混乱、惑乱、麻痺、周章狼狽、右往左往、星雲状態、カオス化など表現する言葉に困らないほどのパニック、ヒステリー、恐慌状態だった事。

 <円卓会議>発足に至る様々な事情。

 混迷を極めたアキバの町が沈静化するにつれ、事態は猥雑と錯綜に二分化されてしまった事。

 無統制ではあったが、事変や擾乱にならなかったのは偏に、幾つもの大規模ギルドがアキバの街にいた冒険者達全体の約半数を掌握していたからだ、と。

 凡そ二人に一人が冷静ならば、群集は騒乱も暴動も起す事はない。

 事態の沈静化ではなく、最悪よりは幾分マシな状態で膠着した、冒険者の街。

 やがて、一人の人物が一つの切欠をもって無秩序から“無”の一字を排除、具体的に言えば、武力を伴った策略で道筋を整え果断に必要然るべき処置をした事。

 そして。

 朝霧は指揮するギルド、<放蕩者の記録(デボーチェリ・ログ)>が<大災害>後の混迷の収束と、秩序確立に際し影働きをした事。

 其れら一連の全てを包み隠さずに、朝霧は念話で伝える。


 流石は<天照の巫女>やら<緋巫女御前>、……<女帝>さんやねぇ。


 感情的ではない平易な口調、まるで業務報告のように朝霧が語り終えたタイミングを見計らい、聞き役に徹していたレオ丸は声を発した。


「いつもの事ながら丁寧なる形にて……情報を御開陳賜り、誠に恐悦至極。

 ほな今度は此方から、<大災害>直後にお話しさせてもろうた事以降のアレやコレを話させてもらいますわな。

 ……って言いたいんですけど、御免やで御前さん」


 駆け続ける、<獅子女(スフィンクス)>に騎乗するレオ丸は背筋を伸ばし、意識した声音で申し述べる。


「今、とあるクエストの最中ですねん、ホンマ誠に申し訳ない。

 夕方には終了しますよってに、其の頃に此方から改めて連絡させてもらいます」


 朝霧から不躾な事をと謝罪の言葉、併せて申し出に対し了承の旨を受け取ったレオ丸は、重ねてお詫びの辞を述べてから念話を切った。


「さてさて……どないな風の吹き回しやろうか?」


 元の姿勢に、アヤカOの鬣に身を沈めながら、思索に耽り出すレオ丸。

 今から凡そ二ヶ月前、<エルダー・テイル>がゲームではなくなった事象に対処するべく情報収集に励んでいた時に念話をして以来、久方振りに耳にした声の調子は、先に聞いた時と全く変わりはなかった。

 其れがレオ丸には、当然とも思え、不審に感じられる。

 朝霧の言を信じるならば、恐らく真実であろうとレオ丸は確信しているが、数少ない<エルダー・テイル>草創期からの生き残りである冒険者(プレイヤー)は、何一つ変心してはいないようだった。

 レオ丸よりも年長である、人生の熟練者(ベテラン)であるからには其れが当たり前だと言えるし、ギルマスとしてはギルメン達を守る立場としても、共に<大災害>に巻き込まれた息子を守る母親としても、心や方針のスタンスを変えてはいけない。

 だが、守るべきものを守るためには、臨機応変でなければならない事も事実だ。

 恐らくは、とレオ丸は考える。

 朝霧は守るべきものを守るために、己ではなく、事態の方を変えようと努力しているのだろうと。

 故に、約二ヶ月の空白を越えて、朝霧の方から連絡を取って来た理由は何だろうかが、レオ丸には判らなかったのだ。

 判らないからといって、判らぬままに会話を続けて良い訳がない。

 其れでは、朝霧は念話をかけた甲斐がなく、レオ丸は望まぬ醜態を晒してしまう。

 “マラカイボの篝火”とも称される、ベネズエラのカタトゥンボ川における落雷現象を無防備に直近観察する愚行をするが如くに。

 どちらにも不利益な行為と陥る可能性が高い、そう咄嗟に判断した故にレオ丸は念話を一方的に切り上げたのだった。

 では、会話を再開する前に、誰に問いを投げかければ、判らない事が判るのだろうか?


「下手な鉄砲でも乱射したったら、敵か味方か当たるやろうし、鴉はしくじっても鳩がオリーブを一枝届けてくれるやもしれへんし、な。

 ……ミスハさん!」


 レオ丸が空を仰ぎ呼びかけるや、上空から舞い降りて来た<鷲獅子(グリフォン)>が、速やかに翼を折り畳み、スフィンクスに並び走り出す。


「ちょいと教えて欲しいんやけど」

「何でしょう?」

「<Plant hwyaden>……濡羽とか、インティクスとか、ゼルデュスとかって、今は何を画策して何をしとるんやろうか?」

“爛れた御花畑”(濡羽)が何を考えているのかは、正直判りかねます。

 あの女は、言うなれば……御神輿ですから。

 担がれた御神体の坐します虚ろな世界と、担ぐ氏子達の(うつつ)の世界は、密着していても重なってなんかいませんからね」

「ああ……」

“鳥頭(インティクス)”の考える事などは精々、鶉の卵レベルでしょう。

 本人は、駝鳥の卵と勘違いをしているでしょうけどね。

 高見から鳥瞰すれば、個々を正確に認識する事が出来ていないのに全体を把握していると思い込み、地に降りれば、目先のミミズに気を奪われて直ぐ傍に鎌首をもたげた蛇が居たとて気づきゃしないでしょう」

「けけけ……容赦ないなー」

“舟編む者(ゼルデュス)”に関しては、私より法師の方がご存知でしょう?」

「まぁなぁ。常に新しい情報(オモチャ)に意識の大半を奉げてしもうて、最新の事象と一般的な事情には疎くなる、顕微鏡と望遠鏡だけで全てを見渡して、視覚矯正眼鏡を何処かに置き忘れた生活に勤しむ学究人間、やなぁ」

「法師こそ、酷い言い草ですね」

「……ってぇ事は。なーんかしとるとしたら、インティクスのお嬢ちゃんかなぁ?」

「どうかされたんですか?」

「ミスハさんは、朝霧って人を知ってる?」

「確か……<D.D.D>の幹部だったのでは?」

「<D.D.D>はとっくに辞めて、別のギルドを立ち上げてはるんやけどね」

「アキバの事情には疎いもので……」

「事情に疎い者にも名前が知られている、そんな有名人さんから連絡があっったんや」

「へぇ?」

「アキバに住んではる御人が、態々とワシに連絡してくる理由は何やと思う?」

「其れは……ミナミの、<Plant hwyaden>についての最新情報、……なるほど」

「って事やねん」

「了解致しました。何か判りましたら、お伝え致します」

「おおきに、ミスハさん。ワシの方も、何か判ったらお知らせするわな……アキバの事も、他の地域の事も」

「はい、宜しく。……では」


 ミスハが両膝に力を入れると、グリフォンは二、三度羽ばたいてから地面を蹴り、再び大空の住人となった。


「さて……次は、と」


 フレンドリストを展開し、次々と名前をタップするレオ丸。


「あ、もしもし、ユーリアス君」

「へろーモフモフ、カズミちゃん」

「毎度! 其の後は如何お過ごしやね、赤羽学士」

「よう、プロフェッサー・エルヴィン、今ちょいとエエかな?」

「御機嫌如何かな、ユウタ君」

「おっすモフモフ! タケヒコ君?」

「ああ、ナーサリー氏、御無沙汰」

「お久し振りやね、桜童子にゃあの大将」

「はいほーモフモフ、リエちゃん♪」

「やぁやぁ、どうも、キリー女史。rei君は元気かい?」

「息災にしとるかい、ヘルメスちゃんよ」

「あー、えーっと、……やぁ、サナエさん」

「うぃーっす、バイカル師。どないしてるん?」


 更に何人かの友人達と、会話と対話と質問と報告とを重ねる。

 そして、レオ丸に取っては喜ばしくない、実に不都合な事実が判明した。


「ミスハさんはインティクスのお嬢ちゃんを、散々っぱら扱き下ろしてやったけど。

 ……ワシらも他人の事は言えへんな。

 知恵の実を齧って、分別盛りの明晰で利発な人間になった気がしてたが……よう見たら齧ってたんは虫食いだらけの青柿やんか。

 二分の一の世界(ハーフ・ガイア)では、ワシらは八分の一人間やなぁ……」


 各人が語った断片的な情報と、僅かに臭わせたニュアンスや微かに言い澱んだ言葉とを重ね合わせて組み合わせれば、見えない事が朧気ながらも見えてくる。


 アキバの街に安定をもたらした<円卓会議>、其の運営に携わっているギルドの一つである<ロデリック商会>、通称<ロデ研>に所属しているカズミ、タケヒコ、リエの三人。

 同じく<円卓会議>を構成するギルドである<黒剣騎士団>で事務方の準幹部を務めているキリー。

 彼ら四人が語る現在のアキバの街は、活気に満ち溢れていて毎日がてんてこ舞いである、だった。

 ヘルメスは、アキバが不穏な時期にあった不幸な行き違いにより大手ギルドを離脱した友人達と共に、現在はソロで活動をしているとの事。

 私がついていないと危なっかしいから♪ と、語った其の声には陰も鬱も何一つ、欠片すら存在していない。

 つまりアキバは、実に平穏極まりないようである。


 東日本の彼方此方を探訪しているナーサリーは、世界の美麗と驚異を歌うように賞賛したが、特定の違和感や危機感を述べる事はなかった。


 ニオの水海の傍で暮らす赤羽玄翁も、特段な変化はないと伝え、共に過ごす樹里・グリーンフィンガース達も息災との事だ。


 他の者達と同様に、エルヴィンも格別な情報を口にする事はなかった。

 但し彼の場合は、眉に唾をつけた上で疑問符つきの情報としておかねばならないと、レオ丸は思う。

 エルヴィンが席を置くギルド、<月光(キアーロ・ディ・ルナ)>は実に統制の取れた組織である。

 先の海戦時のように、極稀に跳ね返りが勝手な行動をする事があるにしても、情報と言う高価で莫大な宝を扱う際には、所属する全てのメンバーが細心の注意を払い行動する。絶対に粗雑には扱わない。

 ギルドのトップに君臨する、ユストゥスが其れを許さないからだ。

 故に、何かを知っていたとしても、其の情報に見合う以上の対価がなければ、ほんの些細な事すら漏らす事などないだろう。

 払うべき対価が如何ほどになるかを想像した結果、レオ丸は赤字になりそうだと思い其れ以上の言葉を重ねなかった。


 九州地域、ナインテイル自治領を活動拠点にしている<工房ハノハナ>のギルマスである桜童子にゃあ、ギルドに属さず優雅に自活しているバイカルの二人は、正反対の事をレオ丸に伝えた。

 片や、未だ混乱の続くナカスの現状を嘆き、片や、交流すればするほどに大地人が如何に人間的かを胴間声で賞賛する。


 レオ丸に大きなヒントを与えてくれたのは、ユーリアスが何気なく漏らした安堵と、ユウタが曖昧に濁した懸念と、サナエが言わずもがなに口にした不満であった。


 曰く、「ミナミからの圧力が、最近は多少マシになった気がします」

 曰く、「……そうですねぇ、以前よりも賑やかになりそうですね」

 曰く、「何だか急がしそうで、遊んでくれなくてさぁ!」


 レオ丸は推察する。

 <Plant hwyaden>は現在、多方面作戦を実施中。

 山陰道を進攻する西部方面を担当しているのは、猛将ナカルナード。

 だが、桜童子にゃあやバイカルの言によるならば、<Plant hwyaden>の軍勢は関門海峡を越えるまでには到っていない。

 ゼルデュスは、北陸道の安定化と金蔵たるオーディアとの交渉に精力を傾けており、他所に眼を向ける余裕はなさそうだ。

 では、インティクスは?

 未だ近畿圏の端で過ごして居るユーリアス達、反ミナミのギルドが見過ごされている点に注視すれば、インティクスの視線は足元にはないように、レオ丸には思える。


 果たして何処を見ているんやろうか? ……少なくとも、いつでも手が届く範囲は後回しにしてもエエって考えてるんかな?

 遠征中の筋肉馬鹿(ナカルナード)や出張中の陰険青瓢箪(ゼルデュス)にばかり点数を稼がせては、上位者としての立場がなくなるやろうし。


 レオ丸は思考する。

 ユウタの台詞と、念話の最中に聞こえて来たBGMにしては五月蝿過ぎた喧騒。

 彼の所属するギルドは、何か大掛かりな事をしているようだ。

 サナエが口にした愚痴の対象は、朝霧。

 画期的なゲームであった<エルダー・テイル>が、発売されるよりもずっと前からの付き合いであるサナエとの交友をお座成りにしてまで、何かをなそうとしている。

 朝霧は<大災害>が発生してから、其の存在感を意図的に消して影の住人となり、表沙汰にしては不利益が発生しそうな事態の解決に尽力しているらしい。

 各人からの言を集約した結果、レオ丸の思案が浮かび上がらせた地名は、ヤマトサーバにおける五番目の“冒険者の街(プレイヤーズタウン)”。

 即ち、シブヤ、であった。

 ミナミを手中にした<Plant hwyaden>は、落ちてくる熟柿を受け止めるように何れは、ナカスを手に入れるだろう。

 二つ目は急ぐ必要もなければ、入念な下拵えをする必要などない。

 切り株の後ろでボサッとしていても、勝手にウサギのほうから打つかって来てくれるのだから。

 では、<Plant hwyaden>は何が欲しければ、綿密な段取りを組み、緻密な計画を立てるのだろうか?

 少なくとも胸を張って自負出来るくらいの準備をしなければ、手が届かぬモノをインティクスは求めようとしているのだろうか?

 レオ丸の頭の中にあるスクリーンに、黒く禍々しい手がシブヤを握り潰そうとする映像が、ノイズ混じりで流れる。

 さて、其処で肝心な事は。

 シブヤで起こりえる事態に対して、朝霧がレオ丸に求める事は何か? だ。

 <Plant hwyaden>に関する詳細な情報。

 具体的に言えば、<Plant hwyaden>の実務を司る三人の有力者、インティクスとゼルデュスとナカルナードについてのアレコレ。

 朝霧が持つ様々な(つて)を使えば、彼らがどのような性能を有しているかは判るだろうし、既に知りえているに違いない。

 でも其れは表層的なモノで、深層的な部分には辿り着いてはいないだろう。

 此の三人の性格を含め、<Plant hwyaden>に関する最新の第一次情報に接していながら、ミナミの枢要から最も距離が遠い人物。

 其れは、レオ丸ただ一人だ。


「……つまりは、そーゆー事なんかな?」

「何がどういう事なんです?」

「其れはアレや、ってアレ? ……何で此処に居るん、テイルザーン君?」

「え? いや、俺は持ち場を変えてませんよ。法師が列のドベに来られただけで」

「ありゃ」

「済みません、主様。御身の思索を阻害してはと思い、我が身の独断にて速度を緩めさせて戴きました」


 頭を下げる契約従者に、虚を突かれた契約主は間抜け顔となり、序で其れを破顔一笑させる。


「どや、テイルザーン君。ワシの家族(ファミリア)は明敏な上に、気配りの出来るホンマに賢い乙女やろう?」

「全くですね。……誰に似たんですかね?」

「誰やろうね? ……少なくとも“ワシや!”って言うほどに、ワシは厚顔無恥やあらへんで。強いて言うたら……」

「言うたら?」

「モンスターはワシらと違って、純粋な心根の持ち主で気持ちの良い存在なんやろうな、マジで。

 昔話に登場する赤鬼も青鬼も、グリム童話のルンペルシュティルツヒェンも、ジャック・オー・ランタンに騙され捲った悪魔も。

 昔から、悪や邪とされた者達の性根は、真っ直ぐみたいやねん。

 其れ故に、お(まじな)いの常識としてな、悪や邪を避けるには“曲がり角”を用意するのが有効ってされとるんよ」

「へぇー」

「貪欲や執着で猛る溢水と、憤怒や瞋恚で盛る業火とに挟まれた曲りくねった道でも、平気の平左で歩けるワシらの方が、此の世では最も“邪悪なる存在”なんやもしれへんね?」

「なるほど……其れより、法師」

「はいな」

「もう直ぐ到着ですよ」


 午後の太陽が夕日に変わるには、かなり余裕のある時刻。

 レオ丸一行は無事に、ヨコハマの街へと到着した。



「大休止!」


 ヨコハマの町に入って直ぐの広場で、テイルザーンが号令をかけるや、全員が一斉に下馬する。


「此処までくれば先ず先ずは安全圏とは言えるけど、此処からアキバまでの行程が絶対安全圏かどうかは、正直判らん。

 冒険者だけで行動するなら兎も角、保護対象を護衛しながら陽のある内に、目的地(アキバ)まで到着する自信もないしな」

「『藁の楯』ごっこは、嫌だなぁ」

「『16ブロック』ごっこも、ですね」


 虎千代THEミュラーと遼河春姫の軽口の遣り取りに、テイルザーンは盛大に顔を顰めて嘆息した。


「俺の前で、縁起でもない冗談は止めてくれ。其れに俺達が護っているのは、犯罪者じゃねぇしな」


 大地人達は皆、慣れぬ旅路に些か疲労が溜まっているようだった。

 アンジェリカとコレットの童女二人は、タチアナとゲルベルトの年長者二人に其々抱きかかえられて居眠りをしている。

 他の少年少女達も、地面にへたり込んでいた。

 普段ならば、無駄に元気を振り撒いて走り回るマクシムでさえ、大人しく座り込んでいる。尤も首と眼だけは忙しなく、キョロキョロと動かしていたが。


「そいで、テイルザーン君。此れから、どーするん?」

「え? どうって?」

「ナゴヤから此処に来た皆は、言わば自分について来たんやん?」


 レオ丸の言葉に、虎千代THEミュラー、レディ=ブロッサム、志摩楼藤村、大アルカナのぜろ番、ブラック下田、DRAGOON-ww2達、ソロの冒険者達が生真面目な表情で頷く。


「<TABLE TALKERS>の皆も、そうやろ?」


 頭文字ファンブルを筆頭に、†ばる・きりー†、森之宮showYa、ホウトウシゲン、トリリンドル・オーヤマの五人も笑顔を見せた。


「便宜上、私が率いる形になっているが、本来のリーダーは私ではない。

 マリユス、此れより先はお前が決めろ」


 名前を呼ばれた<暗殺者(アサシン)>は、アンリ、ギュエス、ミシェル、エアリアル、ファンティーヌ、遼河春姫、フロワ・ブリズ=メイヨを従え、一歩前へ進み出る。


「私達は彼ら、タチアナ嬢達と共にアキバへ行きたい。

 ですが、私達だけでは彼らの身を護りながら移動する事は、心許ない。

 出来れば、私達と共に彼らを護り、アキバまで連れて行ってくれませんか?」

「って、事や。あ、因みにワシはリーダー気質なんざ、此れまでも此れからも持ち合わせてなんかいないから、な。

 もし万が一にも持ち合わせていたら、……今頃、ミスハさんを横に侍らせて、ナカルナードとゼルデュスを顎で扱き使って、ミナミの街に君臨しとるさかいに♪」


 愉しそうに笑いながら、レオ丸はテイルザーンの背中をポンと叩いた。

 強引な展開で背中を押され、全てを押しつけられたテイルザーンは、空を仰ぎ、首を垂れて、両手を腰に当てて大きく息を吐く。


「……アキバまでの、暫定ですよ?」

「ハイ! オッケーを頂戴しました! 皆さん、其れで宜しいな?」


 応! と唱和する冒険者達。


「ほな、改めて。此れからどないするん、リーダー?」


 半分恨めしそうに、半分諦めの境地でレオ丸を睨んでから、テイルザーンはグルリと周囲を見渡した。


「マリユス達は大地人(かれら)の安全確保を第一にし、此の場に待機。

 <TABLE TALKERS>の面々には、三十分の休憩の後、アキバまでの道筋と状況の確認を頼む。

 他の者は、食料と宿の確保を」


 暫定リーダーの命令を受けたソロ・プレイヤー達は、素早く立ち上がりヨコハマの町に散って行く。

 其の姿を見送ってから、テイルザーンは同時通訳機能がなければ意志の疎通が図れぬ三人の冒険者に、顔を向けた。


「あー、えーっと、そのー、自分らは……」

「私も一緒にアキバまで連れて行って欲しい」


 相手が外国人である事を妙に意識してしまったのか、呂律が回らぬ口調となったテイルザーンの質問に、ロシア・サーバからの(まれびと)であるリルルが明確な意思表明をする。


「私達は此処、ヨコハマの町屁へ来るのが目的でしたので、此処で失礼させて戴きます。

 同行させて戴き有難うございました。

 虽然我们相隔很远、但希望我们的友情永远不变」


 典麗な仕草で頭を下げた<道士>が、たおやかな立ち振る舞いでレオ丸達に背を向けた。

 無骨な出で立ちの<武侠>は軽く目礼だけをして、後を追うように歩み去る。

 余韻も名残りもなく街角に消えて行く、レンインとズァンロン。

 レオ丸達は、中国サーバからの来訪者の背へ肩を竦めながら手を振り、静かに別れを告げたのだった。


「……さて、と。ワシはちょっくら昼寝でもして来るわ」


 そう言いながら、<獅子女(スフィンクス)>に再び跨るレオ丸。


「夕暮れ時分には戻って来るし♪」


 契約主を乗せた契約従者は、レンイン達が去った方とは反対方向、町の出口側へと首を廻らしサッサと歩み出す。

 右手をヒラヒラと左右に動かし続けるレオ丸の後姿を、テイルザーンとミスハ、其の他大勢の者達は、呆れ果てた目で見送った。

 全く勝手な人だ、と溜息をつきながら。



 町から出て間もなく。

 アヤカOの背中から滑り降りたレオ丸は、四肢を折り畳み地に伏したスフィンクスに上体を預けた。

 両足を投げ出した姿勢でフレンドリストを展開し、此の世界(セルデシア)で一番気が置けない相手の名前を選び出す。

 質問するためでも情報を求めるためでもなく、ただ純粋に会話をしたいがためだけに、レオ丸は念話をかけた。


「Como esta usted、エンちゃん?」

「こ、こも、こも?」


 戦力ではなく戦闘力に特化した<黒剣騎士団>、其の突破力の象徴である冒険者。

 <黒剣の一番槍>の二つ名で称せられるエンクルマは、唐突にスペイン語を投げつけられ舌をもつれさせた。

 相変わらずのリアクションに、レオ丸は朗らかな声を上げる。


「はっはっはー! “ロボットはロボットらしく、ロボットの誇りをもって生きるんだ!”のルールに従い、冒険者は冒険者らしく冒険者の誇りをもって今日も生きとるかい?」

何故(なし)、ロボットな刑事さんなん!?」

「まぁまぁ、其れはさておき。其の後は如何お過ごしやね?」

「今は問題は、なかです」

「って事は、あれから色々あったんやなl、そっちも」

「あったです」


 アキバの街を吹き荒れた、変革の嵐。

 冒険者を殺す冒険者達と其れを更に殺す事、味のある料理の登場、レベルの上限が90ではなくなった事が起因して起こった仲間割れ、<円卓会議>の成立、時間の経過がもたらした仲間との和解。

 難産の末に生まれ出た秩序と、日々生み出される様々な発明と発見。

 目まぐるしく変わり続ける日常に、追いつき追い越せと奮闘するも、追われ続ける事に些か苦労している事。

 だが其れも、ゲーム時代から変わらずにいるギルマスと、肩を並べて共に立つ者達が居る事で、以前よりは笑いながら過ごせるようになっている事。

 彼方此方へと脱線しながらも、訥々と語るエンクルマ。

 レオ丸は時々に相槌を打つだけで、年少の友人の言葉に黙って耳を傾けた。


「処で、レオ丸兄やんはどげんしとるとです? 今はどの辺に?」

「野暮用をこなしながらの移動やさかいに、そーさなー、ナゴヤから丸一日分アキバに近づいた辺りかな?」

「まだ、ばっさかかりそうな感じなん?」

「せやね、まぁ秋風が吹く頃には、アキバに到着したいもんやね。

 其れはさておき。

 エンちゃんも色々と苦労を重ねたモンやねぇ……大丈夫かい?」

「膝ばついて挫けとっても、しょんなかですけん。

 しょんないばってん……たぁ~まに挫けて、ちゃっちゃくちゃらにもなります。

 儂は何ば支えにして、此処で生きてきゃ良かろうかち……」

「基本指令第一条、公共への奉仕! 第二条、弱者の保護! 第三条、法の遵守!」

「??? ……何ね? いきなり!?」

「ハリウッド謹製のロボットな警官が遵守すべき、基本三条やわ。

 ……対バイオロン法よりも簡潔やし、平和的やろ?」

「……ジャンパー着た奴よか、おっかない方ね?」

「さて、真面目な話をするとやな」

「はい」

「ある人の言葉を、ちょいと引用させてもらったらば。

 “怪獣は憎しみ、悪い心、汚れた気持ち、憎しみ、疑い、そう言う物が寄り集まって出てくるんです。

 今の世の中には醜い心、悪い心が満ち溢れています。

 先ず、怪獣の根本を叩き潰さねば、子供達の中にも、此のまま育っていけば怪獣になってしまうような子供が一杯いるんです”ってな感じやん、今って?」

「? どういう事なん?」

「だからこそ、な。

 “優しさを失わないでくれ。弱い者を労わり、互いに助け合い、何処の国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。

 例え其の気持ちが何百回裏切られようと。其れが私の最後の願いだ”!」

「……ヴィーやんも似たげな事を、昔云いよったような。……誰ん言葉なんです?」

80(エイティ)先生とA(エース)やけど?」

「……儂の知っちょる腕利き古株の<召喚術師(サモナー)>ちゃ、何でこげん特撮が好きかね……ほんなごつ………」

「まぁ、変身も巨大化も出来ひんでも、“なんちゃら光線”やら“うんちゃら斬り”やらと好き放題に必殺技が繰り出せる、子供の頃に憧れてたヒーローごっこの毎日やん、今のワシらは。

 折角、ヒーローをやってるんやしさぁ、弱音を吐いてばかりやったら滅茶苦茶カッコ悪いさかいに、な。

 ワシも頑張るし、エンちゃんも案じようお気張りやす」

「うぃ、了解ばい」

「ま、ワシがそっちに着いた時に自分が弛んでるようやったら、採石場に連れ出して特訓したるさかいに♪」

「お言葉ば返させてもろうてよかなら、レオ丸兄やんこそずんだれとったら、ジープで追っかけ廻しますけんね!」

「えっ!? 何でや!?」

「地獄ん特訓ば受けるのんは、……“レオ”だって相場が決まっちょりますから!」

「ああ、確かに!」


 空元気でも元気とばかりに、互いを励ますように明るい声で、高らかに腹の底から大笑いする、レオ丸とエンクルマ。


「そんだらば、また」

「はいな、またな」


 念話を終えたレオ丸は口を閉じ、暫し静寂の世界に身を置いた。



 身動ぎ一つせず、レオ丸が沈黙を続けたのは大体、三十分ほどか。


「さて、と」


 背筋を伸ばし、緩やかに足を組んだレオ丸は、右手を宙に踊らせる。

 ステータス画面に表示された数え切れぬ名前の一覧から、一人の名前を瞬時に探し出した。


「あ、もしもし、御前さん。お待たせ致しました」


 切り出したレオ丸の台詞を受ける暇もなく、直ぐに会話を始めようとする朝霧。

 其の声には以前のような“余裕”が些か欠けていると、レオ丸は感じた。

 口調や音調ではなく、雰囲気からの推察であったが。


「……そうですなぁ。アキバの近況に関しては、ワシもチョコチョコと聞いてますさかいに……サナエさんからとか。

 凡その流れは知ってますけど……御前さんも裏で一枚噛んでましたんか。

 ……流石っちゅうか、何と言うか、驚いてエエやら、素直に感心したらエエやらですなぁ」

「……アキバ内外の<冒険者>と<大地人>に知られない様に、徹底した情報管理と隠密行動を心がけていましたからね」

「ははははは……、いやはや何とも感心感服致します。

 御前さんを敵に回したらアカンって事を、改めて肝に銘じさせてもらいますわ」

「いえいえ。私としては、レオ丸法師も敵に回したくない方です」

「其れ……で? 念話越しに送ってこられる空気やと、単なる世間話をするためだけに、連絡してきはったんと違いますやろ?」

「……流石は法師。

 察しが早くて助かります。

 ……実は、法師の知恵をお借りしたくて連絡を致しました。」


 朝霧の声のトーンが、ほんの少しだけ改まったのを感じたレオ丸は、居住まいを正し拝聴のモードへと思考を切り替える。

 至極丁寧に語られた事情は、レオ丸が予想していた内容から其れほど逸脱したものではなかったが、範囲は全く重ならぬものであった。


「──という訳で。

 後輩のいる<テンプルサイドの街>を<ミナミ>の…<Plant hwyaden>の魔の手から守りたいのです」


 <テンプルサイド>。

 うっかりとスルーしてしまっていた其の地名が、レオ丸の脳裏に固定されていたシブヤの三文字を上書きし、激しく明滅する。

 レオ丸が散々に考えた末の結論は、大外れだった。

 崩された思考を再構築させながらの台詞は、当たり前の事ながらシドロモドロとなる。


「おお、あー、うん、えーっと、まぁ、オッケーにて候。

 想定にミステイクが生じましたけど、状況は十二分に飲み込めました。

 ……って事は、御前さんの情報網にはミナミの様々な事、♪ 小さいものから大きなものまで ♪、やっぱりキッチリと引っかかってましたんやな」

「……<大災害>当日、<共鳴の絆>の盟友や知人等が数人程いましたから。

 法師が企画して、裏で動いていらした<ウメシン・ダンジョン・トライアル>の事や<スザクモンの鬼祭り>対策に<赤封狐火の砦(ファイアフォックス・キープ)>に<冒険者>の駐屯軍を配備されたのも、彼らから聞き及んでおります。

 ……そして、<ミナミ>を思われて動かれていた法師の行いを……<Plant hwyaden>が<ミナミ>統治に悪用した事も」

「ははははは……こいつぁ、何ともお恥かしい事で。

 御前さん優しい言うてくれたけど、ワシはワシ自身がしたい事をしただけで。

 結果としては、一つ勝って、一つ引き分けて、……一つボロ負けしただけの事やさかいに。

 ……まぁ、今となっては過ぎた事やし、盆に帰らぬ覆水ですわ。

 其れに、地面に零れて泥水になってしもうたとしても、濾過すりゃ何とか飲めるもんでっせ♪」


 何処か湿り気を帯びた朝霧の言葉を、レオ丸はカラカラと乾いた笑い声で軽く往なした。

 親しい者を深く思いやる優しい心根の持ち主が、言外に伝えた哀情の念。

 其れを恭しく受け取れるほどに素直でもなく、かと言って無碍に出来るほどにひねてもいないレオ丸は、笑い往なす事で会話を軟着陸させる。


「ワシの事は、もう宜しいやん。横に置いときましょ。

 さてさて其れより、御前さんのお話の続きや。

 つまり……、テンプルサイドをガッチリ護るにはどうしたらエエか? ……ですやんなー。

 警備員(ぼうけんしゃ)をズラッと並べて、始終張り番をさせる訳にはいきませんし、なぁ。

 張り番させる手立ては、御前さんの事やから既に考えた後やろうし。

 其の上での御下問ですもんねぇ。

 ……後生大事に金庫へと仕舞い込むにしては、町ひとつ(テンプルサイド)はちょいとデカ過ぎますしねぇ。

 光子力な研究所みたいに障壁(バリア)を張る……いやいや、あんなパリーンって音を立てて割れるような、しょぼい防壁を張っても意味ないし。

 ん? ……いや待てよ。

 障壁(バリア)は無理でも、結界(キープアウト)なら出来るんと違うやろか?

 もしかしたら……魔法を“でっち上げ”れたら。

 ワシが仕掛けた“反則技”を拡大再生産出来たら……もしかして?」

「……何ですか、其れは?

 ……法師は、何かをなされたのですか?」


 脳内に響く朝霧の詰問気味の問いかけに、口を三日月形にするレオ丸。


「そいつぁ秘事にて、御前さんにも詳しくは話せまへんねん。

 どうか堪忍しとくんなはれ。

 其れに、ワシが既にした事が、其方の事情にピッタリ符合するとも思えませんし……。

 ですけども。

 どんな魔法かは説明させてもらいますよってに、何卒ご安心下さいな。

 ほな、用法要領を言いますさかいに、メモの御用意を♪」


 今回も、或未品様の御作とのコラボの続きでもありますので、タチアナ嬢達に御出演戴いております。

 そして。

 読んでいるだけの人様の御作からは、ユーリアス氏とバイカル氏を。

 島村不二郎様の御作からは、カズミ嬢、タケヒコ氏、リエ嬢を。

 淡海いさな様の御作からは、赤羽玄翁氏と樹里・グリーンフィンガース嬢を。

 或未品様の御作からは、エルヴィン氏を。

 プロ作家として大きな足跡を残されました、山本ヤマネ様の御作からは、ユウタ氏を。

 水煙管様の御作からは、ナーサリー氏を。

 にゃあ様の御作からは、桜童子にゃあ氏を。

 佐竹三郎様の御作からは、ヘルメス嬢とエンクルマ氏を。

 kirry様の御作からは、キリー嬢とrei君を。

 妄想屋様の御作からは、サナエ嬢を。

 其々、御名前をお借り致しました。事後報告にて誠に申し訳ございません。不都合がございますれば直ちに善処致します。


 今回も、佐竹三郎様には、エンクルマ氏の台詞監修をして戴きました。重ね重ね感謝申し上げます。

 感謝の言葉は、様々な形にて御支援御協力下さいます、全ての皆様方にも申し述べさせて戴きます。

 誠に、Я очень вам благодарен. Спасибо.


 さて、レオ丸と朝霧御前さんとの遣り取りは、まだまだ続きます。今暫く宜しく御付き合い下さいませ(平身低頭)。

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